【MLB】イチローは史上最高の「安打製造機」 引退から1年―改めて振り返る偉業の数々

2019年3月21日に引退を表明したマリナーズ・イチロー【写真:AP】

2001~2010年の通算安打数は断トツの2244安打、この10年の通算打率は.331だった

 イチローが東京ドームで日本の野球ファンに別れを告げたのは、1年前の3月21日だった。4万6451人の大観衆は、この不世出の大選手の引退を見届けた。改めてメジャーリーガー、イチローとはどんな選手だったのか振り返りたい。

 イチローは日本選手、そしてアジア出身選手として初めて首位打者になり、MVPにも輝いた。また、MLB通算2000安打、3000安打もアジアではイチローだけだ。韓国出身の秋信守(レンジャーズ)は2019年時点で1645安打。イチローに次いで2000本をクリアする可能性はあるが、3000本に届くアジア出身選手は当分出そうにない。

 この記録に代表されるように、イチローはメジャーの歴史に残る「安打製造機」だった。記録は、2010年を境にくっきりと明暗が分かれている。

○2001年~2010年(マリナーズ)
 1588試合、6779打数2244安打、90本塁打、558打点、383盗塁、打率.331

○2011年~2019年(マリナーズ、ヤンキース、マーリンズ、マリナーズ)
 1065試合、3155打数845安打、27本塁打、222打点、126盗塁、打率.268

 イチローは28歳になる年にMLBに移籍した。2010年オフには37歳。後半の9年間は、野球選手としては高齢と言える年齢でプレーした。それだけに成績は見劣りするが、2001年から2010年までの成績は、驚異的だ。データは「Baseball Reference」「Fangraphs」に基づく。

○この10年間のMLB安打数5傑
1 イチロー 2244安打
2 D・ジーター 1918安打
3 A・プホルス 1900安打
4 M・テハダ 1864安打
5 M・ヤング 1848安打

 イチローは10年連続で200安打をマーク。2位のジーターには300本以上の大差をつけて断トツだった。イチローとデビューが同期のプホルスが3位につけている。

○この10年間の通算打率(3000打席以上)
1 A・プホルス .3314
2 イチロー .3310
3 J・マウアー .327
4 B・ボンズ .325
5 T・ヘルトン .321

 プホルスにわずかに及ばなかった。しかし、断トツの安打を量産しながら、高打率をもキープしたのだ。

2004年にシーズン新記録の262安打、年間200安打以上はローズと並びトップタイの10回

 21世紀最初の10年、イチローはMLBで最も活躍した打者の一人だった。「安打製造機」イチローの凄さにさらに迫ってみよう。

○MLBシーズン安打数5傑
1 イチロー 262安打/2004年
2 G・シスラー 257安打/1920年
3 L・オドール 254安打/1929年
3 B・テリー 254安打/1930年
5 A・シモンズ 253安打/1925年

 イチローといえばこの記録。2004年にジョージ・シスラーの記録を84年ぶりに更新した。シスラーはイチローが誕生した1973年に死去している。まさに生まれ変わりだ。2位から5位までの記録は1930年代までに達成された。21世紀以降で次の記録はイチローが2001年、ルーキーイヤーに記録した242安打。イチロー以外ではホセ・アルトゥーベが2014年に記録した225安打だ。

○200安打の回数5傑
1 P・ローズ 10回
1 イチロー 10回
3 T・カッブ 9回
4 W・キーラー 8回
4 P・ウェイナー 8回
4 L・ゲーリッグ 8回
4 D・ジーター 8回

 MLBで200安打はこれまで536回記録されているが、イチローの10回はMLB最多安打のピート・ローズと並び最多タイ。3位には通算安打2位のタイ・カッブがつけている。イチローがすごいのは、200安打をデビューの2001年から2010年まで10年連続で記録したことだ。これに次ぐのは1894年から1901年まで8年連続で記録したウィリー・キーラー。21世紀以降では1983年から7年連続で記録したウェード・ボッグスだ。

 2001年春、イチローのデビューを前にアメリカの解説者たちは、このNPB最高の打者に対して「ケニー・ロフトン(通算2428安打、打率.299)くらいの成績は残すのか? ジョニー・デーモン(2769安打、打率.284)くらいか」「そこまではいかないだろう」と議論していた。

 ロフトンもデーモンも一流のリードオフマンだが、イチローは19年間で3089安打、打率.311をマーク。識者の予想をはるかに上回る活躍をした。史上最高の「安打製造機」、イチローがいない喪失感、「イチロー・ロス」は、今年あたりじわじわと野球ファンに染みてくるのかもしれない。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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