期待され続け7年目 鷹・上林、覚醒へ胸中激白「バリバリやってなきゃおかしい」

ソフトバンク・上林誠知【写真:福谷佑介】

12月末に周囲を騒がせた異例の文書での契約更改となった真相は…

 バレンティンの加入で競争がさらに激化しているソフトバンクの外野手争い。その中で虎視淡々とレギュラーの座を狙う男がいる。ファンからの人気も期待も高い、上林誠知外野手だ。昨季は右手甲の骨折もあり、不本意な1年に終わっただけに、今季に賭ける思いは人一倍強い。

 2月1日から行ってきた宮崎での春季キャンプでは連日、フォームを試行錯誤しながら、バットを振り込む上林の姿があった。しっかりと“間”を作るためにスローボールを打ち返す練習を数多くこなしていた。キャンプ終盤には風邪による発熱があり離脱。ファームでの出直しを強いられたものの、13日のオープン戦から1軍に戻ってきた。

 復帰1打席目で左翼フェンス直撃の二塁打を放つと、翌14日には2安打と快音を響かせた。走塁面でも好走塁を見せ、出遅れた分を取り返そうと、走攻守で懸命にアピール。「目立って自分を使った方が試合に勝てるという印象を与えないといけない。全ての面で、守備もそう、足もそう、打撃もそう。コイツを使ったらいい流れが来ると思わせたい」と語る口調には熱がこもった。

 レギュラー定着を期待され、今季が7年目。2018年には143試合に出場して22本塁打を放ち、右翼のポジションを確固たるものにしたかに思われた。だが、昨季序盤に右手甲に死球を受けて骨折。当初は打撲と診断され、痛みを押してプレーを続けたが、その痛みによって打撃が崩された。99試合で打率.194と不本意な結果に終わり、手にしかかっていたレギュラーの座は遠のいていった。

変えたバッティングへの考え方「とにかく多く安打を打つ」

 復活を期す今季は、まずバッティングの考え方を変えた。一発を追い求めるのではなく、強い打球で野手の間を抜く。そして、その延長線に本塁打がある。その究極形として、尊敬して止まない存在である「イチローさん」と掲げる。

 ただ、ただ単に“ヒット”を追い求めるわけではない。「ヒットではなくて“安打”ですね。ヒットばっかりを狙うとバッティングが小ちゃくなっちゃう。そういうつもりはないんです。ホームランも二塁打も単打も、安打には変わらない。とにかく多く安打を打つということです」。

 ヒット欲しさにコツコツと単打を狙いにいくような、バッティングを小さくするつもりは毛頭ない。「ボールに当てにいくようなことはしないです。長所を消しちゃいけないんで」。とにかく間を抜けるような力強い打球を常に目指す。その結果として二塁打や三塁打、本塁打があり、そして単打もある。それをひっくるめて“安打”をたくさん打つ、そういうイメージだ。

 その上林、昨年12月には、ちょっとしたことで周囲を騒がせることがあった。球団と直接の契約更改交渉を行わず、文書での契約更改となったのだ。異例の事態には批判的な声が上がったのも事実だ。

12月は米国でトレーニング、球団側の配慮で文書で契約更改を済ませる形に

 この時、上林は米国に滞在していた。米国のトレーニング施設で復活を期すシーズンに向けてトレーニングに励んでいた。「10日間くらいしか行っていないので、それで何がどう変わるということはないと思います。ただ、あっちの空気に触れたかったのが1番の理由。メジャーリーグの空気、アメリカという国の空気、そういうものに触れたかったんです」。

 ちょうどこの渡米していた期間と、球団から提案された契約更改交渉の時期が被ってしまった。上林は契約更改のために帰国することを考えたが、トレーニングを重視した球団から無理に帰国する必要はないと配慮された。その結果、文書での契約更改という異例の形になってしまった。

 さらに米国から帰国した後は、鹿児島にある鹿屋体大で自主トレを続けた。そこではトレーニングに励むと同時に「自分の体のことを勉強しました」という。大学の施設で自身の身体を計測。その中では、左足よりも右足の使い方が上手くできていない、などの自身の身体的な特徴などを把握することができたという。

 米国でのトレーニング合宿も鹿児島での自主トレも「たまたまタイミングがそうなった」とは言うが、やはり今季に賭ける思いは強い。「今年はやるしかない。もう25歳なんで、もう全然若手じゃない。バリバリでやってなきゃおかしい歳なので」。2013年のドラフト4位で入団し、はや7年目。上林は「危機感」ではなく「使命感」だとも語った。

 キャンプ中は連日、朝から晩までバットを振り続け、まさに“野球漬け”の日々を過ごしていた上林。ホテルに帰っても、オフの日も、頭の中は野球のことばかり。「野球のことを考えるのが趣味みたいなものですね。これといった趣味はないんですけど、そういうのを考えるのが趣味ですね」と語る。期待しているファンは数多い。その期待に応える、上林の2020年の覚醒を期待したい。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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