列島ワニパニックに“既視感”があるのは気のせい? 『100日後に死ぬワニ』突然のブームに掻き消されている「そもそもこの作品は…」の声

イラストはイメージです。実際の漫画とは関係ありません。

一人の漫画家が友人の死を通して描いたという、あまりにもせつない物語。

ツイッター上で100日にわたって展開された漫画『100日後に死ぬワニ』(きくちゆうき)が、あらゆる意味で伝説の作品になりそうです。

ツイッター上に流れる1日1度の4コマ漫画。「ワニが100日目に死ぬ」ことを前提に1日目から99日目まで日常が描かれ、日に日に読者が増えていって評判が評判を呼び、100日目直前には「ワニはどうやって死ぬか」の予測まで繰り広げられました。

それが100日目の最終回直後には一気に「書籍化&映画化決定」「LINEスタンプ&グッズ販売」と、最終的に蓋を開けてみたら「電通案件」だったとか「ステマ」だったのかと怒る読者が出たり、それとは逆に「お金儲けで何が悪いのか?」と至極真っ当な意見もあったり、状況は混沌としていきます。

結果として書籍はすでにAmazonで予約2位を取るなど、作者が生配信で「弁明」をするまでに追い込まれてしまったという炎上ぶりも含めて、大盛り上がりを見せています。

100人の読者がいたら100通りの感想があり、100人の人間がいたら100通りの反応があるのは当然でしょう。

「最後の最後に興ざめした」という感想に対して、「そこで興ざめをするのはおかしい」と返したところで、その人にとって「興ざめした」ことは事実でしょうし、物語に関係ないので「興ざめしなかった」という人も当然いるでしょう。いずれにしても平行線のままで意見の応酬が続いているわけですが、そんな殴り合いも、ツイッター上で展開された作品なら、なおさら起こりうる現象です。

<ブラック企業体質で自殺者まで出している「電通」のイメージが悪すぎた>とか、<ワニくんの死に対して想いを馳せる余韻を奪われた>とか、<とにかくプロモーションのタイミングだけは悪かった>とか、<これが「100日後に結婚する」ならOKだったはず>とか、<否定派も含めて注目がさらに上がったからマーケティングは完璧>とか、<何より漫画家さんにお金を還元したい>とか、皮肉にも、イメージ効果やお金の流れまでアイディアを出し合うという、まるで「1億総電通マン」になったかのような気配です。

ただ、この炎上も含めた盛り上がりには大前提があります。

この作品自体は「面白い」、もしくは「いい作品だ」という前提の上に立っているということです。

しかし、最終回直後に大きく二分された「賛否両論」の陰で「かき消されている声」もあるのです。

<みんな騒いでいるから、1日目から読んでみたけど、そんなに面白いか?>

<100日目に死ぬことがわかっていて、それを読み続けるの趣味悪くない?>

<100日後に死ぬのにけなげに生きてて可哀そう…って、感動ポルノじゃん>

たしかに、オチ(100日目に死ぬ)を先に予告する切り口が斬新で、主人公のワニ君が親しみやすく絵柄も素敵で、感情を動かされた人々がリツイートしてバズッたのでしょう。さらにマスメディアまで取り上げたわけですから、凡庸な作品であるわけがありません。

ただ、どこかで見たことあるような「既視感」があるのは気のせいでしょうか。この作品に流れる愛しくも哀しげな空気は、世界的名作で、登場する「チェブラーシカ」(実質主人公)でも有名な、ロシアの絵本作品『ワニのゲーナ』に似てなくもありません(ワニのゲーナは100日後に死にませんが)。

ともあれ、興味のない人はお金を落とさないので関係ありませんが、ツイッターは読みたくなくてもバズれば、いやでも目に入ってきます。かといって「まったく面白いと思わないんだけど…自分がおかしいのか?」と思う必要もありません。少数派のように見えて、案外、「サイレントマジョリティー」かもしれませんよ。(文◎編集部)

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