列島に差した一筋の光明 ライブ生配信で新境地 ナンバーガール

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「NUMBER GIRLが放つ轟音を浴びながら、無観客のホールでシャドーボクシングする森山未来。スペースシャワーTVオフィシャルYouTubeチャンネルが無料配信した映像より」

 2月下旬某日、筆者は自宅のベッドに倒れ茫然自失、白目をむいていた。新型コロナウイルスの影響で、高倍率の抽選を経て入手した複数のライブが一瞬にして蒸発(中止または自粛)。チケットが事実上、紙切れと化したのだ。

 2月29日のクレイジーケンバンド単独公演。ハナレグミと橋本絵莉子、新進気鋭の弱冠17歳シンガー・ソングライターみゆな目当てでゲットした、3月7日の「J―WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE」。とどめは、昨年末の拙コラムで激推しし、参戦マストだった3月8日の「ゾンビランドサガLIVE」まで開催自粛に…。

 痛恨の極みである。これは何の罰だ。

 だが、未知のウイルスに翻弄され、五輪開催すら危ぶまれている日本列島にあってもなお、「渡る世間に鬼はなし」であった。

 昨年、17年振りに再結成し、全国の元・現役パンク小僧、パンク少女を熱狂させた福岡市博多区出身のロックバンドNUMBER GIRL(ナンバーガール)が3月1日、「TOUR 2019―2020『逆噴射バンド』追加公演(a)Zepp Tokyo」を無観客で敢行。全国30カ所でのライブ・ビューイングのみならず、スペースシャワーTVオフィシャルYouTubeチャンネルでの無料配信を決断、予告したのだ。

 よもやの朗報に、全国のパンク小僧、パンク女子、ロッキング・オン系の音楽ファンはSNSで歓喜の声を連発。「ナンバーガール」は即座にツイッターのトレンドワード上位へ。

 筆者はTOHOシネマズ新宿でのライブ・ビューイングチケットを獲得していたものの、慎重すぎる凡人であるがゆえ、ウイルス感染への恐怖が圧倒的に勝り、YouTubeでの視聴を即断。自室のパソコン・モニター前で固唾をのんで、半ば瞑想状態で開演を待った。

 そしていよいよ18時。ステージにメンバー4人(向井秀徳〈Vo/Gt〉、田渕ひさ子〈Gt〉、中尾憲太郎〈B〉、アヒト・イナザワ〈Dr〉)が登場。薄暗く、静まりかえった無観客のZepp Tokyoはあたかも異世界。黄泉の国の一角にすら見える。

 1曲目は屈指の名曲「鉄風鋭くなって」。きた!! いきなりトップギアである。フルスロットルで爆音を噴射する4人は鬼神そのもの。

 向井はMCで焼酎水割りとおぼしき液体を補給しながら、幾度も「異常空間Z!」と絶叫。唐突に「子連れ狼」の主人公拝一刀に扮して「大五郎、これより冥府魔道に入るぞ」とつぶやいたり、「水たまりを通った後のネコの物まね」を披露したりと、ニッチで謎の小ネタを挟みつつカオス度をじわじわ上げていく。

 揚げ句の果てには、タバコ4本をくわえて煙をくゆらせながら、シド・ビシャスさながら観客席のカメラ正面に向けてリボルバーを発砲!(※カメラは破壊されなかったのでモデルガンであろう。「異常空間Z」の「Z」は、ウイルス禍に見舞われた列島の暗喩であろうか。Zeppの単なる略であろうか。正解はたぶん、誰も知らない。)

 “騒やかな”演奏は続く。1995~2002年当時の向井のハイキーな絶唱を、無双の斬鉄剣にたとえるならば、現在の向井のドスが効いたシャウトはいわば、示現流の侍が容赦なく振り下ろす一撃必殺の木刀である。

 珠玉のナンバーが怒濤の勢いで繰り出され、バンドはさらにアクセルを踏み込みレッドゾーンへ突入。終盤、ついにナンバーガールの代名詞的ナンバー「OMOIDE IN MY HEAD」のイントロが鳴り始めると、カメラがなぜかステージから逆方向へターン。

 トレンチコートにオレンジ色のニット帽、マスク着用―という職務質問不可避な不審者(いや、現代日本人の正装か?)が薄闇にぼんやりと浮かび上がる。「誰だ?あれ?」

 男は、無人のアリーナに倒れ込んだと思いきや、超人的な身体能力で跳躍し、向井のシャウトにシンクロしながらキレッキレでヘッドバンギング。スタイルもやたらとかっこよく、「こいつ、ただ者ではないな」と思いながら凝視していると、いきなりマスクを投げ捨てた! 正体は、まさかの森山未来。意表を突く、衝撃的な森山未来降臨なのであった。

 無手勝流で破天荒なステップ、シャドーボクシングまで交えた鬼気迫るコンテンポラリー・ダンスで「異常空間Z」は完全に白熱。その時、オーディエンスの体感時速は300キロを超えていたはず。SNSも瞬間沸騰し、「森山未来」も即トレンド入りした。

 ついに森山はステージに乱入。向井のタバコを拝借して、余裕たっぷりで紫煙をなびかせバンドを煽ったかと思えば、ホールに下りて両足を投げ出し座り込み、笑みをたたえてメンバーと対峙。全身全霊で(イケメン過ぎるが)オーディエンス代表、そしてパンクそのものを体現してくれたのだった。

 スペースシャワーTVの生配信も、液晶モニター越しとは思えないほど臨場感にあふれた素晴らしいクオリティーを終始キープし、あまたの視聴者を熱狂の渦に巻き込んだ。

 無観客ライブ敢行、無料生配信を決断したメンバーの覚悟に呼応するかのように、バンドへのリスペクトを全力で注ぎ込んだ緻密なライティングや巧みなカメラワークも、これまでに見た生配信、生中継ライブの中では群を抜いていた。

 今回の無観客ライブは、リアルタイムで少なくとも5万人以上がYouTubeで視聴。ライブ・ビューイングの観客も含めると、1バンドの単独ライブとしては、ドーム、アリーナ公演の動員数を軽く上回る破格の規模である。

 半ば“冷凍都市”(向井が好んで使う言葉)と化した東京から、ナンバーガールが世界に放った轟音は、新型ウイルスの感染拡大により、ほとんどのイベントが中止に追い込まれ、意気消沈している列島を活気づけた一つのアートとして、また、さまよえる音楽ファンを刮目させ奮い立たせた一筋の光明として、さらに今後のライブ生配信のあり方として新境地を切り開き、音楽史に確かな爪痕を残したエポックメイキングな事件だった―と、ライブを目撃して2週間が過ぎた今も、興奮が冷めやらないのである。

 (スペースシャワーTVは4月30日22~24時に、同ライブの放送を予定しています。ナンバーガールを知らなくても、パンクやロックに興味がなくても、一見の価値はあり。

 どなたにもぜひ見ていただきたい。心からそう思ってやまない次第です。)

(共同通信記者 鈴木賢)