7年ぶりの新型、ホンダフィットは「柴犬顔」とハイブリッドシステムの先進性で勝負

使いやすさでトップクラスの人気を誇ってきたホンダ・フィット。人気モデルは7年ぶりにモデルチェンジをしたのですが、「忠犬のような可愛さ」を感じました。人気の基本にあったユーザーの求めを裏切らないという“フィットらしさ”はしっかりと継承されているのでしょうか?じっくりと見てみましょう。


新しい「柴犬顔」は悪くない

初めてこのフロントのデザインを見たとき、“フィットらしさ”とはいったい何だろうか?と考えてしまいました。4代目となる今回のモデルは全くの新モデルですから、デザインも一からやり直し、そのキーワードとなっているのが“柴犬らしさ”というのです。

実は初代以来、フィットのデザインのイメージというのはキリッとしたツリ目、あるいはアーモンドアイのヘッドライトのデザイン、天地が短く横に長いシャープなフロントグリルを装備していて、全体としては軽快さや若々しさを感じさせる表情でした。それがいきなり柴犬です。もちろん柴犬、大好きですけどそれがデザインに生きているといわれて、少しばかり戸惑ってしまったわけです。

柴犬の愛らしい目に見えなくもない

「飼い主に忠実」が柴犬の特徴でもありますが、使いやすさを求めるユーザーにジャストフィットしてきた“フィットらしさ”を、他の部分で探してみましょう。サイドを見ると、歴代のフィットと同じ広々としたガラスエリアのデザインが印象的です。とくに目が行ったのは大きな三角窓。細めのAピラー(フロントウィンドーの柱)とその後ろにある三角の面積がかなり大きいです。これは歴代のフィットが守り続けてきた長所の一つです。Aピラーによる左右斜め前方の死角を少しでも減らそうという装備で、これは本当に安全で快適です。とくに交差点での右左折時、小さな子供たちの頭なども認識しやすく、けっこうホッとすることが多いのです。

その三角窓が今回は相当大きくなりました。その良好な視界を確保するためにAピラー自体も細くしたと言います。Aピラーを細くした上でボディの剛性をも確保しているので、エンジニアの苦労が想像できます。このサイドのグラスエリアは確実にフィットらしさを表現しているといえるポイントです。

サイドウインドウの広さから視界の良さを感じる

実際に、車内に乗り込んでみました。

フィットらしさが随所に

シートに腰を下ろしました。座面もシートバックも天地に長めで、体をガッチリと受け止めてくれますから、座り心地はけっこうよく感じます。とくにシートバック、つまり背もたれですが、左右への動きに対してもしっかりと上体を支えてくれますから、とても安定感を感じます。この座り心地のいいシートもフィットの伝統ですね。サラッとした肌触りも好感が持てます。

そしてインパネはシンプル。スッキリとしたデザインと適切なレイアウトで、いかにもコンパクトハッチらしい簡潔な雰囲気を作り出しています。実際に走り出してより強く感じたのですが、余計な情報や操作系が目に付かず、とてもストレスが少ない視認性、操作性のインパネだと思いました。しばらく走ってみるとその楽さをしっかりと感じることができます。おまけにダッシュボードには手触りのよいプライムスムース(合皮)が用いられている点も高ポイントです。

でも、なんか物足りない……。そうなんです、柴犬ですからもう少し可愛らしさというか、愛着の湧く部分というか、本当に人間とはわがままなものですが、機能性は高いのですが、ここがお気に入りというデザインがあまりないように感じました。無印良品の良さは十分に理解していますが、機能的すぎるというのも、ちょっとばかり色気不足を感じた点が気になるポイントでした。メーターパネルを含めインパネはドライバーが1番目にする時間が長い場所なんです。せっかく柴犬を持ってきたのですから、インテリアにもそのキーワードとの共通性を感じさせるお遊びが見えていいのではないでしょうか。

チップアップ&ダイブダウン機構付6:4分割可倒式リアシート

でも気になるのはそのくらいです。例えばフィットの受け継がれしグッドポイントであるセンタータンクレイアウト。燃料タンクを前席の下に収めるという独自のレイアウトにより、床を低くすることで広いキャビンを実現してきました。もちろん4代目でも健在です。リアシートの足下も広々としていますし、大人4人が乗っても前後のゆとりはけっこうあります。そしてなにより、後席を前方に倒せばフラットになる荷室も、リアシートの座面を跳ね上げれば広々とした収納スペースが確保できる点も健在です。このスペース面のゆとりと使い心地のいいアイデアは、いかにもフィットです。

ドライバーにも忠実

今回レポートするのはハイブリッドモデルのe:HEV。特徴は、3つのドライブモードを持つハイブリッドシステムです。エンジンが発電しモーターで走る、エンジンとモーターで走る、そしてエンジンで走るという3つのモードを組み合わせて走ります。床下にはガソリンタンクの他に大容量のリチュームイオンバッテリーも入っているのですが、ガソリンモデルと比較して床もあまり高くなっていないので実用性やスペース面で犠牲になっているところはほとんどないそうです。

3つのモードを組み合わせながら走るハイブリッドシステム

まずはEVモードで走り出してみましょう。スルスルッと静かに動き出しました。このような状況ではエンジンは発電用として静かに回り、走りはモーターが担当します。当然、モーターの加減速ですからスムーズで滑らかで、そして独特の力強さがあります。とてもしっとりとしたフィーリングで不足なく走れます。

でも急加速や高速道路での合流など本当にしっかりとパワーがほしいときには、エンジンがフルに回り出し、どんどん発電して強力にモーターのアシストとして加勢してくれます。ハイブリッドモードがけっこうパワフルでキッチリとより鋭く走ります。スポーティという表現も使えるほどです。

さらにフィットのシステムは、高速道路走行となると効率の良いガソリンエンジンが主役となって巡航態勢に入ります。ハイブリッドやEVは高速巡航が苦手です。ある程度の速度まで加速したあとは、一定で回り続けるエンジンの方が効率的であることが多いので、そこではエンジンが主役となり、モーターは少し休むことになります。これがエンジンモードです。

少し複雑かもしれませんが、今回のフィットの1.5リットルエンジンとモーターによるハイブリッドです。e:HEVは、走りの状況によってパワーの主役を入れ替えながらエコノミーな走りを実現します。先進的なアイデアを盛り込むのはフィットに受け継がれた良き伝統です。おまけにフィットには独自のアイデアを盛り込んだ「福祉車両」も用意されています。

さて、このe:HEVのあとに1.3リットルのガソリンエンジン車も試してみました。こちらは重量のあるハイブリッドシステムがないので、90kgほど軽量です。軽さは重要なスペックですので、ガソリンモデルは軽快な走りを楽しむことができました。おまけにベースモデルで比較するとハイブリッド2,068,000円~、ガソリンモデルで1,557,600円~という価格を考えると、どちらがお得なんだろうか?とちょっと迷いながら「久しぶりにコンパクトカーを愛車にしてもいいかな」と考えている自分がいました。

多くのオーナーの期待に忠実で在り続けてきたフィットらしさが満載。試乗を終えて、改めて表情を見ると、忠実で賢い柴犬のように見えてきて、思わず“うちで飼ってあげようか”と言いそうになりましたが、来週はトヨタのヤリスに乗車する予定があります。結論はそれからじっくり考えましょう。

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