レイズ筒香も苦労した金属から木製バットの対応 “世界基準”から外れつつある日本野球

レイズ・筒香嘉智【写真:Getty Images】

日本の高校野球が金属バットを導入したのは1974年

 日本の高校野球が金属バットを導入したのは1974年だ。これ以来、日本の高校野球は他の野球とは異なる独自の進化を遂げるようになる。

 高校野球で金属バットが導入されたのは、木製バットがしばしば折れて費用がかさむからだった。耐用性のある金属バットにすることで、部活の費用を抑えたいとの意図だった。金属バットはもともと日本で発明されたとされる。1960年代、芝浦工大の大本修博士が、アルミニウム、銅、亜鉛の合金の筒を圧縮成型する金属バットを開発した。大本博士はのちに野球殿堂入りしている。

 しかし、導入当初は木製バットを使い続ける学校もあり、金属バットは急速には普及しなかった。金属バットが一気に普及したのは、1982年の夏の甲子園で、徳島の池田高校が「やまびこ打線」で初優勝したのがきっかけだった。池田高校の蔦文也監督は、金属バットの特性を活かして振り抜く打法で、6試合85安打と言う大会新記録を打ち立てた。

 これまでの高校野球は「球に逆らわない打法」で出塁し、つなぐ野球が基本だったが、池田高校はその常識を覆したのだ。スイングスピードを上げるために筋トレを行ったのも池田高校が始まりだった。この池田高校を上回る猛打を見せたのが桑田真澄、清原和博の「KKコンビ」を擁するPL学園だ。清原は歴代1位の甲子園通算13本塁打を記録。桑田もこれに続く6本塁打を打った。こういう形で、甲子園の野球は「つなぐ野球」から「一発狙い」の野球へと変貌していった。

 1965年から74年の10年間の春夏の甲子園では、597試合で143本塁打(1試合当たり0.24本)だったが、1975年から84年では751試合で374本(0.579本)になる。甲子園での本塁打数は増加の傾向がとまらなかったため、2001年には金属バットの重さを900g以上とするルール改正が行われたが、以後も本塁打は増え続け、2005~2014年809試合525本(0.648本)、2015~2018年329試合264本(0.802本)となっていった。

反発係数の高い金属バットの使用で甲子園の人気も高まるが…

 金属バットが安打、本塁打が出やすいのは、反発係数が高いからだが、それだけではなくスイートスポットが広いこと、さらには木製バットとバランスが異なり、重くても楽に振りぬくことができることが大きいとされる。金属バット独特の打法が拡がり、甲子園で本塁打が量産されるとともに、甲子園人気は高まったが、一方で弊害も目立つようになった。

 金属バットの打撃に慣れた選手は、ボールを前の方でとらえることが多い。多少フォームは崩れても振り抜きさえすれば打球は飛んでいく。しかし、木製バットは、ボールをしっかり引き付けてバットの芯に当てて振らないと打球は飛ばない。

 大学、社会人、プロ、独立リーグなど、高校野球の上のレベルではほとんどが木製バットを使用する。高校生の選手の中には、金属バットと木製バットのギャップに苦しむ選手が少なくないのだ。今季からMLBレイズでプレーする筒香嘉智は「僕も高校からプロに入って、木製バットに対応できなくて苦労しました」と述べている。

 履正社高校など強豪校の中には、練習で木製バットを使用するなどギャップを埋める努力をしている学校もあるが、公式戦では金属バットを使用するためなかなかギャップは埋まらない。

 アメリカでは金属バットの打球が速すぎて事故が続出したために、2012年から大学野球、高校野球、リトルリーグで反発係数を木製バットと同レベルに調整したBBCOR(Batted Ball Coefficient of Restitution)仕様のバットを導入している。

 また韓国や台湾でも大半の野球大会で木製バットを使用するようになっている。反発係数が高い金属バットを使用し続けているのは、日本だけなのだ。

中学野球ポニーリーグでは今季からBBCOR仕様のバットを導入

 近年、秋にU-18の野球世界大会が行われている。日本では甲子園で活躍した選手を中心にU-18侍ジャパンが結成され参加している。日本はWBSC(世界野球ソフトボール連盟)のランキングで1位だが、U-18侍ジャパンは、韓国や台湾に負けることが多く、優勝はおろか、表彰台にも上らないことが多い。その大きな原因が、金属と木製の「バットのギャップ」だと言われている。

 昨今、MLBでは「フライボール革命」が起こっている。これと高校野球の「金属バット打法」は、遠くへ飛ばすことを目指すという点で似ているように思える。しかし「フライボール革命」は、ホームランになりやすい「バレル」と呼ばれる角度に強い打球を打つことを目標としている。十分に引き付けてボールをバットの芯に当てることが必要だ。バットコントロールなどの技術も求められる。バットの反発係数に任せて強く振りぬくだけの「金属バット打法」とは似て非なるものだといえよう。

 2019年9月、日本高校野球連盟は金属バットの反発性能を抑制し、木製バットに近づけるようにすると発表した。最大径を現在の67ミリから木製の平均に近い64ミリに縮小し、球の当たる部分もより肉厚にすることで、従来より打球が飛ばないようにする。アメリカで導入されている低反発のBBCOR仕様の金属バットは国内の規格に合わないので、メーカーに依頼して新たなバットを開発中だ。

 これは進歩だが、できるだけ早い導入が必要だ。日本では、高校野球に倣って中学校の硬式野球団体もよく飛ぶ金属バットを使用している。ポニーリーグは昨秋、今季からBBCOR仕様のバットの導入を発表したが、ボーイズ、リトルシニア、ヤングの3団体は依然として反発係数の高い金属バットを使用している。

 中学から世界の野球とのギャップが始まっている現状を是正するためにも、高校野球の使用バットの早急な改革が求められる。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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