新型コロナ自粛中に「スマホ観戦のススメ」 DAZNだけじゃない、ニッチでユニークなサービスを知れ

日本のみならず世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスの感染拡大により、あらゆるスポーツイベントが無観客での開催、あるいは中止・延期に追い込まれている。スポーツファンにとっては、長くつらい時間を過ごしていることだろう。
こんな時期だからこそ、あらためて注目したいのが「スマホ観戦」だ。スポーツ動画配信サービスといえば、日本では「DAZN」が最も有名だが、世界を見渡せば実にさまざまなサービスが存在する。中には、なんでこんな競技を放映してるの?と思うような、ニッチでユニークなものもあるのだ。

(文=川内イオ、写真=Getty Images)

最大手DAZNの配信国は9から200に拡大へ

新型コロナウイルスの猛威はスポーツ界にも飛び火し、日本、アジアだけでなく、欧米でも無観客試合や試合の延期・中止につながっている。いまだに収束の気配もなく、先行きも見えず、やりきれない思いを抱えているスポーツファンも多いのではないだろうか? この騒動を機に一気に拡大しそうなのが、PCやスマホ、タブレットでの観戦だ。

現在の状況になる前から、スポーツのストリーミング配信が世界に広がったことで、そのマーケットは拡大していた。サッカーだけを見ても、アジア太平洋地域で欧州トップリーグのストリーミング配信の視聴者が増えたことにより、コンテンツとしての価値は2018年の128億ドルから2024年には319億ドルに達すると予想されている。スポーツ全体の価値は、2018年の485億ドルから2024年には850億ドルにもなるという。

スポーツ動画配信サービスの世界最大手は、日本でもJリーグの配信でおなじみのDAZN(ダゾーン)だ。2016年のサービス開始以来、ドイツ、オーストリア、スイス、日本、アメリカ、カナダ、イタリア、ブラジル、スペインの9カ国で事業を展開しており、2019年末の時点で加入者がおよそ600万人から800万人と報じられている(DAZNは加入者数を非公表)。

海外のあるレポートによると、2019年5月の収入は前年同月比950%増の1150万ドルで、世界で最も稼いでいるスポーツアプリになったそうだ。「スポーツ界のネットフリックス」とも称されるDAZNは今年、配信先を現在の9カ国から200以上の国と地域に拡大する方針で、加入者はさらに大幅に増加するとみられている。

ボウリングにロデオ? マイナースポーツで勝負する「FloSports」

まだビジネスとして成熟していないスポーツ動画配信サービスは群雄割拠で、DAZNとは異なる戦略でユーザーを増やしている事業者もある。アメリカで気を吐いているのは、2006年にマーティンとマークの兄弟が資金1万ドルで立ち上げた「FloSports」。テキサス州に拠点を置く同社は、ユーザー数は非公表ながら、2019年の1年間で1万件超、3億900万分以上のライブイベントの配信をして、新規加入者が170%増加したと発表している。

特徴としては、サービス開始当初から高校や地域の大会などを配信して加入者を伸ばし、現在も大手が手掛けないようなボウリング、体操、チアリーディング、ロデオ、陸上などニッチなスポーツの放映権を続々と獲得していることだ。

自転車競技の75のレースを300日以上にわたって配信する「FloBikes」や、全米で開催されるレスリングの大会をカバーする「FloWrestling」など専門チャンネルは27に及び、今年1月には新たに、大学野球と青少年野球専用のプラットフォーム「FloBaseball」をローンチした。これは、大学トーナメント上位のNCAA(全米大学体育協会)チームの試合を700試合以上放送するほか、高校生を含む青少年向けの野球番組として、次世代の新星を追うニュース、独占インタビューなどオリジナルコンテンツが提供される。

さらに2月には、サウジアラビア、ドバイ、オーストラリアなど世界各地で開催されている競馬レースを放送する権利を取得した。同社はこれまでに7920万ドル(約85億円)を調達しており、さらにコンテンツを拡充するとしている。

モルドバ、キプロスに、なでしこも? サッカー界のニッチを追及「MyCujoo」

世界的な人気コンテンツであるサッカーに特化した動画配信サービスもある。ユニークなのは、2014年にスイス在住のポルトガル人の兄弟がローンチした「MyCujoo」だ。現在、オランダ・アムステルダムに拠点を置く同社はサッカー界のニッチを追及しており、6大陸150カ国以上にパートナーを持つ。

2016-17シーズンからスイスリーグ3部と4部の全試合を放送しているほか、アメリカの4部リーグに当たるUSL League Two、ブラジル4部のセリエD、マレーシアリーグ、日本のなでしこリーグまで、約350のリーグや大会と提携しており、昨年は2万以上の試合を配信した。特に女子サッカーの配信に力を入れており、昨年は世界中の190以上の大会で3000を超える試合を配信した実績がある。

「MyCujoo」は独特の手法を取っており、各国リーグと契約して配信するだけでなく、独自開発したスマートフォンの配信専用アプリを契約先のパートナー(協会、リーグ、大会主催者やクラブ)に提供することで、世界中のサッカークラブが試合をセルフ配信できるようにしている。

今年2月には、モルドバのサッカー協会と複数年契約を締結。協会が主催する青少年の大会、女子リーグ、男子2部リーグ、ビーチサッカー、フットサルを対象としており、セルフ配信できるように首都キシナウで「MyCujoo」がワークショップを開催したそうだ。ちなみに、欧州サッカー連盟(UEFA)加盟国ではほかにキプロスとブルガリアのサッカー協会が提携している。

2016年に120万スイスフランを調達している「MyCujoo」は、ペイパービュー(PPV)方式と無料視聴で広告が差し込まれる仕組みでマネタイズしている。今年は500以上のリーグの試合を放送するとしている。

日本発の「Rakuten Sports」にも注目!

チリ人が立ち上げたアメリカ・マイアミ発の「Fanatiz」も、サッカー中心の配信で急成長している。2016年にサービスを開始した同社は、アメリカのほか中南米での視聴者獲得に力を入れており、各国のテレビ局と提携してスペイリンリーグやアルゼンチン、コロンビアなどの1部リーグ、南米の大陸選手権コパ・リベルタドーレス、レアル・マドリードTVなどを配信している。

ユーザーがお気に入りのクラブをフォローすると、クラブのニュースを受け取ることができる仕組みでユーザー数を増やしており、2019年7月から半年で有料会員数が125%伸びたそうだ(会員数は非公表)。同社は今年1月に1000万ドルを調達しており、さらにコンテンツを拡充する見込みである。

楽天が提供している「Rakuten Sports」にも注目だ。現在は、ヴィッセル神戸に所属するアンドレス・イニエスタのオリジナル動画「イニエスタTV」が目玉コンテンツで、日本など一部を除く140の国と地域ではJリーグも視聴可能だ。今後は、卓球、バスケットボールなども配信するという。楽天は日本国内限定のサービスとして「Rakuten TV」も提供しており、海外・国内の両方でコンテンツを拡充していく。

新型コロナウイルスの影響でスタジアムやスポーツバーに行きづらい今こそ、ここに挙げたようなスポーツ動画配信サービスにはチャンスがあるだろう。それぞれが、さらなるコンテンツの拡充に動いているはずだ。それは、行き場所のないスポーツファンにとっても朗報となるだろう。

<了>

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