好調伊藤美誠を破った世界ランク1位・陳夢の「堅実な戦術」

写真:伊藤美誠/提供:ittfworld

白熱した試合をラリーズ独自の視点で振り返る、【シリーズ・徹底分析】。

先日行われた卓球・カタールオープン女子シングルス決勝は、伊藤美誠(スターツ)と陳夢(チェンムン・中国)の対戦が実現した。

この大会、伊藤は準決勝でリオ五輪金メダルの丁寧(ディンニン・中国)を4-0で破るなど、先月のハンガリーオープン優勝に続き、勢いに乗っていた。

決勝の舞台においても、第1ゲームを先取し、勢いのまま試合を優勢に進めていくかに思えた。しかし、第2ゲーム以降は4ゲームを連取され、惜しくも2大会連続の優勝とはならなかった。

勢いに乗る伊藤を抑え優勝を果たした陳夢。そこにはどんな戦術があったのか。サービス、レシーブ、ラリーの3つの観点から見ていきたい。

2020ITTFワールドツアー・カタールオープン決勝:伊藤美誠vs陳夢

詳細スコア

伊藤美誠 1-4 〇陳夢(中国)
11-3/7-11/9-11/7-11/7-11

1.下回転のショートサービスからの組み立て

図:下回転のショートサービスからの組み立て/作成:ラリーズ編集部

第1ゲームにおいて陳夢はバックサイドからのロングサービスやフォアサイドからのサービスなど、様々なサービスからの展開を試していたが、第2ゲーム以降は強烈な下回転のかかったショートサービスを中心にゲームを組み立てるようにしていた

伊藤の長所の一つに、チキータや逆チキータをはじめとするレシーブのバリエーションの多さがある。この多彩なレシーブから、相手の3球目の的を絞らせず、ラリーの主導権を握るパターンが多いが、強烈な下回転のかかったサービスに対しては、そういった変化系のレシーブをすることは意外と難しい

加えて、バックサイドだけでなく、ミドルからフォアにかけても幅広くショートサービスを出すことで的を絞らせず、伊藤のレシーブをツッツキやストップといったシンプルなレシーブに限定することに成功していた

これにより、陳夢は次の3球目をしっかりと回転をかけたドライブを打つことなどに繋げ、ラリーの主導権を握ることができた。

2.ラリーに主眼を置いたレシーブ

写真:陳夢/提供:ittfworld

次に、レシーブの観点だ。試合の序盤、陳夢は伊藤のサービスに対するレシーブミスが目立った。巻き込みサービスに代表される伊藤のサービスは回転の分かりづらさに定評があり、トップ選手でもゲーム終盤までレシーブに苦労することが多い。

そのサービスに対して、陳夢は打点を落としてでも安定したレシーブを送ることを優先し、台から出たサービスに対しては、しっかり回転をかけて返球することで、レシーブミスのリスクを抑えた

卓球は相手の時間を奪うことが重要なスポーツであるため、打点を落とすことは相手に有利に働くことが多い。打点を早くしたり、強気なレシーブを狙うことで自分に有利な展開に持ち込むことが望ましい一方で、回転を見極める時間も減ってしまうため、ミスをするリスクが高まる。表裏一体の関係にあると言って良い。

陳夢は伊藤からの3球目攻撃のリスクを考えながらも、まずは安定してレシーブを返すことを選択した。そして、台から少し距離を取り、伊藤の3球目攻撃に備えるようにしていた。

写真:陳夢/提供:ittfworld

加えて、この「3球目攻撃への備え」について、万全の体勢で待たれている様子や雰囲気というのは、攻撃する側は想像以上にプレッシャーを受ける。それは、良い球を打たないといけないという力みなどにつながり、ミスをしてしまうことも多い。

この試合で言えば、第2ゲーム7-9の場面で、伊藤の巻き込みサービスを陳夢がツッツキで少し浮いたレシーブをしたのに対し、伊藤は2本連続でスマッシュミスをしてしまい、このゲームを落としている。伊藤らしくないミスに見えるが、そういったプレッシャーもミスの一因として考えられる。

3.バックハンドからのワイドな攻撃

図:バックハンドからのワイドな攻撃/作成:ラリーズ編集部

最後に、ラリーの観点だ。レシーブからの4球目への備えに限らず、この試合で陳夢は伊藤の前陣でのピッチの早さに対応するため、台から少し距離を取ってプレーをしていた。

伊藤が陳夢の強力なフォアハンドを防ぐため、陳夢のバックサイドを狙い、ラリーを進めようとしたのに対し、陳夢はバック対バックのラリーには持ち込まず、伊藤のミドルやフォアサイドへのストレート攻撃を多用していた。

写真:伊藤美誠/提供:ittfworld

そのうえで、バックサイドの厳しいコースにもボールを送ることで伊藤を左右に揺さぶるとともに、台から下げさせ、ラリーを優位に進めた。

伊藤はラリーが長引くと不利になるため、ラリー序盤でスマッシュを狙ったり、より厳しいコースを狙うなど、リスクの高い攻め方をせざるを得ないようになり、少しずつミスが増えていった。

まとめ

写真:陳夢/提供:ittfworld

丁寧を破り、ワールドツアー2大会連続優勝が期待された伊藤だが、陳夢の「堅実な戦術」を前に惜しくも阻まれる結果となった。

しかし、今大会を通じて、改めて確かな実力を世界に見せつけることができ、中国にとって脅威であることを再認識させることができたに違いない。

今大会の勝利も敗北も今後の試合に向けた糧とし、成長を続けていくであろう伊藤の活躍からますます目が離せない。

文:ラリーズ編集部

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