「恩を返せるのはこれくらい」 地元・関西卓球界を新時代へ【姫野翼#3】

写真:姫野翼(クローバー歯科カスピッズ)/撮影:ラリーズ編集部

青森山田の丹羽孝希世代・姫野翼は、インターハイ団体全国制覇、ダブルス3位と輝かしい実績を残すも、高校2年で卓球界の表舞台から姿を消した。

しかし2017年、姫野は選手としてでなく実業団・クローバー歯科カスピッズのコーチとして、卓球界に舞い戻った。

地元大阪で第2の卓球人生を送る姫野は「大阪の卓球が盛り上がってほしい」と夢を語る。

「最後に帰ってこられる場所を作ってあげたい」

写真:姫野翼/撮影:ラリーズ編集部

姫野は中学3年で青森山田中に転校するまで、育徳クラブ、阪南中学と大阪で卓球生活を送っていたこともあり、関西への思い入れが強い。

「総監督の保田さんとも話してて、関西の大学生で結果を残した選手が入れる実業団になりたい」とクローバー歯科カスピッズを関西の大学生の受け皿にしたいと語る。

今もチームには江藤慧、加藤駿と関西の名門・近畿大学出身者が所属している。加藤は関西学生シングルス3位、過去には丹羽孝希も下した実績を持ってしても「大学で卓球を辞めて、普通に就職するつもりだった」というから驚きだ。

写真:丹羽を破った実績を持ちながら大学で引退を考えていた加藤/撮影:ラリーズ編集部

「大学の進路話のときも関西に来たら夢がない、というのは僕が現役のときからあった」と姫野も語るように、一般に強豪高校で腕を磨いたトップ選手は、関東の大学に進路を決めることが多い。

2019年にはインカレで男子・関西学院大学が3位入賞、全日本学生選抜で坂根翔大(関西大)がベスト4に入るなど、全国で結果を残す関西勢も増え、関西卓球界のレベルも向上してきている。しかし、卓球で進路を選べる選手は関東に比べて多くはない。姫野はそこを変えていきたいと語る。

「関西でも大学で頑張って成績出せばあそこに行けるぞ、と選手たちの中で認識されるチームにしていきたい。小学生の間に大阪で強くなって、中学から他県に出ても、最後に帰ってこられる場所を作ってあげたい。僕が現役の時もグランプリがなくなって、大阪には帰って来れなくなった。そこに寂しさはあったので、関西圏内の選手らが大阪に残れるようなチームにしていきたい」。

「恩を返せるのはこれくらいしかない」

写真:姫野翼/撮影:ラリーズ編集部

「関西の卓球を盛り上げたい」という姫野の想いは、何も大学生に対してだけではない。

「小中学生の指導者にも、言っててくれれば選手行かすよと言ってて、実際に何回かやってます。選手が1時間行くだけでも小学生はすごい嬉しそうな顔するし、指導者もありがとうありがとうと言ってくれる」。

姫野自身の小中学生時代の経験が、今の活動の原動力の1つとなっている。「高校に練習行かせてもらったり、どこかのチームの練習に混ぜてもらったりが多くて、いろいろな人にお世話になった。それにだいぶ迷惑かけた分もあったんでね。恩を返せるのはこれくらいしかないんで」と照れ臭そうにはにかんだ。

写真:姫野が指導を行う練習場/撮影:ラリーズ編集部

クローバー歯科カスピッズは2017年4月に結成された若いチームだ。結成して2年目で日本卓球リーグに参戦し、いきなり前期で1部昇格を果たした。2018年後期には2部降格も、2019年前期には松下大星(愛知工業大卒)の加入もあり、再度1部に昇格し、2020年1月の全日本選手権では江藤/松下ペアが3位に入る快進撃を見せた。

まさに右肩上がりのチーム状況に関して「上手く事が運びすぎて、今までチームとしてがっと落ちたことはない。乗り越えるのが難しい壁にもまだチームは当たってないので、そのときどうなるのかなと不安もあります」と言いながらも「ただ、関西を盛り上げていくワクワクもあって。不安と期待が半々ぐらいです」と少年のような笑みを見せた。

写真:笑顔を見せる姫野翼/撮影:ラリーズ編集部

青森山田高時代に日本一を経験するも、高校中退で自らの将来を閉ざした姫野が「色々やりたいことが僕と保田さんの中で結構あるんですよね」と地元大阪の未来を語るまでになった。一度どん底に落ちてすべてを失った男が創り出す関西卓球界の今後が楽しみだ。

取材・文:山下大志(ラリーズ編集部)

© 株式会社ラリーズ