新型コロナで瀬戸際、海外資金が流出する「東南アジア」の行方

東南アジアで新型コロナウイルスの感染が急拡大しています。2月までの感染者ゼロから一転、爆発的な感染拡大の瀬戸際に立たされた各国政府は、足元あらゆる規制を強めています。中には事実上の国境や首都圏の封鎖に踏み切る国も出てきました。


東南アジアで感染者数最大のマレーシア

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、東南アジアで最も感染者が多いのはマレーシアで、国内の感染者数は1,500人を超えました。特に2月末に首都クアラルンプールのモスクで行われた宗教行事では数百人単位の集団感染が起き、感染拡大に拍車をかけました。

さらに、この宗教行事には国内外から1万6,000人規模の信者が参加しており、東南アジア各国へと感染が拡散したと見られています。

また、感染者数はマレーシアほど多くはないものの、致死率の高さが目立つのがインドネシアとフィリピンです。足元のインドネシアの致死率は8.5%、フィリピンは7.1%に達し、世界全体を大きく上回っています。

急速に深刻化する感染状況を受け、フィリピン政府は3月15日にマニラ首都圏を封鎖し、17日からは対象地域をルソン島全域へと拡大しました。マレーシア政府も3月18日から国内全土を事実上封鎖しています。

マレーシアでは国民の出国と外国人の入国が一切禁じられているほか、すべての教育機関と、食料品や日用品を販売するスーパーマーケットやコンビニエンスストア、水道・電気・通信などの生活インフラ、病院や銀行など生活に最低限必要とされる機関を除く、あらゆる政府機関と民間企業が閉鎖されました。

一方、フィリピンでは、マレーシア同様の措置に加えて、ルソン島に乗り入れる交通手段と、首都圏を走行する公共交通機関の運行もすべて停止されています。さらに、住民には自宅待機が求められ、違反者には罰金刑などが科されるなど一段と厳しい対応となっています。

新型コロナで拍車かかる通貨安

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東南アジアの金融市場は大きく動揺しています。

3月23日までの主要株価指数の月間騰落率を見ると、フィリピン総合指数の下げがきつく、下落率は30%に達しました。フィリピン当局はマニラ首都圏の封鎖に伴い、株式市場を3月17日~18日の2日間閉鎖し、19日以降は時間を短縮して取引を再開したものの、海外資金の流出が止まりません。

フィリピンに次いで株式市場が大きく下落しているのがインドネシアです。インドネシア株式市場では、急ピッチな下げにサーキットブレーカーがたびたび発動する事態となっており、ジャカルタ総合指数は27%下落しています。さらに、通貨ルピアの対ドル為替レートの月間騰落率も-16%に達し、3月23日は1ドル=16,575ルピアとなるなど、史上最安値をつけた1998年のアジア通貨危機時の水準に迫っています。

従来から海外資金に対する依存度が高いインドネシアは、世界的なリスクオフの流れが強まると対内証券投資が巻き戻されるため、通貨が売られルピア安につながる傾向があります。

ただ今回は新型コロナウイルスの感染拡大に対する懸念と、混迷模様の政府対応なども通貨安に拍車をかけています。感染者数増加のピークアウトが見えてくるまでは、金融市場の混乱が続く可能性が高いでしょう。

<写真:ロイター/アフロ>

景気刺激策も焼け石に水

景気下支えのため、東南アジア主要国の中央銀行は相次いで利下げに踏み切っています。先週1週間では、ベトナムが主要政策金利にあたるリファイナンス金利を6.00%から5.00%に引き下げました。

また、インドネシアとタイはすでに今年に入り2度の利下げを実施し、インドネシアは7日物リバースレポ金利を昨年末の5.00%から4.50%に、タイは翌日物レポ金利を昨年末の1.25%から0.75%に引き下げています。

加えて、これまでに、タイでは1兆5000億円規模、マレーシアでは5000億円規模、インドネシアでは2500億円規模の景気刺激策が打たれたものの、現時点では焼け石に水の状態です。

新型コロナウイルス感染症の震源地となった中国では、武漢市を封鎖してから約2ヵ月で事態が大きく改善した状況を鑑みると、東南アジアで感染拡大は始まったばかりと言えるでしょう。むしろ、中国の武漢市やイタリア、スペインで起きているような爆発的な感染拡大につながるかどうかの瀬戸際に立たされており、各国政府の政策手腕が試されています。

<文:市場情報部 北野ちぐさ>

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