新型コロナウイルス対策が米大統領選の行方を決める?!アメリカのネット選挙・デジタルキャンペーン最新事情

コロナウィルス対策が大統領選挙に及ぼす影響は

世界中で広がる新型コロナウイルス脅威がアメリカ大統領選挙の行方にも大きな影響を及ぼし始めています。3月17日時点で既にルイジアナ州、ジョージア州、ケンタッキー州などが民主党予備選挙の投票日を1〜2ヶ月遅らせるという異例の措置を取る事態となっています。

アメリカCDC(疾病対策センター)からは3月15日に「50人以上の人が集まるコンサートやイベントなどを今後8週間にわたり見合わせる」ようにする勧告も出され、秋に迎える大統領選本戦に向けても大きなインパクトを与えることが予想されます。

今回はこうした現状を踏まえ、今後大統領選挙の動向を見つめる上で気になる注目点と、米大統領選の動向を理解する上でのいくつかの参考になる情報源をご紹介したいと思います。

民主党候補者選びはバイデン氏勝利が濃厚

長い間混戦状態であった民主党候補者選びもスーパーチューズデーにおける中道穏健派のジョー・バイデン候補の躍進により、そのままバイデン氏の勝利が濃厚になりつつあります。

今後は野外集会等や個別訪問の実施も難くなる中で新しい形のオンライン選挙活動、更なる投票の延期、或いは郵送での投票等の対策が議論、実施されることと思われます。今までにもましてデジタル選挙活動のイノベーションや広がりも加速する兆しを感じます。

選挙分析サイトとして定評のある「ファイブ・サーティー・エイト」でもバイデン氏の勝利が予想されています。3月15日に行われた討論会においてバイデン氏は「副大統領に女性を指名する」考えを示しましたが、今後は若年層に熱狂的な支持を持つ急進左派のサンダース氏の支持層をうまく取り込む形で勝利できるかなども含め、大事なポイントになりそうです。

「FiveThrityEight」内の大統領選予備選予測サイトよりhttps://projects.fivethirtyeight.com/2020-primary-forecast/

話題は現職大統領のコロナウィルス対策、デジタルキャンペーン戦略へ

民主党の候補者選びの趨勢が見えてくると次は11月3日(火)に控えた本戦に向けて、現職トランプ大統領のコロナウィルス対策の動向、株価や景気動向、失業率等が大統領選の行方を左右する指標として話題になることと思われます。

トランプ大統領の新型コロナウィルス対応に関しては連日報道され、3月13日には国家非常事態宣言を行っています。初動の遅れや政権内から繰り出される政策、政権内のリーダーシップの状況、ツイッターなどでの発言を見る限り、各方面からの批判が強まっている様子です。

先程ご紹介した選挙分析サイトの「ファイブ・サーティー・エイト」内にはトランプ大統領の支持率の推移を示すチャートがあります。現状まだ大きな変化が表れてはないようですが、今後のコロナウィルスの感染の拡大、対応を踏まえ、このグラフがどのように推移していくか、注視しておく必要がありそうです。3月17日時点での支持率は42.7%、不支持率は53.1%となっています。

「FiveThrityEight」内のトランプ大統領支持率推移グラフより https://projects.fivethirtyeight.com/trump-approval-ratings/

新型コロナウィルス感染時のデジタルキャンペーンのあり方の行方

野外集会、個別訪問等、大統領選の選挙活動を支えるこうしたオフラインでの活動が当面できなくなることで、やはりオンラインでの活動に注目が集まることが予想されます。ビジネスパーソンがテレワークやオンラインイベントを導入しているように、選挙活動におけるデジタルキャンペーンの「新しい形」が模索、発展するのではないかと、こちらは少し期待を持って注目しています。

2016年の大統領選で選挙結果に大きな影響を及ぼしたと言われるフェイスブックですが、同社が提供している「広告ライブラリーレポート」という公式サイトを参照することで、大統領選の各候補者合計消化金額と1日当りの内訳を確認することが出来ます。こうしたツールも折に触れて参照することで、動向を窺い知ることが出来ます。

フェイスブック広告ライブラリーレポート(合計消化金額) アメリカ大統領選挙の候補者のFacebookページ毎に社会問題・選挙・政治に関連する広告に消化された合計金額(2019年1月1日から2020年3月13日までの期間)。Instagramを含むFacebook製品全体の広告が対象。トランプ陣営は昨年1月から合計2637.7万ドル(約28.1億円)を投下していることが分かる。次いでサンダース陣営の1282.5万ドル(約13.7億円)、バイデン陣営の728.92万ドル(約7.7億円)となっている。

フェイスブック広告ライブラリーレポート(1日あたりの内訳) ・トランプ陣営は今年の2月1日に翌日開催のスーパーボールでのCM放映のタイミングで41.5万ドル(約4,422万円)分の広告出稿をしている。一方、3月以降はサンダース陣営を凌ぎバイデン陣営が広告出稿を増やし、3月3日のスーパーチュースディ前日に35.7万ドル(約3,800万円)分の広告出稿をしていることが分かる。

今回の大統領選においては以前からSMS(ショートメール)やホワッツアップのようなテキストメッセージングサービスの利用も広がっていることが、ここ1〜2年の注目トレンドとして各種メディアで伝えられています。マイクロターゲティング広告に対する規制や批判という背景もあってか、熱心な支持者が個人のスマートフォンから自分用に簡単にパーソナライズ、カスタマイズしたメッセージを知り合いに送付し、投票や寄付の依頼をする取り組みがどこまで広がるのか、動向が注目されます。

注目が集まるトランプ陣営の選挙対策部長、ブラッド・パースケール氏

2016年のトランプキャンペーンのデジタル戦略の立役者として、2020年の選挙戦では全体の選挙戦の本部長にまで昇進したブラッド・パースケールという人物がいます。ここ一月程の間に欧米メディア各紙で彼を取り上げたプロフィール記事が次々レポートされています(ニューヨーカーエコノミストニューヨークタイムズガーディアン)。

トランプキャンペーンに参加するまでは政治の世界でのキャリアがまったくなかったにも関わらず、早い時期にフェイスブックの活用に注力し実績を出すことで権限と存在感を獲得し、再選キャンペーンでも虎視眈々と勝利に向けて取り組んでいる姿が描かれています。2016年の大統領選の際の活用の様子を見たフェイスブックの幹部からは「今までに見たキャンペーンの中で唯一最高のキャンペーンだ(the single best digital ad campaign I’ve ever seen)」と言わしめた程です。その後更にフェイスブック活用に磨きをかけられている可能性がここに来て改めて注目を集めているようです。

3月2日に掲載されたニューヨーカーの記事。『トランプの絶大なFacebookを支える男〜ブラッド・パースケール氏は2016年の選挙でソーシャルメディアを利用して2016年の選挙を揺さぶった。彼はそれを再現しようとしている。』(The Man Behind Trump’s Facebook Juggernaut〜Brad Parscale used social media to sway the 2016 election. He’s poised to do it again.

過去3年ほどはアメリカ大統領選におけるソーシャルメディア、特にフェイスブックが果たした役割に関して、その大きくなりすぎた影響力について議論されることがありました。これまでのデジタル戦略の蓄積、そして好調な株価と低い失業率などを背景に、ここ最近までは過去3年間の再選キャンペーンを進めてきた現職であるトランプ氏の再選を予想していた人が数多くいるのではないでしょうか。

それが今回の新型コロナウィルスの感染拡大の様相を受け、不透明感が一層高まっています。正しい未来を予測するためにも、今回ご紹介したいくつかのデータ、指標、情報源なども定点観測的に参照、活用いただければ幸いです。また、新しく生まれるであろうオンライン選挙活動からも将来の国内の選挙活動に転用出来るアイディアがあるかもしれません。そんなアイディアがあればまたレポートしていきたいと思います。

 

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