現行で消滅した今こそ注目の存在。絶妙なスポーティさがマニアに刺さる先代ホンダ・フィット『RS』【ベース車両一刀両断!!】

 モータースポーツ専門誌のauto sport本誌では現在、スポーツカーをはじめ、ホットハッチ、セダン、スポーツクーペなどあらゆる市販ロードカーを“ぶった切る”ピリ辛・市販車インプレッションを不定期連載している。同企画に登場するのは、モータースポーツの中でも、いわゆる“箱車レース”と呼ばれるカテゴリーにおいて、レーシングマシンのベースとなるロードカーたちだ。

 今回はそんな『ベースマシン一刀両断!!』シリーズの第14回目ホンダ・フィット“RS”編をお届けする。最新の4代目フィットからスポーティさを訴求するRSは消滅してしまった現在、その価値を振り返るつもりでご覧いただきたい。

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 ホンダのスポーツグレードといえばタイプRに尽きる。しかしそれより前から、初代シビックで誕生したRSというモデルが存在した。

 このRSは“ロードセーリング”の略号。「まるでヨットのように波をいなしながら、ドライビングを楽しむ」というイメージだそうだ。

 効率を追求した初代シビックに、ツインキャブのスペシャルエンジンを与えた元祖RSは排ガス規制の影響で短命だったが、そのインパクトは大きかった。現在のRSは、N‐ONEからヴェゼル、ジェイドまで、さまざまなモデルで展開されているが、フィットRSは元祖の直系と言えるだろう。

 フィットRSは、2代目から設定された。しかし、当初は「ただ1.5リッターに拡大されたフィット」といった印象で、名前以外に注目点はなかった。それが2010年のマイナーチェンジで刷新され、RSらしく変貌。

 オレンジの配色、6速MT、大きめなエンジン音やチューニングされた排気音、そしてリセッティングが施されたサスペンションと、大きく中身が進化した。

 現行フィットは3代目(編注:本原稿は4代目の発表以前に執筆されたものです)。エンジンが直噴となったため、遮音性を高めざるを得ず、その結果としてエンジンの存在感が希薄になったこともあって、マイナーチェンジ前の先代RSに戻った印象が強い。

 走りに対するマインドを忘れてしまったような感触なのだ。クルマの性能は高く、ボディ剛性もサスペンションの能力も高い。ついでに言えば、スポーティに引き締められながらも乗り心地も良く、結構エンジン回しても好燃費。

ワンメイクレースの『FIT 1.5 チャレンジカップ』が日本国内で開催されているが、それ以外にもスーパー耐久シリーズのST-5クラスで活躍するフィット(3代目モデル)。S耐ではGTマシンのようなド派手な空力パーツは装着しておらず、ダウンフォースは少なめだが、ボディ自体が軽いため、低速コーナーでは上のクラスと同等以上の速さを見せることも

■ 走りはスポーティで満足域。内外装の中途半端さが下降路線を加速させた?

 フィットなのだから当然、実用性はダントツでクラストップだ。しかし、出木杉くんは、のび太くんほど愛されない。これは真理だ。

 1.5リッターの直噴エンジン自体は悪くない。低回転からトルクがあり、レッドゾーンに向かって迫力を増していく。かつてのVTECのような爆発力はないが、現代のエンジンとしてスポーティテイストは充分。

 シフトゲートが明確でカッチリした6速MTでこのエンジンを回していくと、ちょっとファットなフィットでも、かつてのスポーツハッチを彷彿とさせてくれる。

 一方、足まわりのセッティングは薄味そのもので、エコタイヤを履いていることもあって接地感を得にくい。しかし、基本性能は悪くない。約10万円のモデューロのキットに交換するのもひとつの選択肢だろう。

 味つけという意味では、ノーマルの1.3リッターモデルのほうが、“ロードセーリング”的な操縦性だ。ロールを許容しながら、しなやかに旋回してくれる。エンジントルクを最大限に引き出そうとするCVTは滑り感も少なく、性能、フィーリングともに良好だ。

スポーティさを全面に押し出したホンダのRSグレード

 3代目フィットは、初代、2代目よりも販売が低調。ホンダはその原因をヴェゼルのヒットとしたいようだ。たしかにフィット+ヴェゼルなら、2代目と遜色ない販売台数にはなる。

 だが、核心はスタイリングではないだろうか? 全グレードでエアロパーツが標準装備となったことで、そのデザインは控えめにせざるを得なかった。それでもベーシックカーらしいスタンダード感は欠落し、逆にRSではスポーティ感が薄い。つまり全体として中途半端なのだ。

 内装も全車ブラックベースで、スポーティマインドを主張したいようだ。ベーシックカーはシンプルかつクリーンであるべきで、そうすればこそRSのようなエッジの効いたエアロ付スポーツモデルの存在感が増す。

 そろそろフィットも4代目へとモデルチェンジする予定だ。今度は1.0リッター3気筒のダウンサイジングターボがスタンダードになるらしい。そうなるとユニット数が多くスペースを食うハイブリッドが益々厳しくなる。

 もっと気になるのはRSの存在で、適当なエンジンは見当たらない。売りやすいものだけに集中したい最近のホンダ流では生き残れないかもしれない。

2代目のフィットRSと同様、3代目も6速MTのほかCVTも展開。車重は6速MTが1070kg、CVTが1090kgと2代目からはわずかに増量している。一方でエンジンはL15AからL15Bとなって10ps以上パワーアップ。パワーウエイトレシオの数値は改善された。しかし、その分価格も2代目より30万円ほど高い設定
3代目フィットRSのエンジンルーム

■ホンダ・フィットRS 主要諸元

車体

車名型式 ホンダ・DBA-GK5

全長×全幅×全高 4045mm×1695mm×1525mm

ホイールベース 2530mm

トレッド 前/後 1475mm/1465mm

最低地上高 135mm

車両重量 1070kg(6速MT)/1090kg(CVT)

乗車定員 5名

駆動方式 FWD

トランスミッション 6速MT/無段変速オートマチック

ステアリング 電動パワーステアリング

サスペンション前/後 マクファーソン式/車軸式

ブレーキ 前/後 油圧式ベンチレーテッドディスク/油圧式ディスク

タイヤサイズ
185/55R 16

エンジン

型式 L15B

形式 水冷直列4気筒DOHC

排気量 1496cc

内径×行程 73.0mm×89.4mm

圧縮比 11.5

最高出力 97kW(132ps)/6600rpm

最大トルク 155Nm(15.8kgm)/4600rpm

使用燃料 レギュラー

タンク容量 40L

auto sport 2019年9月6日号 No.1513より転載

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