耐えて咲いた「玉之浦」

 庭先でヤブツバキの名花「玉之浦」が次々に開花している。筒咲きの赤い花びらに白い縁取り▲11年前、五島支局を離任するとき福江島の知人に苗を2本もらい、諫早の自宅敷地に植えた。1本は枯れたがもう1本は徐々に育ち、今年初めてこれほど多くの花を付けた▲「玉之浦」は幻のツバキと言われる。戦後しばらくして旧玉之浦町の山で、炭焼き職人が見つけた。その美しさから全国的に知られると原木の枝を持ち帰る人が絶えず、挿し木、接ぎ木で広まる一方、原木は枯れた。自生していた場所を愛好者らの団体が調べ、記念碑を建立したのは2004年▲翌年、五島市で全国椿サミットが開かれ、活発な研究交流などが行われた。島外参加者に「玉之浦」を紹介する誇らしげな島民の顔が思い出される▲今回、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、同市で予定していた国際ツバキ会議、全国椿サミットは中止になった。苦渋の選択だったと思うが、ツバキを愛する島民がいる限り、チャンスはきっとまたある▲県内で同ウイルスの感染が初確認された。感染の今後の状況、県民の暮らしや仕事、地域経済がどのように推移していくのか、まだ見通せない。国内外でも混乱が広がっている。じっと待って耐え忍び、かれんに咲いた「玉之浦」に力をもらいたい。(貴)

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