新型コロナウイルスまん延危機——ギリシャの難民キャンプから早急に人びとの退避を

国境なき医師団(MSF)は3月12日、ギリシャの島々にある不衛生な難民キャンプに足止めされている人びとは、新型コロナウイルスに感染する危険が非常に高く、早急にキャンプから避難させ、適切な居住地に移送するべきだとする声明を発表した。 

モリアの難民キャンプで5人家族がひとつのテントで暮らす=2019年撮影 🄫 Anna Pantelia/MSF

モリアの難民キャンプで5人家族がひとつのテントで暮らす=2019年撮影 🄫 Anna Pantelia/MSF

ウイルスまん延の危機にある不衛生な難民キャンプ

ギリシャへの入国地点にある難民キャンプでは、衛生設備と医療施設が大幅に不足しており、キャンプに住む人びとがウイルスにさらされた場合、感染が広まる恐れが非常に強い。3月2週目の前半、レスボス島で初めて地元市民の新型コロナウイルスへの感染が確認され、難民キャンプから人びとの退避が喫緊の課題となっている。

ギリシャでMSFの医療コーディネーターを務めるヒルデ・フォクテン医師は「モリアの難民キャンプの中には、1300人に一つしか水道の蛇口がなく、石けんがない所もあります。家族5~6人が3平方メートルに満たない面積で寝起きしており、こまめな手洗いや人から距離をとってウイルスのまん延を防ぐことが不可能な状態です」と話す。

現在、4万2000人の庇護希望者がギリシャの入国地点にあたる難民キャンプに足止めされている。世界中で、各国政府がイベントを中止し、大規模集会を禁止しているが、ギリシャの島々にあるキャンプの住民は、互いに至近距離で暮らすほかないのが現状だ。このキャンプ住民にとって、新型コロナウイルスは新たな脅威であり、他のギリシャ国民よりも切迫した危機に瀕している。
 

感染が広がる前に早急な対策を

モリアの小児科クリニックで診察するMSFの医師。たくさんの子どもたちが劣悪な環境に起因する病気で受診する=2019年撮影 🄫 Anna Pantelia/MSF

モリアの小児科クリニックで診察するMSFの医師。たくさんの子どもたちが劣悪な環境に起因する病気で受診する=2019年撮影 🄫 Anna Pantelia/MSF

「MSFはギリシャの疾病対策センターとコンタクトを取り、健康情報や症例管理法の共有を含む、現地の住民と庇護希望者の感染対策を模索しています。しかし現実的に考えて、レスボス島、キオス島、サモス島、レロス島、コス島にあるキャンプの中で、流行を食い止めるのは不可能です。これまでのところ、キャンプ内での感染抑制や治療に関する緊急時の対応計画は発表されていません」とフォクテン医師は話す。

ギリシャの医療当局は、早急に新型コロナウイルスの感染予防・制御策、健康教育、迅速な症例発見方法、中等症例の隔離・管理、重症例の治療などを含めた対策を実施すべきだが、まだ対応策が整わない現状においては、難民キャンプから人びとの退避が最優先事項である。欧州の「封じ込め政策」の一環として地中海を渡って来る人びとを難民キャンプに押し留めたのは無責任な措置だが、ウイルスが蔓延する中で、これらの人びとの健康を守る対策を講じないのは、犯罪に近いとMSFは訴える。

病気から身を守る手段もないまま、人びとを超満員のキャンプに留め置くことはとても容認できない。手遅れになる前に、一刻も早く庇護希望者を適切な居住地に移送することが、ギリシャ政府とEU加盟国に求められている。
 

MSFは1996年にギリシャで活動を開始。庇護希望者と移民を対象とした医療・人道援助を実施している。2014年にギリシャでの活動を拡充し、トルコからギリシャ諸島と本土に来る庇護希望者、難民、移民とニーズの増加に対応。現在、MSFはレスボス島、サモス島と首都アテネで活動している。 

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