まちの復興状況は、支援とは? 中高生が新聞で問いかける台風19号

 昨年10月に東日本を縦断し、80人以上が犠牲になるなど大きな被害をもたらした台風19号災害から5カ月。被害を受けた地域では、地元の中学生・高校生が被災現場を取材し、制作した「復興新聞」が相次いで発行された。避難所に掲示されたり、被災者宅に配布されたりして好評。崩落した鉄橋や水没した道路など災害の傷痕を生々しい写真付きで紹介するとともに、同じ被災地に生きる10代の視線で被災体験や復興の歩みを伝えている。(共同通信=小池真一)

千曲川が増水し、崩落した上田電鉄別所線の橋=2019年10月15日、長野県上田市

 ▽「市のシンボル」崩落

 「市民の足 別所線としなの鉄道に大きな爪痕残す」との見出しで被災状況を報じているのは、長野県上田市の上田西高校新聞委員会が発行した学校新聞「千西一遇」の特別号だ。 

 上田市は台風19号により千曲川が増水、上田電鉄別所線の鉄橋の一部が崩落し、市道の260カ所余りが損壊した。180余りの農地も浸水。上田西高校も多くの生徒が一時通学できなくなるなどの被害を受けた。昨年12月、「(復興に向けて)高校生ができることは何か」と話し合い、新聞委員会の8人で2ページ構成での復興新聞作りに取り組んだ。 

 一面掲載の崩落した鉄橋は、地元ゆかりの戦国武将、真田幸村のよろいかぶとと同じ赤色が特徴で、「上田市のシンボル」的な存在。紙面では〝まちの宝〟が崩れ落ち、「あぜんとした」という電鉄職員の声とともに、復旧が最短でも1年半かかるとの見通しを示した(昨年12月時点)。別記事では崩壊した千曲川の堤防の復旧工事に24時間体制で当たった土木会社職員の「20年間で初めての経験」という奮戦ぶりも記している。 

 新聞は同校の生徒や職員に約千部が配られ、取材先にも配布された。編集局長の2年生、松木萌愛さんは「取材や新聞作りを通して、あらためて災害の怖さや復興への気持ちを知り、考えることができた。なにより、この地域が好きになった」と話す。

 ▽心の支え

 台風19号では、茨城県も大きな損害を受けた。全半壊した建物が2500棟以上、避難所に身を寄せた住民は2万人を超えた。同県桜川市の岩瀬日大高校の新聞「岩日タイムズ」で大きく取り上げたのは災害ボランティア。ソーシャルメディア部員で、2年生の永井光輝さんが単身、被害が大きかった県中部の水戸市を取材した。 

 1面は、「被災地に寄り添う」の見出しで、活動の拠点となった水戸市災害ボランティアセンターを特集。ボランティア活動を「街を見守り、人々の心の支えになっている」と紹介。同時に「させていただく、という気持ちが大事」「ごみやがれきに見えるものでも、(中略)住民にとっては、これまでとても大切にしてきた思い出の詰まった物であることを忘れないで」との同センター責任者によるボランティアへの要望も載せた。ミニコラムでは、ボランティアが安全に活動するための服装、装備などを解説している。

 新聞は2ページ構成で150部制作、センターや同校の各教室に掲示した。ボランティアは今後も新聞で取り上げていく方針だ。 

  ▽暗い話はボツ 

 2011年3月、東日本大震災で被災した宮城県気仙沼市の小学生の女の子4人が、避難所の大人たちを元気にしようと作ったのが「ファイト新聞」だ。ほぼ日刊で50号まで続いた、元祖「復興新聞」的な存在。その編集部員と交流のある福島県いわき市のダンススクールの中学生が、台風19号被災からの復興をテーマに「ファイト新聞いわきin平窪」を発行した。

 

「ファイト新聞いわきin平窪」2号

 もともとダンススクールでは、東京電力福島第1原発事故後、被災者の健康回復のためボランティアとして、ダンスのワークショップを続けてきた。今回、生徒4人が、台風19号直後に避難所を訪問。被災者や、災害派遣の自衛隊員に話を聞き、昨年11月に創刊号を出した。12月には中学生10人以上が加わって、2ページ構成で第2号を約200部発行。避難所になった公民館や寺院などに掲示したほか、市民に手渡しで配布した。

 「ファイト新聞いわき」の編集方針は元祖同様「暗い話を書かない」。被災者の「心の復興」のためボランティア活動でダンスを披露するとともに、被災者との交流も自分たちで記事に書いた。「逆にみなさんから元気や勇気、笑顔をいただいた」「まるで春に鳥がさえずるように、笑い声がひびいた」など生き生きと報告。明るいメッセージを手の形に並べた絵も好評だ。

メッセージを手の形に並べた「ファイト新聞いわきin平窪」2ページ目

 編集部員の中学1年生、中田瑞歩さんは東日本大震災で被災した一人。当初は、周囲から「がんばって!」と励まされたり、「大丈夫です」と答えたりするのがつらかったという。被災者の立場でいなければいけないと感じたのかもしれない。今回は「取材やイベントを通じて、被災したみなさんと一緒に楽しい時間を過ごせたことを中心に書きました。『ありがとう』『また書いてね』と感謝され、役に立ったのかなと思いました」と話している。

 中高生による復興新聞の誕生は、上智大学1年の田矢美桜奈さんの呼び掛けがきっかけだった。高校新聞の〝名門〟錦城高校(東京)元新聞委員長として培った全国の高校生記者とのつながりを生かし、復興新聞を各校に提案、サポートした。現在、10代学生によるジャーナリスト活動を応援する「ユースプレスセンター」を主宰し、上田市などで復興現場の合同取材会を実施している。

 田矢さんは「それぞれの地域に生きる10代が、新鮮な感性で新聞をまとめ上げました。復旧・復興など地元の課題に向き合うとともに、大切な歴史を深掘りし再発見する貴重な機会になったはず。活動が全国に広がるよう、応援していきたい」と意気込んでいる。

復興新聞を呼びかけた田矢美桜奈さん

 「千西一遇」「岩日タイムズ」「ファイト新聞いわきin平窪」は、中高生制作の新聞などを集めたウェブサイト「文化プログラムプレスセンター」で公開中。

https://www.presscentre.net/events/191101-fukko/

© 一般社団法人共同通信社