ビジネスパーソンにとって「評価」と「評判」どちらが大事?

ビジネスの現場で起きたさまざまな悩み事に対して、リクルートマネジメントソリューションズでコミュニケーションサイエンスチームのリーダーをしている松木知徳さんがお答えするシリーズ。今回は、最近仕事で成果が上がってきた20代男性のお悩みに回答します。

【相談者のお悩み】

上司から「仕事で目に見える成果で評価を得ることも大事だけれど、周りの評判も大事だよ」と言われました。私はあまり社交的ではないほうなので、周りからの評判を獲得するイメージがわきません。具体的にどういうことをすれば良いのでしょうか。(20代男性)


評価と評判は似て非なるもの

まずは、上司の言葉の意味を考えてみましょう。

評価とは「一定の期間・基準をもとに価値を判定すること」です。読者の多くが仕事の中で何らかの目標を持っていると思います。それが半年あるいは1年など、期間ごとに成果に対する評価が行われているのではないでしょうか。組織からの評価が高ければ、昇進昇格や賞与にも反映される可能性があります。

一方、評判とは「周囲が良い点・悪い点を指摘して批評して判定をすること」といった意味になります。評価とは異なり、一定の期間・基準も決められていないため、結果そのものよりも周囲が日常目にしている言動や態度などから判定することが多くなります。

周囲からの評判の良し悪しが必ずしも人事査定に影響はしませんが、その積み重ねによって、その人へ与える「印象」に影響を与えるものです。

評価と評判はどっちが大事?

われわれが考えなければならないのは、必ずしも組織からの評価と周囲からの評判が一致しないことがあるという点です。これを図示すると、以下のようになります。

本稿では便宜上、4つのセグメントに分けて説明をします。

A:組織から評価が高く、周囲からの評判も良い人(ロールモデル)

態度・行動面においても認められ、かつ業績も上げているケースです。模範的な人で、組織とすれば望ましい働き方といえます。私がコンサルタントとして人材開発の施策検討にあたり、「目指す人材像」「見本としたい人」としてインタビューを行う際に組織から指名されるのは、このタイプの人です。

B:組織から評価が高いが、周囲からの評判は悪い人(目立ちたがり屋)

業績を上げているが、あまり周囲からよく思われていないケースです。たとえば、成果を上げるために手段を選ばず、協働者に必要以上の負担を強いたり、手柄をすべて自分のものにしたりする人が該当します。一見、仕事はできるけど、一緒に仕事をしたくないと周囲に思われてしまうタイプです。

C:組織から評価が低いが、周囲からの評判は良い人(お人よし)

周りからは「努力家」「いい人」と思われているが、なかなか業績達成できないケース、または良い仕事をしているのに上司などから認められていないケースです。軋轢を起こさず、周囲とも良い関係を作りますが、自身の手柄や力量をPRすることが苦手な人に多いタイプです。

D:組織から評価が低く、周囲からの評判も悪い人(アウトロー)

業績は達成していないだけでなく、周囲からも嫌厭されているケースです。わが道を突き進んでいて、あまり周囲からの見え方を気にしていないタイプのほか、着任したばかりでまだ新しい職場に馴染んでいない時は、ここに位置されるケースもあります。

Aのケースが理想的であるのは、誰が見ても明らかです。誰もが評価と評判を両立できていたら、それに越したことはありません。問題はBとC、どちらを優先するのかです。

多くの企業は結果評価だけでなく、プロセス評価を取り入れています。しかし、実態としてプロセスすべてを上司が見ることは難しく、結局は「成果を出している人が偉い」という状況に陥ってしまうことがよくあります。読者の中にも、「業績は上がるけど、やり方として正しいか」という判断に悩んだ経験がある人もいると思います。

危険な評価の落とし穴

米国のある地域の市議会が警察の有効性を示す指標としてパトカーの走行距離を用いた結果、ある地域の警官が勤務時間中ずっと高速道路を走っていたという逸話があります(*1)。この行為は警察に対する「評価」を一時的に上げることにはつながっても、本来期待される役割を果たしているわけではなく、次第に周囲の評判を落とすことになるでしょう。

最近では人事評価に360度の調査や顧客評価を取り入れる企業が増えてきました。これは目標に対する業績評価だけでなく、下図のように自身の仕事に関係する多くのステークホルダーからのフィードバックを得ることによって、評価を適正にするだけではなく、個々人の改善の機会を得るためでもあります(*2)。

相談者の質問に対して答えるとすれば、「評価も評判も両方大事」と言わざるを得ません。ただし、現在地が図1のABCDのいずれかにあるかを認識することが必要です。もし、Cの位置にいるのであれば、周囲の評判を気にするよりも、まず成果にこだわってやり抜くことが必要になるケースもあります。

今回の相談ケースでは、上司がある程度、相談者の業績を評価しているうえで、評判の不足についてアドバイスをしています。これはBの位置にいるという示唆かもしれません。そうであれば、仕事のプロセスについて周囲の理解が得られているかを見直すタイミングととらえるべきかもしれません。

評判を獲得するには?

では、周囲の評判を上げるために具体的にどのような働きかけをしたら良いのでしょうか。3つのヒントを、ことわざとともにご紹介します。

ヒント1:功を急ぐべからず

目標達成や成果にこだわることはとても重要です。しかし、目先の評価を気にし過ぎるあまり、会社のルールや必要なプロセスが抜け落ちないように注意しましょう。たとえば、社内報告やミーティングの時間を守り、自分の都合で顧客や協働者に無理な要求をしないように意識することで、周囲の信頼を得られます。

ヒント2:人を見て法を説け

相手の立場や性格を見て接するべきだという意味です。いつでも自分の言いたいことを自分のレベルで話すのではなく、相手の知識・経験や立場を踏まえて会話をしましょう。たとえば、他部署に説明する際には前提となる経緯を伝え、専門用語を丁寧に説明することで、周囲の納得を得られるようになります。

ヒント3:情けは人のためならず

親切が巡りめぐって自分に恩恵として返ってくるという意味です。自身の成果だけでなく、周囲の成果をサポートしましょう。たとえば、企画書作成で困っている後輩がいたら、アドバイスをし、自分が苦労して作ったノウハウも出し惜しみしないで共有することで、周囲からの尊敬を得られるようになります。

このように、評判を得る方法は必ずしも難易度の高いタスクを行うことではありません。ちょっとした日常の積み重ねがあなたのブランドを形成していきます。

組織で仕事をしていくには、必ず周囲の協力が必要になります。特に、役職が上がり、部門間の連携や協働者の数が増加するに従い、評判の良し悪しが自分のスムーズな業務遂行に影響するようになります。目の前の評価ばかりに目を向けていたと思う方は、ぜひ評判を意識した仕事の進め方をおススメします。

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