『ナイチンゲール』 復讐したいができないヒロイン、イライラするほど頼りないのだが…

(C) 2018 Nightingale Films Holdings Pty Ltd, Screen Australia, Screen Tasmania.

 ベネチア国際映画祭で審査員特別賞などを受賞したオーストラリア映画だ。舞台は19世紀、英国植民地のタスマニア地方。英国軍の将校に凌辱され、夫と幼子を殺された女性の復讐劇…と書くと、直近ではジェニファー・ガーナー主演の『ライリー・ノース 復讐の女神』がそうだったように、『キル・ビル』などに代表される“ヒロイン・アクション”映画が思い出される。だが、本作はそうではない。

 むしろ逆で、主人公は見ていてイライラするほど頼りないのだ。将校が旅立ったことを知って追うのだが、途中で身体を鍛えたり作戦を練ったりはしない。復讐の絶好の機会が訪れても何もできず、協力者までも危険にさらす始末。本作が長編2作目となる新鋭女性監督ジェニファー・ケントは、そんなヒロインに助け舟を出すことなく、あくまでも冷徹な視点を貫く。それが、ラストで生きてくるのだ(詳細は控えるが)。

 このヒロインは時に復讐心で我を忘れ、残酷にもなる。それは彼女が生身の人間だから。復讐のためのスキルも持たなければ、持つための手立てすら分からない。その代わり彼女は、旅の過程で道案内人の原住民アボリジニと次第に心を通わせ、差別を受ける彼に寄り添うようになる。そう、我々観客は彼女の中に我々自身を見いだすのだ。だから、決して後味の悪くないラストに勇気づけられるのである。★★★★☆(外山真也)

監督・脚本:ジェニファー・ケント

出演:アイスリング・フランシオシ、サム・クラフリン、バイカリ・ガナンバル

3月20日(金)から全国順次公開

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