一斉休校の渦中、渋谷区立西原小学校がオンライン学習継続で驚異的成果を挙げている

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「渋谷区立西原小学校 HP」より

新型コロナウイルスによる肺炎の拡大予防措置として、全国の小中高等学校などで一斉休校措置が取られている。実施期間など対応は地域によってまちまちのようだが、急に子どもたちが自宅待機になって、その対応に頭の痛い保護者も多いのではないだろうか。しかし、この窮状に対応すべく、ネット上ではさまざまな支援の動きが起きている。また、教育現場にも思わぬ変化をもたらしているようだ。そこから見えてきたことは?

コロナウイルス対策で一斉休校でも学びを止めない

安倍首相による全国小中高校の一斉休校要請を受けて、すぐに反応したのが、経済産業省教育産業室。新型コロナウイルス感染症対策「学びを止めない未来の教室」というサイトを立ち上げた。

そこに掲載されているのが浅野室長の以下のメッセージだ。

Edtechとは、教育(Education)× テクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、教育領域にイノベーションを起こすビジネス、サービス、スタートアップ企業などの総称。文部科学省が、2020年からの教育改革を掲げて、大学入試改革や学習指導要領の改定を行う一方で、経産省は管轄の民間教育や産業界に働きかけ、2018年1月から有識者会議として「未来の教室」とEdTech研究会を立ち上げ、教育にテクノロジーを組み合わせることで、未来を見通しにくい時代を生きる子どもたち一人ひとりが、未来を創る当事者(チェンジメイカー)に育つための教育イノベーションを起こそうと、「個別最適化」というキーワードを掲げて、さまざまな実証事業を行ってきた。

そんななかでの一斉休校という事態に、今こそEdtechが活かせる機会ということで、いち早くまとめサイトをつくった。

学びを止めない未来の教室

動画授業やコンテンツの無料配信相次ぐ

日を追うごとに、サイトに掲載される事業者や団体が増えており、個人や学校向けに、学習塾や教育関連企業や団体が、学習教材や動画講義、学校関係者のためのコミュニケーションツールなどを無料で提供している。追随するように、文部科学省も臨時休業期間における学習支援コンテンツポータルサイト(子供の学び応援サイト)を立ち上げた。

こちらは主に学習教材の紹介が多い印象だが、ちょっと使いづらい。

ほかにも、自宅で過ごす子どもたちの居場所つくりやストレスケア、何から初めていいかわからない子どもがやりたいことを見つけるためのオンラインコーチング、預かりサービスなど、学習コンテンツ以外のサービスの提供もさまざま始まっている。

オンラインで居場所つくりを始めたNPO法人カタリバのカタリバオンラインには、3日間で200名の子どもたちの登録があり、スタッフは子どもだけで自宅で過ごす参加者の対応に追われているという。

子どもの好奇心に応え、興味を開発する学習ツール

筆者もいくつかのオンラインサービスを体験してみた。

その一つが以前この連載でも紹介した宝槻泰伸氏が代表を務める「探究学舎」が提供する無料オンライン授業だ。「好きなことを仕事にして人類を前進させよう」という熱いメッセージとともに始まったライブ授業。この日のテーマは偉人シリーズ第一弾、スティーブ・ジョブズ。初日は約5000人がライブで視聴をしていた。録画ビデオも公開されていて、すでに5万9000回以上視聴されている(3月6日現在)。

もう一つがNPO法人 Asuka Academyが提供するサイエンス動画教材「MIT+K12ビデオ」

MIT(米マサチューセッツ工科大学)が中高校生向けに提供するサイエンス動画教材が無償で視聴できる。内容は物理、化学、生物、電気などのほか、デザイン、ニュークリアサイエンス、Science Out Loud(先進科学詰め合わせ)の分野にまたがり、子どもたちの質問にMITの研究者が答える「MITに聞いてみよう」や、「楽しい科学実験」など、最先端の科学やテクノロジーがわかりやすく解説されている動画で、しかも同じ年齢層の外国の子どもたちが登場するので、子どもたちにとっては、2重の意味で刺激になるのではないだろうか。すべて日本語・英語字幕付きで、英語学習にもなる。

どちらも、子どもたちの「知りたい!学びたい!」という好奇心に火をつける燃料のような役割を果たしている。こうしたサービスを上手に活用できれば、家に閉じこもって暇を持て余す子どもたちが、学びの楽しさに目覚めるきっかけにもなるのではないだろうか。

スマートスクール開講宣言をした公立小学校

では、学校教育のなかでEdtechはどのように活かされているのだろうか。2017年9月から区内全小中学校の生徒にタブレット端末を貸与している渋谷区で、今回の休校措置を受けていち早く「スマートスクール開講宣言」をした、渋谷区立西原小学校の手代木英明校長に取材をした。

当然のことながら現在休校中の西原小学校だが、毎日オンライン学習が続けられている。活用されているのは、先生と子どもたちをつなげる渋谷区学習ファイルサーバーとコラボノートという協働学習システムだ。

子どもたちは、毎朝サーバー内にある「せんせいからもらう」というフォルダの中に配信される課題に取り組み、できたノートや作品、解答を記入したテストを写真に撮ったり、データを「せんせいにわたす」というフォルダに入れると担任に届くという仕組みだ。

こうした個人学習とは別に、3年生以上はコラボノートという協働学習ツールも活用している。これは模造紙に付箋を貼り付けて協働作業をするイメージ。バーチャルの模造紙に自分の意見を書き込んだり、友達の進捗を見たりできるので、自宅にいても友達や先生と一緒に勉強している感覚が持てる。休校によって消化できなかった学習も、こうした仕組を活用することで進めることができるし、先生もタブレットを自宅に持ち帰って作業することができるので、余裕を持って対応ができるのもメリットだ。急に決まった休校措置が始まった初日、今後の対応に追われる先生は、子どもたちから届く終わった課題を撮影した写真や「元気ですよ!」というメッセージに、逆に元気をもらったという。

西原小学校だより

オンラインの環境で、隠れていた才能が引き出される

コロナ対策で休校という非常事態にもスムーズに対応ができたのは、これまでの取り組みがあったからだろう。西原小学校は情報教育推進校にも指定されているが、手代木校長は6年前からプログラミング教育に取り組んできた。そこに区内の公立小中学校へ通う児童生徒に対し、一人一台のタブレット端末を貸与するという渋谷区の英断があり、2年半かけて学校教育のなかでICTの活用を進めてきたという経緯があるのだ。

そんな経験を積み重ねてきた手代木校長は、「今回の休校措置で、スマートスクールを開講したメリットはとても大きい」と言う。それは、単純にICTの活用が学校運営や生徒の学習停滞を防いだという意味ではない。

「オンラインの環境ではみんなが平等で、みんなの前で発言するのが苦手な子が、ネット上なら積極的に発言ができたり、休みがちだった子が実力を発揮したり、従来の一斉授業では隠れていた生徒の才能が表れていて驚いている」(手代木校長)

また、従来自分の教室の中で完結しがちな教員が、情報を共有しながら対応にあたっているので、ベテランと若手教員の格差も縮まり、それぞれが力を発揮し合うことができているのもメリットのようだ。

今回の一斉休校措置については賛否両論だが、これをきっかけにEdtechによる新しい教育の可能性が、多くの人々に認知される機会になるのは確かなようだ。

2020年度からの大学入試改革の先送りを受けて、文科省が主導する教育改革にブレーキが掛かった感が否めないが、今回のコロナウイルス対策による一斉休校で、多くの家庭や学校がEdtechサービスを活用することで、学校で学ぶ意味や目的を見直し、誰もが教育を受ける機会を妨げられない「未来の学校」をともに模索するいい機会になるのではないだろうか。

災い転じて福となることを祈ってやまない。

(文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表)

●中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表

教育機関の取材やインタビュー経験が豊富で、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆。子育て中の女性に寄り添う視点に定評があり、テレビやラジオなどでもコメントを求められることも多い。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱し、講演活動も精力的に行っている。また、人材育成のプロジェクトである子育てをハッピーにしたいと、母親のための発見と成長の場「マザークエスト」を立ち上げて活動中。『一歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『後悔しない中学受験』(晶文社出版)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)など著書多数。ビジネスジャーナルで「中曽根陽子の教育最前線」を連載中。

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