新型コロナウイルスで全土封鎖されたイタリアで生きる

イタリアのジュゼッペ・コンテ首相は、これまで北イタリアの一部のコムーネ(自治体)で実施されていた封鎖を全土に広げると発表。これにより新型コロナウイルス対策は新たなフェーズに突入し、市民の生活にも大きな影響が出ています。

封鎖が続くイタリアはどのような状況なのか、ミラノから現地の日常生活をレポートします。(本記事は原稿執筆時である3月14日22:00時点の情報をもとにしています。)


現時点でできること、できないことは?

すでに日本でも大きく報じられているイタリア全土封鎖のニュース。具体的にはどのような制限があるのでしょうか。まずはこれまでの流れをざっくりと整理してみましょう。

3月8日、コンテ首相はミラノを州都とするロンバルディア州の全域と、ヴェネチアを含む北部の14コムーネを封鎖することを発表しました。イタリアの新型コロナウイルス感染者は北部を中心に広がっており、それを封じ込める施策のひとつとして決定されたものです。

ところがこの情報は事前にリークされ、移動制限を恐れた多くのミラノ市民が封鎖直前の深夜のうちに南部へ避難する事態になりました。南イタリアは北部に比べると医療体制が脆弱な地域が多く、高度な治療や手術は北部で行われるケースもあります。

こうした事情もあり、南部への「大脱走」はイタリア中へ感染を拡大し、南イタリアに致命傷を与えかねない行為として大きな非難を集めました。

南部への「脱走」はニュースでも大きく報じられた

この事態を受けた翌3月9日、イタリア当局は封鎖をイタリア全土に拡大することを発表。これにより、仕事や通院などの理由がない限りコムーネ間の移動が原則禁止されることになりました。コンテ首相は「もはやレッドゾーンは存在しない、イタリアの全てが保護下に置かれることになる」と述べ、この局面を乗り越えるための努力を国民へ呼びかけました。

コンテ首相は毎日のようにテレビに登場し、国民にメッセージを投げかける

さらに11日の夜、コンテ首相は記者会見を開き、コムーネ間の移動だけでなく理由のない外出を禁止すること、またスーパーや薬局など生活必需品以外の販売活動を停止する追加措置を発表しました。

具体的にはレストランやバール、美容院などが対象で、人が集まり感染リスクのある店舗は基本的に閉鎖されることになります。また、企業も生産業および専門性の高い業務は可能な限りテレワークで業務を続け、生産部門にとって必須でない業務は活動中止と規定しています。

現在、イタリアで実施されている新型コロナウイルス対策の施策は以下の通りです。

・健康上や仕事上などの理由がない外出を禁止
・バスやトラム、メトロ、タクシーは運行中(ただし移動には正当な理由が必要)
・レストランやバールは営業休止(宅配サービスは営業可)
・食料品店、薬局、新聞スタンド、タバコ屋、ガソリンスタンドなどは営業中
・サッカーなどのスポーツイベントは延期または中止
・学校は幼稚園から大学まですべて休校
・企業活動は生産部門(または関連必須部門)以外は中止、生産部門も可能な限りテレワークなど従業員の安全に配慮する

(上記は施策をざっくりと要約してまとめたものです。詳細はイタリア当局の発表や日本大使館のメール配信など、正確な情報を確認することをおすすめします。)

全土が封鎖されたイタリアの日常生活

日常生活の中で最も大きな影響があるのは、やはり移動制限です。外出できるのは仕事や通院、食料品の調達など必要がある場合に限られており、外出時には名前や住所、外出目的などを記入した自己申告書を携帯することが義務化されました。

具体的にどこまでが「必要な外出」となるかはコントロールする警察官の裁量による部分もあるので情報が錯綜していますが、一例として健康維持のための散歩やジョギング、犬の散歩、近隣に住む親族を訪問すること、車の修理のための外出などは認められています。

ただ、いずれも人同士が近づきすぎないこと、集団で外出しないこと、居住地からあまり離れすぎないことが条件になっています。外出中、カラビニエリ(軍警察)に呼び止められた際に正当な理由を説明できないと、刑罰の対象となります。

外出時はこの自己申告書を携帯する必要がある

食料品や日用品の調達に関しては、現段階ではそれほど大きな混乱は起きていません。イタリア全土の封鎖が決定された翌日は、流通が止まることを恐れてスーパーに人々が殺到したこともありましたが、一時的なもので現在は解消されています。マスクなどもともとイタリアであまり流通していないものは相変わらず品薄ですが、それ以外は食品、日用品とも問題なく手に入ります。

品薄と感じる商品はほとんどなく、日常生活で困ることはない

ただ、スーパーでは封鎖以降、店内が混雑しないよう入場制限が設けられるようになりました。店から1人出たら1人入る、といった感じでかなり厳格に運用されているため、入店するまでに少し行列に並ぶこともあります。とはいえよほど混み合う時間帯でなければ10〜20分程度の行列なので、少し不便といった程度です。

ここでは地下駐車場を区切って行列スペースにしている

あまり気軽に外出できないので、直接会わないでできるコミュニケーションも生まれています。12日にはインターネットを通して呼びかけが行われ、市民が一斉にベランダに出て歌ったり楽器を鳴らしたりするフラッシュモブが行われました。事前に打ち合わせたものではないためメロディーがバラバラだったり、楽器ではなく鍋を鳴らす人もいたりするなど自由な雰囲気で、イタリアにとっては久しぶりに明るい出来事となりました。

また学校が全て休校になっているため、小さな子供たちはチャットアプリの保護者のグループを利用してメッセージを送り合うという動きもあります。久しぶりにクラスメートの声を聞いたり近況を報告し合ったりするのは、近くの公園で遊ぶことが難しい子どもたちにとって貴重な楽しみのひとつになっています。

このほか、自宅の窓に「Andrà tutto bene(すべてうまくいくよ)」と書いた布を掲げる家庭も増え、この難しい局面を全員で乗り越えようとする雰囲気も生まれています(本記事のトップ画像参照)。この「andratuttobene」という言葉はハッシュタグにもなり、SNSでも拡散されています。

ここ数日はイタリアだけでなく、スペインの新型コロナウイルス感染者が増えているというニュースも入っており、世界的な感染拡大が収束するまでにはまだしばらく時間がかかるでしょう。各国で取り組んでいる封鎖政策により「すべてうまくいく」かどうか、まさに今がその瀬戸際といえそうです。

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