大ヒット韓流ラブコメ「愛の不時着」に北朝鮮が激怒

パラグライダー中に思わぬ事故に巻き込まれ、北朝鮮に不時着してしまった韓国の財閥令嬢。そこで出会った堅物の将校の家で、身分を隠して暮らすことになるが…

(Netflixの公式ページより)

ヒョン・ビンとソン・イェジンの2大スターが共演し、韓国のテレビ局tvNが昨年12月から今年2月にかけて放送したラブコメディ「愛の不時着」。今までのどの韓流ドラマ、映画よりもリアルな北朝鮮を描いているとして、韓国在住の脱北者の間でも話題になり、高視聴率を叩き出した。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の番組に出演した脱北者は、ドラマについてこう語っている。

「最近(よく見ているドラマは)愛の不時着です。セットが(北朝鮮の現実に)よく似ていて楽しく見ています。市場に行けば、韓国製品だと机の下から取り出すもそっくりで、『ああいう風にやってたなぁ』と思いました。化粧水や乳液など(韓国の)基礎化粧品が多かったように思います」(イ・ヒョシムさん、20歳女性)

また、韓国に亡命した元駐英北朝鮮公使の太永浩(テ・ヨンホ)氏も朝鮮日報のコラムで、「最近の北朝鮮の現実を反映しようとしていろいろ頑張った痕跡が見える」として、将校の父親が停電のときに部隊から盗んできた戦車用のバッテリーで明かりを灯して子どもを勉強させるシーン、軍や保衛部(秘密警察)の幹部ですら韓国製のスティックコーヒーを飲むシーンなどを挙げて賞賛した。

このドラマだが、デイリーNK内部情報筋によると、北朝鮮と中国を行き来する密輸業者たちも、韓流ドラマが北朝鮮をいかに描いているかという好奇心から、先を争って見たという。USBメモリやSDカードの持ち込みが困難になったので、キャリアの携帯電話を使い、メッセンジャーアプリのウィーチャットでファイルをやり取りする形を取っていた。

そこまでして「愛の不時着」を見た北朝鮮の人々の評価だが、賛否両論だったようだ。

「総政治局長の息子が地方で軍の中隊長」「コチェビ(ストリート・チルドレン)の出の保衛員(秘密警察)」「開城(ケソン)の人が(遠く離れた)両江道(リャンガンド)の方言を使っている」など、細かいところにツッコミを入れ、「ありえない」と文句を付ける人もいた。

中でも、軍の内部で当たり前のように韓流ドラマの話をするシーンや、同じ部隊の兵士が全員韓国に行ってしまうシーンなどは「現実とは異なる」と不評だったという。しかし、あれこれ言いながらも結局は見てしまったそうだ。反感や疑問よりも好奇心が勝った形だ。

一方で、「庶民の生活をそのまま描こうと努力したことが垣間見える」と評価する声や、「体制批判のシーンが出てくると思っていたが、そうではなかった」「北朝鮮をけなす内容ではなくて、楽に見られた」との声もあったとのことだ。

ドラマは16回まであるが、残念なことに北朝鮮の人々は8回までしか見られなかったそうだ。新型コロナウイルスの流入を防ぐために国境が封鎖され、密輸も困難になったからだ。

このドラマについて当局はおかんむりのようだ。

北朝鮮の対韓国宣伝サイトである「ウリミンジョクキリ(わが民族同士)」は「虚偽と捏造に満ちた虚しく不順極まりない反共和国(北朝鮮)映画とテレビドラマ」とした上で、「親米屈従政策と軍事的対決妄動で北南(南北朝鮮)関係をむちゃくちゃにしておいて、朝鮮半島の平和の破壊の責任を他人になすりつけようとこの類のおぞましい反北(朝鮮)対決映画を賛美、流布させる南朝鮮当局のやり方に国内外が驚愕を禁じえずにいる」と罵っている。

しかし、韓国有名シェフ兼ユーチューバーの番組や動画が、文字情報として北朝鮮に持ち込まれるなど、当局が気づかないうちに、韓流が北朝鮮に浸透しつつある。もはや抗えない流れなのだ。

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