大量死の噂と消耗する体力…北朝鮮、新型コロナで「恐怖の作業場」

北朝鮮の金正恩党委員長は、国際社会の厳しい制裁を受ける中、国内で2つのメガプロジェクトを進めている。

ひとつは、「革命の聖地」である両江道(リャンガンド)の三池淵(サムジヨン)郡の建設工事だ。制裁による外貨不足で資材調達に困難を来していると伝えられるが、金正恩氏は、当初設定した工期の通り今年10月の朝鮮労働党創建75周年までの完成を命じている。

もうひとつは、「元山葛麻(ウォンサン・カルマ)海岸観光地区」の開発だ。昨年4月に行った建設現場の視察で金正恩氏は、「工事期間を6カ月間延長して来年の太陽節(金日成主席の誕生日)まで完璧に完成しよう」と延べ、工期延長を認めた。

大惨事の予感

北朝鮮の建設事業では、工期の前倒しが政府上層部などから指示されることはあっても、延長が公式に認められるのはごく珍しいことだ。しかも、それが最高指導者の口から発表されるのは異例中の異例である。

しかしそれだけに、改めて設定された工期は何が何でも死守されなければならない。そして、完成を厳命された太陽節は4月15日である。もう1カ月しか残っていないのだ。

元山葛麻の工事の進捗度合いがどれぐらいなのかは詳らかでないが、外貨と資材の不足に苦しんできたのは三池淵と同じだ。そして最近になり、そこに追い打ちをかけるようにさらなる大問題が重なった。新型コロナウイルスである。

北朝鮮は目下、国内で感染者が出たとは認めていない。しかしデイリーNKは北朝鮮軍の軍医局が3日、1〜2月に180人が死亡し、3700人を隔離しているとの情報を最高司令部に報告したとの内部情報を伝えた。

北朝鮮で建設工事を担うのは、軍の兵士や各機関から派遣された労働者たちである。新型コロナウイルスの感染情報は極秘事項だろうが、自分たちの命にかかわる問題だけに、噂を完全に遮断するのは難しい。

デイリーNKの現地消息筋は、「最近、労働者たちが最も不安なのは新型コロナウイルスへの感染だ。死者が出ているとの噂も回っている。工期を前にして作業ノルマが強化されている上に、マスクを着用して動かなければならないので息苦しく、体力の消耗が激しい。しかし恐ろしくて、マスクを外すこともできない」と語っている。

北朝鮮ではこれまでにも、無茶な工期のゴリ押しや安全対策の欠如により、貴重な人命が大量に失われてきた。

そこに新型コロナウイルスまでが加わり、惨事につながらないことを祈るばかりだ。

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