一年中履きっぱなしでも大丈夫|オールシーズンタイヤ「トーヨー セルシアス」試乗レポート

トーヨータイヤ オールシーズンタイヤ【セルシアス】

ヨーロッパで好評のオールシーズンタイヤ「トーヨー セルシアス」が日本上陸

トーヨータイヤが昨年8月から日本でも発売を開始したSUV向けオールシーズンタイヤのセルシアスは、ヨーロッパで人気の商品。実はこのところオールシーズンタイヤの日本導入を始めるタイヤメーカーが増えているのだ。その背景は昨今のSUV市場の盛り上がりに加え、気象状況の変化もある。年間の降雪量の増減が極端だったり、ふだん雪のあまり降らない東京などのエリアでも突然の大雪が降ったり、降雪地域で雪が少なかったりする。そんな想定外のお天気も「想定内」と捉えるのもけっしてオーバーではない今日この頃だ。そこでいつ降ってくるかわからない雪でも走行可能なオールシーズンタイヤで備えておいたらどうだろう。

トーヨータイヤ オールシーズンタイヤ【セルシアス】

厳密に言えばスタッドレスタイヤを推奨するエリアもある。が、オールシーズンタイヤはその名の通り、オールシーズンで履けるタイヤなのだ。今回は北海道・佐呂間にあるトーヨータイヤのテストコースでスタッドレスタイヤとの性能の違いを確認することができ、セルシアスそのものの実力を知ることができた。まだ日本ではちょっとなじみが薄いけれど、年中履きっぱなしでも大丈夫というタイヤのこと、知っておいても損はないでしょう?

SUVに適したオールシーズンタイヤを導入

そもそもトーヨータイヤの強みは、車種に適した専用タイヤ開発を積極的に行っているところ。SUV向け商品ラインナップも豊富だ。例えば北海道のような凍結路面や圧雪路面が想定される地域で冬タイヤとして推奨しているのはスタッドレスタイヤ。これにはウインタートランパスTXやオブザーブGSI-5などがあり、舗装路では夏タイヤのプロクセスシリーズ、舗装からオフロードでいけるオープンカントリーシリーズと、幅広いSUV向けタイヤのラインナップを持っている。セルシアスのような圧雪路面から舗装路面までをカバーするSUV向けオールシーズンタイヤはこれまで日本にはなく、しかも近年の不安定な気象状況を足下で支えてくれるタイヤもあっていいでしょ、というワケなのだ。

トーヨータイヤ オールシーズンタイヤ【セルシアス】

スノーフレークマークで性能も保証

トーヨータイヤ オールシーズンタイヤ【セルシアス】

商品コンセプトは「突然の降雪にも対応、全天候型オールシーズンタイヤ」。スタッドレスと同等の性能や使用を認められていて、タイヤの側面には“スノーフレークマーク”という欧州のレギュレーションで規定されているシビアスノーの要件を満たしていることを証明する刻印が打刻されているから安心だ(スタッドレスと同じくチェーン規制時についてはチェーン装着義務あり)。

ではオールシーズンタイヤを選ぶ人の乗り方ってどうだろう。SUVとはいえ走行シーンの中心は舗装路ではないか。オールシーズンタイヤのセルシアスは、安定したドライ/ウエット性能を確保しているという。しかも開発の舞台となった欧州ではアウトバーンでの200km/hオーバーの走行性能ではドライ路面はもちろん、この速度域でもハイドロプレーニング現象が起きないように造られているのだそうだ。

なぜ春夏秋冬すべての季節に対応できるのか?

トーヨータイヤ オールシーズンタイヤ【セルシアス】

そんなセルシアスの“オールシーズン”をカバーできる技術的な”理由“を紹介しよう。地面に接地するトレッド部分は、ボディ側=イン側はスノー走行を重視したパターンを採用。タイヤサイズによって多少異なるが、6:4くらいの割合でスノー重視側が多い印象だ。そこではまずスタッドレスタイヤのようなサイプを本数も多く採用し、雪を捉えるグリップ力を得て、主溝の内側をジグザグにしてスノートラクションを確保。

トーヨータイヤ オールシーズンタイヤ【セルシアス】
トーヨータイヤ オールシーズンタイヤ【セルシアス】

一方アウト側はドライ路面/ウエット路面性能を重視。見た目の印象もガラッと変わりサイプの本数は少なく、周方向の剛性を高めるリブのような形状を採用することで操縦安定性を、また高速走行でも高い接地性と剛性(しっかり)感を確保すべく溝の底にも補強ブロックがスタンバイする。

このようにしてタイヤの接地面のインとアウトで性能を使い分け、オールシーズンの性能を達成。加えて幅広い温度領域での走行を加味したコンパウンドを採用しているのだ。

トーヨータイヤ オールシーズンタイヤ【セルシアス】

新型RAV4にセルシアスを装着してテスト!

今回はスタッドレスタイヤであるウインタートランパスTXとセルシアスをトヨタ RAV4(4WD)に装着しての比較走行をした。試乗前に見比べてもまずトレッド面にサイプがいっぱい刻まれているスタッドレスのウインタートランパスTXのほうが柔らかい印象で、それに対してセルシアスは主溝とブロックも際立って力強い印象がある。なかでも一番の違いはOUT側のショルダーブロックのガッシリ感だった。

トーヨータイヤ スタッドレスタイヤ【ウインタートランパスTX】

サイプの本数が圧倒的に違うのは、TXはスタッドレスなのでアイス性能をベースに考えられている。アイス路面での摩擦力を稼ぐために圧倒的な接地面積を確保。繰り返しになるが、セルシアスは欧州中心の設計。アウトバーンの200~300km/hの速度域でもハイドロが起きないように主溝のボリュームが確保されているため、考え方の違いから見た目の印象も違うのだ。ゴムの硬さは配合も含めてコンパウンドが違うので、実際の硬度もTXのほうが柔らかい。

確かに氷の路面は他のオールシーズンタイヤ同様に苦手だが

トーヨータイヤ オールシーズンタイヤ【セルシアス】

実際に比較試乗をしてみた印象はというと、やはり性能の違いは開発者の狙い通りというだろう。そもそもオールシーズンタイヤは雪道はOKだが氷が苦手。そして舗装路のドライ/ウエットもカバーするタイヤであり、冬専用タイヤではないことを念頭に置いてお読みいただきたい。

トーヨータイヤ オールシーズンタイヤ【セルシアス】

トーヨータイヤのテストコースの走行順路がツルツルの氷盤路から始まるので、最初にこれまでも聞いていた「オールシーズンタイヤは氷が苦手」をまず体験できた。スタッドレスが18~20km/hくらいで走る・曲がる・止まるをそおっとすればタイヤが応えてくれるのに対し、オールシーズンタイヤは10キロ以下でも歯が立たない状況。ただ雪上やビシャビシャのシャーベットはスタッドレスより性能は劣るものの「よく走りますねー」を何度つぶやいたことか。

トーヨータイヤ オールシーズンタイヤ【セルシアス】

夏タイヤでは歯が立たない路面でも走ることができる

圧雪路でのブレーキを80km/hで行うと、セルシアスのほうが制動距離は伸びるが、ABSの効いた状態でハンドルを操作したときの反応の信頼度は十分。何かを避けたいイメージでハンドルを切り、そのイメージどおりにクルマは向きを変える。グリップ感というか雪を噛むように走る感覚もスタッドレスに比べれば正直なところ手応えは薄いが、夏タイヤではスリップしてまったく走れないであろう雪道でも、また舗装路ではアウトバーンも走れるこのタイヤはちゃんと走れるのだ。坂道では一時停止からの再発進もOK(合格!)。

さらにRAV4の走行モードをスノーモードに切り替えると、クルマが丁寧なスロットル調整をしてくれるので、より確かな発進加速感が得られることもわかった。コーナーではハンドルを切り込んだ際の手応えもスタッドレスに比べれば薄く、フロントタイヤが逃げて曲がりにくくなる状況もスタッドレスより早く訪れる。だからちょっと怖い。が、それなら速度を落とせばいい。すると安心感はグッと増して雪上をズンズンと走り進めることができたのだ。

雪道での素直な走りが好印象なセルシアス

トーヨータイヤ オールシーズンタイヤ【セルシアス】

雪上走行で好印象だったのは、限界領域はスタッドレスのほうが高いけれど、ハンドリングの素直さが夏タイヤのように自然なのはセルシアスだった。

スタッドレスタイヤと比べれば見劣りする頼りない印象を与えてしまっただろうか。私はまったく逆で、オールシーズンタイヤってやっぱり冬道も走れるんですね、という感心と頼もしさを抱いたし、それでも冬専用タイヤとの違いがあるから冬タイヤの有意義さもわかるというもの。夏タイヤじゃ絶対無理な状況で、ホントによく走ってくれた。

冬は雪と氷が当たり前のコンディション下は除き、またSUVでもスポーツ走行をガンガンされるというのでないならオールシーズンタイヤのパフォーマンスに一年中頼るものアリだ。それにタイヤ交換時期は季節を問わない。オンロードの舗装路がメインで万一の雪に備えて今から交換をするなら、トータータイヤ的には夏タイヤのスポーティ系プロクセスもいいけれど、これ1セットで年中OKのセルシアスの頼もしさにもぜひ注目してみてほしい。タイヤの保管、それに夏/冬の交換が億劫という面倒くさがり屋さんにもおすすめです。

[筆者:飯田 裕子]

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