強いからヒーローなんじゃない、ヒーローだから強いんだ! プラバースに絶叫・悲鳴・失神!!『サーホー』

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『サーホー』

35億ルピー(50億円)という巨費を投じて製作され、2019年8月末にインドで封切られて反響を呼んだ『サーホー』がいよいよ日本で公開されます。主演は『バーフバリ』二部作(2015年/2017年)のプラバース。神話的な世界を背景にした『バーフバリ』からガラリと雰囲気を変え、現代のムンバイと近未来的なハイテク都市を主な舞台にしたクライム・アクション巨編です。

『サーホー』

驚天動地・疾風迅雷のジェットコースター・ストーリー!

舞台は架空の都市ワージー。中東の産油国をモデルにしたらしいこの都市は、巨大な富の集積地であり、超高層ビルが林立する首都は高度なテクノロジーによって管理されています。しかし同時に、ワージーはその富に惹かれて世界中からやってきたギャングたちのハブでもあり、その裏社会の頂点に君臨するのが、苛烈な主導権争いを勝ち抜いた、インド出身のロイ(ジャッキー・シュロフ)でした。

『サーホー』

初老に達したロイは、事業の合法化を望むようになり、そのために数十年ぶりにインドのムンバイに帰郷しますが、そこで何者かに狙われて命を落とします。その後まもなく、ムンバイでは3人の男たちが射殺される事件が発生し、捜査にあたる警察のチームの1人としてアムリタ(シュラッダー・カプール)が登場。彼女は現場でアショークという名の覆面捜査官(プラバース)と引き合わされます。アムリタは、同じころにムンバイで起きた大がかりな現金・貴金属強奪事件でも特別捜査班に編入され、アショークと一緒に仕事をすることになります。ほどなく捜査線上には不審な若い男(ニール・ニティン・ムケーシュ)が浮かび上がり、そこからは息もつかせぬチェイスと、どんでん返しの連続となります。

『サーホー』

若干長めに導入部の粗筋をご紹介しましたが、公式サイト上にある情報以上のものではありません。本作がインドで公開された時点で、「ストーリー展開やどんでん返しの裏にある因果関係が複雑で分かりにくい」という評を多く目にしたので整理してみました。

『サーホー』

ワージーを拠点にしたギャングのシンジケート内の権力闘争、ムンバイで起きた3人の男の殺人事件、巨額の現金・貴金属強奪事件、これら3つがラストでカチリと噛み合います。とはいえ、本作をご覧になる方の相当数が、『バーフバリ』でテルグ語映画・インド映画に開眼し、さらにはプラバースの虜になったファンの人々でしょう。そうした観客にとっては、複雑なストーリーは何度も映画館にリピートする口実となるので問題ないはず。劇中では主人公が口にするファンダムについての気の利いた警句もありますのでお見逃しなく。

『サーホー』

全身全霊がヒロイズムのかたまり!

実際に本作は、プラバースの魅力を100パーセント前面に押し出したつくりで、初登場の場面から、ファンにとっては紙吹雪タイム&絶叫・悲鳴・失神シーンの連続。あんなことやこんなことをするプラバースを、ただひたすら愛でる169分のプラバースの万歳世界と言っても過言ではありません。そして、込み入った展開の中でプラバース演じる主人公だけが、最初から最後まで不敵に自信満々で、全てを先読みしているかのようです。

『サーホー』

このような「登場前から人々が惜しみなく賛辞を注ぎ」、「初登場でまだ何事も成し遂げていない時点から主演俳優がヒーローとして仰ぎ見られる」語り口、「強いからヒーローなのではなく、ヒーローだから強い=強さの理由を全く説明しない」という、ロジックを超越したスター中心の構造は、インド映画の伝統的な語りのパターンのひとつです。『サーホー』は、外国人から見たインドのエキゾティズムが映像的にはあまり見当たらないのに、混じりけなしのインド映画なのです。

『サーホー』

各言語圏から選りすぐられた百花繚乱の脇役軍団!

ヒーローが光り輝くためには、闇にうごめく悪役も必要です。テルグ語、ヒンディー語、タミル語の3言語で公開された本作、プラバースとシュラッダーのリードペア以外のキャストは、様々な言語圏から選りすぐられた激シブの悪役的な性格俳優たち(専門の悪役と、印象的な悪役演技で注目された俳優)です。これは、インド人の観客に対してすら見覚えがない顔を多数登場させ、ストーリーの転がる先を予測できなくするという効果を狙ったもののように思われます。

『サーホー』

公式サイトや劇場売りパンフレットで紹介されている役者以外でも、テルグ語映画界からタニケッラ・バラニ(『バーフバリ 伝説誕生』[2015年])、スプリート(『あなたがいてこそ』[2010年])、ヴェンネラ・キショール(『バードシャー テルグの皇帝』[2013年])、ムルリ・シャルマー(『ダバング 大胆不敵』[2010年])、ムクタール・カーン、タミル語映画界からはアルン・ヴィジャイ、マラヤーラム語映画界からはラール、デーヴァン(『バーシャ!踊る夕陽のビッグボス』[1995年])、マラーティー語映画界からはマヘーシュ・マーンジュレーカル(『燃えよスーリヤ!!』[2018年])、カンナダ語映画界からはプラカーシュ・ベーラワーディ、シャラト・ローヒターシュワーなどなど、個性派&実力派俳優が集結しています。プラバースだけでなく、続々と現れるワルい顔を愛でたい人にも本作はお勧めです。

文:安宅直子

『サーホー』は2020年3月27日(金)全国ロードショー