西武新宿線

本川越に到着したニューレッドアロー「小江戸」

 【汐留鉄道倶楽部】城下町の川越は首都圏の観光地の中で好きな町の一つである。江戸文化の面影を残し、蔵造りの建物が今も残る落ち着いた雰囲気が心地よい。寺院や旧跡が多数あり、飲食店にしてもウナギあり、菓子あり、コロッケあり、とまさに食べ歩きタウンとしても楽しさを満喫できる。

 先日、その小旅に出た。川越に向かう鉄道は西武新宿線、東武東上線、JR川越線の3ルートがある。このうち選んだのは西武。これまでは東武が多かったが、西武の強みは全車指定の10000系有料特急「ニューレッドアロー」(NRA)で行けること。他の2路線では味わえない豊かな気持ちでシートに座ることができる。

 始発の西武新宿から本川越行きの特急に乗り込む。愛称は「小江戸」。西武2代目の特急車両で新宿線に1993年から導入された。

 西武新宿を出るとこれぞ新宿線という典型的住宅街を走り抜ける。あんまりスピードは出ないが沼袋、都立家政など高校時代によく利用しただけに懐かしい。当時は鷺宮で下車していたけど、今はすっかり変貌しただろうな、なんて思いながら通過する。

 沿線はまだ畑が散在していたはずだが、今はこのあたりは家並みがぎっしり。所沢まではこれといった中核駅がないためかずっと通過して所沢で池袋線と接続する。

 この辺からスピードは少し上がり、やがて本川越に到達する。乗車時間は約45分。特急としてはやや物足りない時間だが、適度な揺れが気持ちよく、快適な乗車時間だった。

 NRAは池袋線でも西武秩父とを結ぶ「ちちぶ」などに使われたがこの春に引退。後継を最新型の001系「ラビュー」に譲った。初めて見たときは球のような正面に面食らった上、客室窓も足元まで拡大されるなど特徴ある姿。春からはNRAは新宿線だけで走るようになった。

 新型コロナウイルス感染がはびこる直前だったためか、観光客はいてそこそこの賑わいだった。相変わらず空の大きな素敵な町。たっぷり堪能して再度「小江戸」にて西武新宿に向かった。

初代レッドアローの記念切符

 そういえば今春は首都圏も鉄道ニュースにあふれていた。池袋線からのNRA引退もそうだが、東日本大震災後の原発事故で一部区間が不通だったJR常磐線が再開。特急「ひたち」の仙台直通が復活したり、山手線に半世紀ぶりの新駅「高輪ゲートウェイ」が開業したりした。

 中央線は終日快速運転となったり、常磐線の佐貫駅が龍ケ崎駅に改称されたり。私鉄も加えればもっと多くの動きがあったことだろう。

 「高輪ゲートウェイ」は開業後の今も命名に違和感を持つが、せめて「高ゲー」なんて山手線らしからぬ風格に欠けた略称で呼ばれることのないよう願うばかりだ。

 さて、西武新宿線。新井薬師から沼袋の先あたりにかけて線路脇に多くの工事現場を目にした。相当長い間、計画だけはあったがいつの間にか本格的な地下化工事が行われていた。渋滞で有名だった中野通りの踏切もなくなることだろう。

 ☆共同通信 植村昌則

 ※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。

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