警察や銀行になりすます、詐欺グループが海外から電話をかける理由

海外から電話をかけていた詐欺グループが次々に摘発されています。昨年は、タイのパタヤで15人。フィリピンの首都マニラでは36人、首都から離れた郊外の一軒家で詐欺を行ったグループ8人も逮捕されています。なぜ今、詐欺グループは海外から電話をかけるのでしょうか? 私たちを狙う、詐欺の電話の手口に迫ります。


犯人が海外から電話をかける理由

ひと口に海外の詐欺グループといっても、詐欺の手口は様々です。タイのパタヤを拠点にしたグループでは、不特定多数の人にSMS(ショートメッセージ)で料金未納があるという通知を送り、それを見て慌てた人から電話をかけさせて、コンビニでプリペイドカードを買わせるよう仕向ける手口でした。電子マネーを使うので、ターゲットとなるのはスマホを使う若年層から高齢者まで幅が広い世代です。

また、マニラで行っていたのは、警察を騙って電話をかける手口です。「詐欺犯を逮捕したら、あなたの口座と名簿が出てきた」と相手を動揺させて「口座からお金が引き出されている恐れがある」と言います。そして、日本にいる受け子と呼ばれる詐欺グループに連絡をして「キャッシュカードを止める。交換する」を口実に、家を訪れてカードを騙し取ります。ここでのターゲットは高齢者です。

なぜ、海外から電話をかけるのでしょうか?

まず、国境をまたぐことで、日本の警察の捜査の手をかいくぐることが大きな理由でしょう。それに、お金の流れをわかりにくくする狙いもあります。実際、詐欺で騙し取ったお金を海外へ不正に送金していた男らも逮捕されています。

このように海外に拠点を移すには様々な理由がありますが、最も大きな理由は「詐欺の成功率を高めるから」です。

犯行グループは、電話をかける「かけ子」をSNSなどで募集して海外に連れて行きます。現地につくとパスポートを取り上げて、缶詰状態にして詐欺を行わせます。そうすれば、騙す行為に専念させられます。これが日本ならば、良心の呵責を覚えた人が逃げだしたり、警察に駆け込むリスクがありますが、言葉も通じず土地勘のない海外では、そうしたリスクはほとんどありません。

効率的に詐欺を行い、失敗するリスクを減らせる。これが詐欺の海外拠点が増えている要因のひとつです。

巧妙な3つのグループ分け

先日、私がテレビにコメント出演した際、海外から詐欺電話をかけた男のインタビューが流されました。その組織では、3つのグループに分けて詐欺の電話をかけていたといいます。

1つ目のグループは、詐欺のアポイントをとるための電話をかけます。警察を騙り「詐欺犯を逮捕したら、あなたの名簿と口座が出てきた」「不正に金が引き出されています」といって相手を脅します。

2つ目のグループは、その話を信じた人をさらなる罠にはめます。銀行関係者になりすまして電話をかけ、「キャッシュカードを新しいものに変えましょう」と呼びかけます。相手から口座や暗証番号を聞き出し、カードを騙し取る算段をとりつけるのです。

3つ目のグループは、日本にいる「受け子」といわれる組織に連絡を取り、ターゲットの情報を伝えます。

このように、詐欺グループは、海外だけでも3つの役割に分けて犯行に及んでいました。自らの役目に専念させることで、その行為のスペシャリストになって、相手を騙す。まさに詐欺の効率化を図っているのです。

最終段階が「詐欺の要」

この3段階のうち、どこが一番重要なポジションかわかるでしょうか?

答えは、3つ目のグループです。最初に配属されるのは、1つ目のグループです。騙しの電話に慣れてくれば2つ目、3つ目のグループに上がり、お金の取り分も増えていくそうです。その理由は、1つ目の電話は何度失敗してもよいからです。とにかく多くのターゲットに当たればよいので、さほど経験を要しません。

それに対し、最終段階となる3つ目のグループは、失敗することが絶対に許されません。

ターゲットになった人の名前、住所、詐欺をどのような経緯で信じているのか、キャッシュカードを何枚持っているか――これらを漏れなく相手に伝えなければなりません。これまでのすべての準備を無駄にできませんから、3つ目のグループが「詐欺の要」になっています。

下っ端とベテランの使い分け

これまで私も様々な悪徳業者に潜入取材してきました。

最初に接触する人の多くは、勧誘マニュアルをそのまま読んでいるような人たちでした。こうした勧誘経験の浅い人は、「会社の代表者の名前は?」「従業員は、何人なの?」と、軽いジャブを見舞っただけで、しどろもどろになってしまいます。しかし、これでは業者の巧みな勧誘実態を暴くことができないので、軽くやりこめる程度にとどめます。

「自分の手に負えない相手だ」と組織の内部で報告したのでしょう。決まってベテランの勧誘員が出てきて、私の説得にあたり始めます。時に、契約の最終段階であるクロージングになって、ベテランが出てくることもありました。具体的なお金の話を詰める時には、経験がものをいいますから、悪徳業者もそれがわかっているのです。ここで私もフルスロットルで業者と対決して、悪質な勧誘実態を暴くことも多くありました。

ターゲットのあたりをつける段階では、下っ端の人を使い、大事な話の展開には、ベテランを使う。このように人員を配置して話を進めていくことで、成功の効率を上げる。多くの人が詐欺や悪徳業者に騙されてしまう理由はここにあります。

最初に話をした人の時に話を断り、電話を切りましょう。そうしないと、ずるずると相手の罠にはまってしまうことになってしまうのです。

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