なぜGMOは陸上に参入したのか? ニューイヤーで5位躍進、青学・原晋監督と共鳴したスピリット

令和最初のニューイヤー駅伝は、旭化成が4連覇を達成して幕を閉じた。区間新記録の続出するハイレベルなレース展開で見どころの多かった今大会、特に注目を集めたのが、初出場にして5位入賞を果たしたGMOインターネットグループだ。2016年に創部したばかりの「GMOアスリーツ」は、箱根駅伝で青山学院大学を総合4連覇に導いた原晋氏をアドバイザーに招聘するなど、本気でナンバーワンを目指した環境を整えている。日本陸上界の名門が次々と休廃部を進めてきた中、なぜ同社は新たに創部する決意をしたのだろうか? GMOアスリーツ部長を務める安田昌史氏に話を聞いた。

(インタビュー・構成=浜田加奈子[REAL SPORTS編集部]、インタビュー撮影=長尾亜紀、写真提供=GMOアスリーツ)

創部のきっかけは原監督との意気投合

GMOアスリーツは創部から4年目を迎えました。創部のきっかけは何だったのでしょうか?

安田:創部をした2016年4月から1年前の2015年の3月、青山学院大学が箱根駅伝に初優勝した時の、優勝祝賀会がきっかけですね。そこに、当社代表(取締役会長兼社長)の熊谷(正寿)と私が参列しました。その会場に、当社グループのパートナー(同社では「従業員」の呼称)もおりまして、実は彼女は原(晋)監督が青山学院大学の監督に就任した時の最初の女子マネージャーだったこともあり原監督と話をするきっかけがありました。

原監督はベンチャースピリットがある方ですよね。当社では企業理念にベンチャースピリットを掲げていることもあり、熊谷と意気投合しまして、より日本の陸上界を活性化させるようなベンチャースピリットを持った実業団チームが出てくれば……といった話になりました。そこで、熊谷が、「じゃあ、うちでやるか、実業団」という話になり、創部することを決めました。

どのような部分が意気投合したのでしょうか?

安田:原監督はさまざまなメディアで常に陸上界を変えたいといった話をされています。その中には、もっと選手に夢があるような環境、実業団をつくっていきたいといった思いも含まれていると感じています。当社が掲げるベンチャースピリットには、一緒に働く従業員も含めて多くの方の笑顔・感動を創造すること、夢を実現させるために革新的な行動を行い一人ひとりが個性を発揮しながらチーム一丸で歴史をつくっていきたいという思いが込められていて、そういった部分で熊谷としても原監督の「陸上界を変えたい」という思いに共感したのだと思います。

選手と夢を語りナンバーワンを目指す

熊谷社長が原監督の考え方にすごく共鳴、共感するところがありGMOでも同じようにベンチャースピリットを持った実業団を創部することになったんですね。どのようなコンセプトでチームを立ち上げたのですか?

安田:競技としてナンバーワンを目指し、選手が夢を持てる環境をつくる、あとは引退後のセカンドキャリアを一緒になって考えられるようなチームですね。そしてオリンピックにも選手を輩出できるようなチームを目指しています。原監督に、誰かGMOアスリーツの監督に就任してもらえる方がいないか相談したところ当時、上武大学で監督を務めていた花田(勝彦)監督を紹介されました。花田監督は現役時代にオリンピックに2回出ていて、引退後は駅伝では無名だった上武大学を箱根駅伝の常連校に導く実績があります。我々の掲げたコンセプトをお伝えしたところ、花田監督の方からぜひやってみたいと快諾してもらい、監督を務めてもらっています。

原監督は花田監督のどんなところを見て推薦したのでしょうか?安田:やっぱり、いろいろ実績などと併せて熱量を持ってチームの責任者をやってもらえる監督だからだと思います。4年近く一緒にやっていますけど、指導の面でも人柄の面でも非常に素晴らしい監督で、本当に良かったと思いますね。

基本的には花田監督がチームの指導を行っていると思いますが、アドバイザーの原監督はどのような役割を担っているのですか?

安田:GMOアスリーツには、原監督は指導した青山学院大学出身の選手が多く所属していて、選手個々のことをよく知っているので指導やコンディションなどそういったところもたまに相談したりしています。あとは1カ月に1度、定例ミーティングにテレビ会議で参加してもらっています。その時に今のチームの状態を報告したりチームのコンディション別にアドバイスをもらっています。ただ、指導は花田監督が責任を持ってやっておりますので、基本的にチームの指導の責任は花田監督。原監督には、定期的に連携してアドバイスを頂戴するといった役割をお願いしています。

創部メンバーはどんな経緯で加入したのでしょうか?

安田:まず原監督に相談したら、青山学院大学の教え子から橋本崚、渡邉利典、三木啓貴の3人を候補に出してもらいました。花田監督からは上武大学時代の教え子で日立物流に所属していた山岸宏貴、倉田翔平、佐藤舜ですね。この6人で最初は発足しました。ちなみに三木は昨年の3月に競技を引退して、今は当社の本社で、佐藤は2年前に引退をして、前橋市で消防士になってそれぞれセカンドキャリアを歩んでいます。

現在所属選手は10人まで増えましたが、原監督の推薦もあったのでしょうか?(編集注:2月6日取材)

安田:最終的に決めるのはそれぞれの選手ですが、僕らもやっぱり相当の熱量を持って勧誘をしているというのはありますし、結構熊谷が自ら勧誘しているんですよね。一色恭志や下田裕太には直接掛け合い、夢を語り、選手自身がいろいろと考え納得し、入社を決めてもらっていますね。当然そこで、原監督の意見や影響力もありますし、当社を推薦してもらっていると思いますが、選手の人生なので、原監督が行けと言ったから来たというわけではないですね。

今後は青山学院大学OB以外にも優秀な選手でそれだけ熱量を持って入りたいという選手であれば、どんどん門戸を開いていくのですか?

安田:もちろんです。今年は帝京大学の島貫温太が入社予定です。青山学院大学は創部当初の経緯もありましたし、青山学院大学出身の選手からすると、先輩が多かったり、フィジカルトレーナーが青山学院大学と同じこともあるのでやりやすいのもあると思います。ただ、あくまでもGMOアスリーツはナンバーワンのチームをつくるという目的のもとでやっていますので、どこの大学に限定するつもりはありません。

まずは陸上でナンバーワンになる

GMOアスリーツでは現在陸上チーム一つで活動していますが、今後は他のスポーツチームも創部する可能性もあるのでしょうか?

安田:今回の陸上部はご縁があって生まれましたが、陸上を通じてスポーツチームの運営の素晴らしさ、企業としてのブランディング、組織風土に対するポジティブな影響、社員の一体感が感じられて素晴らしいなと思っていて、熊谷ともことあるごとに、陸上チームをやって良かった、と話をしているんですよ。ですので、今後別のスポーツチームを運営することは可能性はゼロではないと思っています。ただ、やっぱりまずは一つの分野でナンバーワンのチームを確立してからだと考えています。まずは陸上できちんと結果を出して、それから次にどうするか、という順番になると思います。

チーム運営はお金を出して終わりではありませんよね。お金だけでなく、熱量と時間も割いていかないと、チーム運営なんてうまくいかないと思います。だから、無尽蔵にスポーツチームを増やしていくことはありませんけど、きちんとマネジメントがコミットできて、そこに熱量を持って対応するスタッフをアサインできる形ができたら、ぜひやりたいなと思います。選手はファミリーみたいなものですからね。

<了>

PROFILE
安田昌史(やすだ・まさし)
早稲田大学法学部卒業後、公認会計士となり、2000年インターキュー株式会社(現GMOインターネット株式会社)入社。2015年3月より同社取締役副社長、2016年4月よりGMOアスリーツ部長も兼任する。自身も市民ランナーとしてこれまでにフルマラソン20回完走。

© 株式会社 REAL SPORTS