石木ダム 差し止め訴訟 怒り、失望あらわ 三たび請求も届かず

判決後の集会で、マイクを握る住民の女性(中央)=佐世保市光月町、中部地区公民館

 「古里で静かに暮らしたい」との住民らの訴えは、今回も司法に届かなかった。東彼川棚町に計画されている石木ダム建設事業の工事差し止めを求めた訴訟は、住民らが国に事業認定取り消しを求めた別の訴訟の一審、二審判決に続く三たびの請求棄却という厳しい結果に。水没地域の川原(こうばる)地区の住民らは判決に失望と怒りをあらわにし、推進派の関係者からは安堵(あんど)の声が聞かれた。
 請求棄却を告げた裁判長は足早に法廷を後にした。わずか1分足らず。「またか」。原告側の住民からはため息が漏れ、石丸穂澄さん(37)は「一字一句想像した通りの判決文だった」と苦笑した。原告の1人として当事者尋問に立ち、古里の自然環境の豊かさを訴えた。「私には自然の音に囲まれた落ち着いた静かな環境がどうしても必要」だと。だが-。
 古里の川原の自然や生き物をイラストに描き、インターネットや漫画小冊子で発信する活動を続けている。請求棄却にも「闘い方は人それぞれ。私は私のやり方で活動していく」と前を見据えた。
 「悔しい。私たちの人格が無視されている」。住民の松本順子さん(63)は肩を落とした。4世代8人がにぎやかに暮らす自宅も、夫と長男で営む小さな鉄工所も、昨年11月、土地収用法に基づく手続きで土地の所有権を奪われた。裁判では長男の好央さん(45)が「県が行政代執行に踏み切れば、生活の基盤が奪われる」と主張したが、こうした危機感に判決が言及することはなかった。「私たちはここに住みたいだけ。そう思うことがなぜ悪いのか」と憤った。
 住民側は2016年2月、県と佐世保市に工事差し止めを求める仮処分を長崎地裁佐世保支部に申し立てたが、「工事禁止の緊急性がない」として却下された。同支部が判断を避けたダムの必要性や住民の権利侵害についてさらに踏み込んだ議論をするために、住民側は17年3月に提訴した経緯がある。
 住民の岩本宏之さん(75)は「代執行が現実味を帯びている今なら、(緊急性が高まり)差し止めを認めてくれると思っていたのだが」と落胆。現在もほぼ毎日、付け替え道路工事現場に通い、抗議の座り込みを続ける。「このまま工事が進めば、取り返しのつかない事態になるのは明らか。我々は覚悟を決めているが、裁判所は本当にそれでいいのか」と語気を強めた。


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