女囚の復讐スリラー! 凄惨な“差別・虐殺”の歴史を描きベネチア映画祭2冠『ナイチンゲール』

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『ナイチンゲール』© 2018 Nightingale Film Holdings Pty Ltd, Screen Australia and Screen Tasmania.

あの傑作サイコスリラーで鮮烈デビューを飾った実力派監督最新作!

かのウィリアム・フリードキンが「こんなにも恐ろしい映画は他に知らない!」と称賛を送った『ババドック ~暗闇の魔物~』(2014年)。タイトルにもなっている“ババドック”というバケモノが大暴れするものだと思って観ると、そんな生優しいものじゃなく……。実際は過酷な育児と過去のトラウマに苛まれる女性を描いた作品で、ホラー映画の皮をかぶった一級のサイコスリラーだった。

そんな作品で華々しく長編デビューを飾ったジェニファー・ケント監督は一気に名声を獲得し、すぐにマーベル作品『ワンダー・ウーマン』(2017年)ヘの起用も噂された。しかし、彼女が長編2作目に選んだテーマは、ズバリ「暴力」だった。ケント監督の最新作『ナイチンゲール』は、『ババドック ~暗闇の魔物~』をゆうに超える凄まじさで人間の残虐性をえぐり出す衝撃作だ。

『ナイチンゲール』© 2018 Nightingale Film Holdings Pty Ltd, Screen Australia and Screen Tasmania.

19世紀オーストラリア・タスマニア島~流刑植民地の凄惨な歴史

舞台は、19世紀オーストラリアのタスマニア島。かつては先住民=アボリジナル(日本ではいまだに使われている“アボリジニ”という言葉は、国際的には差別的だとして使われなくなっている)が暮らす土地だったが、イギリスによる植民地化が始まっていた。そして、西洋からの流刑囚とその看守や英国軍人たちが住むようになり、アボリジナルは彼らに無差別虐殺されていた。

『ナイチンゲール』© 2018 Nightingale Film Holdings Pty Ltd, Screen Australia and Screen Tasmania.

そんな中、美しい歌声を持つ流刑囚のアイルランド人クレアは、英国軍将校ホーキンスに囲われ、軍人の前で歌声を披露させられていた。クレアを演じるアイスリング・フランシオシはオペラ歌手でもあるので、さすがの歌声(※ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』にも出演)。タイトルの“ナイチンゲール”は夜鳴鶯(よなきうぐいす)ともいって、鳴き声の美しい鳥のこと。看護師のことではない。

クレアはとうに刑期を終えているはずだった。しかし、将校ホーキンスにレイプされてしまい、さらにはクレアの釈放を訴える夫を目の前で殺され、幼い子供までも殺されてしまう。すべてを失ったクレアはたったひとり復讐を誓うが、略奪者であるホーキンスら3人の軍人はタスマニア北部ローンセストンの街に旅立ってしまっていた。クレアはすぐに島に詳しいアボリジナルの案内人ビリーを雇い、ホーキンスらを追う旅に出る……。

『ナイチンゲール』© 2018 Nightingale Film Holdings Pty Ltd, Screen Australia and Screen Tasmania.

「暴力」を徹底的に描くことで、同時に「思いやり」や「優しさ」も描く

目を覆いたくなるレイプシーン。そして、タスマニアにおけるイギリス人の侵略、通称ブラック・ウォーを背景にした人種差別。この映画は、人間が人間を踏みにじる暴力にあふれている。ほとんど地獄巡りだ。

このブラック・ウォーに関して、監督は「タスマニアの歴史を他国の人はほとんど知らない。その残虐な支配体制を薄めることなく作品に反映させたかった」というようなことを語っていて、劇中でもアボリジナルをスポーツ・ハンティング(娯楽的な人間狩り)する様が描かれる。否が応にも第二次世界大戦を思い出させるが、性差別や人種差別は、もちろん現代にもはびこっている。最悪なことに大昔から地続きだ。そうした「暴力」を徹底的に描くということは、同時に「思いやり」や「優しさ」も描くことになる。

『ナイチンゲール』© 2018 Nightingale Film Holdings Pty Ltd, Screen Australia and Screen Tasmania.

クレアと案内人ビリーは、英軍人>流刑囚>アボリジナル、という支配関係もあって、最初はお互い疑心暗鬼。しかし、クレアはビリーもまた入植者によって深く傷ついていることを知る。ビリーを演じるバイカリ・ガナンバルの柔らかな表情と、ビリーとクレアの間に恋愛感情ではない人間同士の信頼感が芽生えることが、本作における数少ない救いだ。

ぼくらは過去から学ぶことしかできない。そして、過去を描くためには描写は徹底して正確で、最後まで正直さを貫く必要がある。現代にも通じる悲惨な歴史は、絶対に綺麗ごとで終わらせてはいけない。そんな当たり前のことを痛感してしまった。映画で「福島」を描いた方々にもぜひ観てほしい1本だ。

文:市川力夫

『ナイチンゲール』は2020年3月20日(金)よりロードショー