ふるさと納税日本一の寄付金は何に?

新制度除外の泉佐野市 「使い道宙に浮いてる」の声も

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開業前に報道関係者に公開された「関空アイスアリーナ」=19年11月、大阪府泉佐野市

 アマゾンギフト券などを扱い、ふるさと納税で全国トップの寄付を集めた大阪府泉佐野市。2019年6月に始まった返礼品を規制する新制度で除外され、総務省と法廷闘争中だ。制度開始の08年から集めた寄付総額は890億円と巨額。多くが返礼品の調達費などに充てられるため、全額が収入になるわけではないが、集めた寄付金は一体どのように使われているのか。制度に翻弄(ほんろう)されてきた人口約10万人の町の今を追った。(共同通信=助川尭史)

 ▽国際規模のアイスアリーナ

 今年1月、関西空港対岸の高層ビルや商業施設が並ぶ泉佐野市の「りんくうタウン」に、1年を通してスケートが楽しめる「関空アイスアリーナ」が開業した。フィギュアスケートの国際大会で使用できるメインリンクと、西日本初となるカーリング用のサブリンクを配置。市で開催される東京五輪の聖火リレーのスタート地点にもなっている。全国有数の巨大施設の建設を支えたのは、ふるさと納税だ。

 関空アイスアリーナは14年、トップ選手の練習場を探していた府スケート連盟が市に建設を持ちかけ計画が始まった。当初は民間から事業の担い手を募集する予定だったが、スケート人口が減少する中、民間で手を上げる事業者が出ず、選定は難航。結果的に市が20年間のリース契約で借り受け、総額約28億円を負担することになった。

 予想外の多額の出費を強いられた市が頼ったのが、当時右肩上がりの勢いで伸びていた寄付金だった。大型モニターの設置や周辺の公園・道路整備などに使われたのは約10億円。担当した市の甲田裕武理事は「ふるさと納税がなければ完成にこぎ着けるのは難しかった」と語る。

開業した「関空アイスアリーナ」(新型コロナウイルスの影響で臨時休業中)=20年3月、大阪泉佐野市

 ▽全校にプールを

 市が寄付金の使い道として、会見などで繰り返し強調するのが教育関連の経費だ。1980年代ごろから市は関空開港後の人口増を見越した再開発に税収を重点的に投入。その後、バブル経済の崩壊で長く空港の利用者が低迷したこともあり、巨額の負債は財政にのしかかり続けた。

 ふるさと納税の成功後は、財政難で後回しにされ続けていた校舎の整備やパソコンなどの古くなった備品の買い替え、小学校全学年で35人学級を実現するための人件費などに寄付金を積極的に充てた。中でも力を入れるのが、2016年度から始めた小中学校のプールの整備事業だ。

 これまで市内の計18の市立小中にはプールがなく、夏の水泳の授業時には多くの学校で、生徒らは最寄りの市営プールまで炎天下の中を歩いて通うことを強いられた。ある小学校の教員は「大勢の児童の引率だけで一苦労。午前中いっぱい使って、水に足を付けるだけで終わりの時もあった」と苦笑する。

小学校に新たに整備されたプール=大阪府泉佐野市

 プールの整備費用は1校当たり1~3億円ほどだが、寄付金を活用し、昨年末までに7校にプールが完成。今後も建設を進める計画だ。できたばかりのプールで昨夏に授業を実施した市立中央小の佐々木理江校長は「移動の時間を無駄にすることなく、児童の負担も大きく減った」と変化を実感する。

 だが「1校に1プール」は、周辺の自治体が取っている方向性とは逆だ。泉佐野市の隣の貝塚市は、今年5月から市の認定こども園、幼稚園、小中学校の授業を民間の屋内プールで行うと表明。同様に泉南市も老朽化による維持費の高騰などを理由に、学校に設置されたプールを順次廃止し、市営の屋内プールで授業をする方針を打ち出した。泉南市の竹中勇人市長は「近年は夏場の気温が高く、屋外にあるプールでは熱中症の危険性がある。屋内化は時代の流れだ」と話した。

 一方の泉佐野市。千代松大耕市長は「防災の観点からも、避難所となる学校に水をためておくプールは必要だ」と説明するが、電気代や水道代などのプールの維持管理費は学校ごとに年間100万円以上かかり、今後の運営を不安視する声も少なくない。

 

▽多額の寄付使い切れず

 泉佐野市が集めた寄付総額890億円のうち、9割にあたる817億円が直近の2年余りの間に集まった。17年度は135億円、18年度は497億円、19年4~5月で185億円といった具合だ。

 寄付金は自治体の貯金に当たる「基金」に、寄付者から指定された目的に応じて積み立てられる。寄付額が増えるのと比例して、制度運営に掛かる経費も年々増加していた。たとえば18年度は、寄付の半分以上に当たる約263億円が返礼品の購入費や仲介サイト事業者への委託費などの経費に充てられた。

 市は寄付金の活用実績を17年度分まで事業ごとにホームページに公開している。内訳を見ると、最も多く使われているのはインフラ事業で、公民館の建設など公共施設の整備や道路・河川の補修など。次いで多いのが教育関連事業。市内の拠点病院「りんくう総合医療センター」の運営補助費やコミュニティーバスの無償運行などの医療福祉事業と続く。

 開始当初の使い道は学校校舎の整備や、高齢者世帯への訪問活動などの6項目に限られていたが、航空券と交換できる「ピーチポイント」を返礼品に加え、寄付額が1億円を突破した14年度からは町の美化事業や、市営住宅の建設費などにも使い道が拡大していった。初の全国トップとなる約135億円を集めた17年度は、地元の花火大会などのイベントや訪日外国人向けの市中Wi―Fi設置など82項目に及ぶ。

 市は今後の主な使い道として、引き続き学校のプール建設事業(13億2600万円)と、小中学校の体育館・武道場への空調設置(4億1400万円)、ナイター照明設置など公園施設の整備(1億3300万円)、野外文化音楽堂の建設(8千万円)などを計上している。

 1月に大阪高裁で泉佐野市は国に全面敗訴。新制度からの除外が続き、復帰のめどは立っていない。だが、寄付金が全く入らない想定で予算編成した20年度末の基金残高も約124億円が残る見通しで、「寄付余り」の現状は変わらない。関係者は「今後が見通せない中で恒常的に経費が掛かる新しい施策を打ち出す訳にもいかず、使い道が宙に浮いている部分もあるのが現状だ」と打ち明ける。

大阪府泉佐野市が行っていたふるさと納税のキャンペーンのお知らせ(同市HPより)

 ▽キャンペーンで恩恵も…

 国と泉佐野市の対立が決定的になったのが、昨年2月に打ち出した「100億円還元閉店キャンペーン」だ。返礼品に加えてアマゾンギフト券を上乗せすると大々的にうたい、寄付が殺到。一時中断したものの、4月からはさらに還元率を引き上げた「300億円限定キャンペーン」を展開し、制度の隙間を狙って駆け込み需要を総取りした、と批判も浴びた。

 「駆け込み批判もあったけど、アマゾンギフト券を使ったキャンペーンはめちゃくちゃありがたがった。あの収入があったおかげでなんとか持ちこたえた同業者も多い」。地元特産の「泉州タオル」を作る袋谷謙治さん(51)はそう振り返る。泉州タオルは地元で約130年の歴史を持つ特産品だが、安い輸入品に押されて近年の生産量はピーク時の2割以下となり、廃業を余儀なくされる事業者も相次いでいた。

 低迷が続く中、起死回生の一手が、ふるさと納税の返礼品だった。豪華な返礼品で注目を集めるにつれて、地場産品である泉州タオルの全国的な知名度も徐々に上昇、市場は年数億円規模にまで成長した。市が禁じ手とも言えるアマゾンギフト券を使ったキャンペーンに打って出たのは、制度から閉め出されることで返礼品を提供してきた地元業者の収入が途絶えて経営危機に陥ることがないよう、1年分の受注を確保する目的があった。

 だが今年3月にはキャンペーン分の発送が終了し、返礼品の売り上げへの依存が高まっていた業界も構造変革を迫られている。新制度下での救済策とみられていた、近隣自治体同士が共通の返礼品を設定できる「共通返礼品」としての出品も、泉佐野市の事業者は対象外にされた。売り上げを回復するのは難しい状況だ。

 現在、袋谷さんは地元の野菜やワインを使って色染めしたタオルなどの新商品を開発して売り出しているが、ふるさと納税に参加できない不満は今もくすぶる。「元々は地方を元気にする目的で始まった制度のはず。『あれもだめ、これもだめ』と上から締め付ける地方創生って一体なんなんやろ」

地元特産の「泉州タオル」を作る袋谷謙治さん

 ▽時計の針巻き戻せない

 1月30日の大阪高裁判決は、アマゾンギフト券などを贈る市の手法を「対価を求めない『寄付』が原則の制度の枠組みに反していた」と指摘。是正しなかったことを理由に新制度の対象から外した決定について「総務相の裁量権の行使に逸脱や乱用はない」と判断した。

 だが市は「制度の枠組みに反したら不利益を課されるというルールはなかった。過去の寄付の募集実績を除外の判断材料とされた」と反論し、最高裁に上告した。「独立した地方自治体の地位を侵害する」として除外決定は憲法違反だったと争う構えだ。一連の国との「対決」について千代松市長は「今まで国と地方は対等だと言っていたのはきれい事。全て自分たちでひっくり返してきた」と語気を強める。

 なぜここまで国に対抗するのか。背景には過去に国に抱いてきた根強い不信感がある。市が財政健全化団体に転落した09年の4月に、関空と対岸を結ぶ連絡橋が国有化され、市にとって貴重な財源だった年間約8億円の固定資産税を失う形になった。こうした経緯から「国はいざというときには何もしてくれない」という思いを持つ職員は多い。

 だが国との対立が長期化することへの不安は大きい。市民からは「ふるさと納税に固執すればするほど、ダーティなイメージもついて回る。別の収入源を検討するのも一つの手では」といった声も漏れる。それでもふるさと納税で市や事業者が力を結集して財政破綻寸前の状況から脱却できたという自負は強く、市幹部の一人は「やっと普通の自治体になってきた。ここで時計の針を巻き戻すわけにはいかない」と引き下がらない姿勢を強調する。

大阪高裁に向かう大阪府泉佐野市の千代松大耕市長(中央)ら=1月30日午前

 一連の対立について専門家はどう見ているか。山梨大大学院の藤原真史准教授(地方自治論)は「新制度後で泉佐野市を除外した総務省の対応は後出しじゃんけんのようだし、国を挑発するような市の姿勢も地方公共団体の態度としてどうかと思う。お互い引くに引けず、けんか腰になっている」と現状を分析。「国と地方は対等かつ協力的な関係であるはず。自治体は押しつけに反発するだけでなく、寄付の活用計画を外部に公表して透明性を高め、一部に寄付額が偏在しないような仕組みを自治体間の横のつながりで構築していくべきだ」と訴えた。