王貞治会長も惚れ込んだ鷹リチャードの成長 父は軍施設勤務、兄はマイナー選手

ソフトバンク・リチャード【写真提供:福岡ソフトバンクホークス】

「ポスト松田宣浩」として期待されるリチャード、王貞治会長も惚れ込む

 いかにもスラッガー然とした体躯を誇るソフトバンクのリチャード内野手が、3月16日に育成枠から支配下登録へと移行された。

 本名は砂川リチャード・オブライエン。沖縄生まれの20歳だ。父は軍事施設で働く米国人で、兄のジョーイ・オブライエンは地元の高校を卒業後にアメリカの学校に進学して、米大リーグのマリナーズからドラフト指名を受けてマイナーリーグでプレーをしている。

 リチャードは育成選手だったため当然1軍出場はない。2軍公式戦もプロ1年目は出場ゼロで、2年目だった昨季も8試合しか出場歴がない。しかも13打数1安打、打率.077だった。しかし、昨年、3軍の非公式戦では12本塁打を放ち、大器の片りんを予感させたのである。

 昨年までの6年間で5度も日本一に立ったホークス。主力選手は球界トップレベルのスターぞろいだ。ただ、その壁があまりに高すぎるために戦力の入れ替わりが難しくなっている。気付けば内川聖一内野手は今年38歳、松田宣浩内野手は今年37歳になる。まだ一線級でバリバリ活躍できる実力者だが、次代のホークスに向けて手を打っておかなければならないのも事実である。

 リチャードは「ポスト松田」として期待を寄せられている。自慢の長打力に誰よりも惚れ込んだのが、王貞治球団会長だった。昨秋の宮崎キャンプでは50分間の特打をつきっきりでチェックしてもらい「余分な力が入っているぞ!」とゲキを飛ばされるシーンもあった。さらに、その後参戦する台湾でのアジア・ウインターリーグに向けて「3試合に1本だから(全18試合で)6本ホームランを打ったら、何か(プレゼントを)やるよ」と約束まで交わした。

 これに「やるしかないです」と目を輝かせていたリチャード。台湾では最初の6試合で3本塁打を量産してノルマ以上の活躍を見せた。その後は快音は聞かれずに結局3発で終わったが、同リーグの本塁打王に輝き、17打点も同2位の好成績だった。

3月に行われた紅白戦で特大弾を放ち、チームメートも唖然…

 最終的にノルマのクリアはならずも、アピールは成功して春季キャンプで主力の集うA組入り。王会長は「こちら(球団側)が引き上げたんじゃない。彼が自分でつかんだんだ」ときっぱり口にしていた。オープン戦フル帯同も果たし、2月23日のバファローズ戦(SOKKEN)では左翼席の奥にある林に打ち込む特大本塁打を放った。

 また、3月に行われた紅白戦では本拠地PayPayドームのバックスクリーンに飛び込む特大アーチを架け、チームメイトを「すごい……!」と唖然とさせた。3月15日の広島戦(マツダスタジアム)ではドラフト1位右腕の森下暢仁投手の147キロ低め直球を左中間席まで運んでみせた。

「去年と今年のホームランは違います。去年は3軍ですが、10本以上打ちました。ただ、バットの芯でしっかり打てたのは確か2本だけ。あとは詰まったり、先っぽだったり。だけど、今年は芯でとらえてホームランを打てています。7、8割の力で振っているのがいい」

 全力フルスイングの結果、とてつもない飛距離をマークしたこともある。昨年はタマスタ筑後のバックスクリーンを越えたし、高校時代も名護球場のレフト場外へ一発を放ち、その白球は海まで届いたという。

「でも、思いっきり振っても確率が上がらない。ファウルになってしまう。“グァン”じゃなく、“シュパーン”が理想です(笑)」

 新しい背番号は52に決まった。ホークスでは川崎宗則氏が長く背負っていた。新しい「52番像」を印象づける規格外のアーチを何本も描き、これから日本中の野球ファンを驚かせるに違いない。リチャードは鷹のロマン砲だ。(「パ・リーグ インサイト」田尻耕太郎)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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