次の衆院選は一体いつ? 7つのシナリオで予測する オリンピック延期と選挙のタイミング 

新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るう中、東京五輪の開催延期が決定しました。選挙コンサルタントとして気になるのは、「五輪後」と言われていた解散総選挙が、いったいいつになるのか。そしてその場合はどういうシナリオとなり、与野党いずれに有利になるのかです。状況が非常に流動的な中で予測を立てることは困難ですが、このタイミング(3月26日時点)でのシナリオという意味でまとめてみました。

(この記事は3月24日に公開したこちらの記事をリライトしたものですhttps://jag-japan.com/blog/2020/03/gorinenki-senkyo202003/

シナリオ1 五輪は予定通り実施、衆院解散は今秋〜今冬

衆議院解散が最も早いシナリオとして考えられるのは、今年秋以降でしょう。現状からは考えにくいですが、仮に新型コロナウイルスのパンデミックがこのあと早期に収束すれば、日本経済に与えるダメージは(十分に大きなダメージではあるものの)今視野に入っているところで収まる可能性も否定できません。東京五輪の日程が明らかになり、来年のインバウンドに向けての受け入れ体制構築が進めば、経済も五輪開催までに一応のV字回復カーブを作り上げることになる(というか、無理矢理でも作る)でしょう。

この場合の選挙戦ですが、与党は、日本国内における感染症早期収束の成果を前面に出す選挙戦を展開することになる一方、野党の選挙準備にはまだ時間がかかることも考えられることから、結果的には与党の勝利に終わる可能性が高いでしょう。ただし、インバウンド施策の恩恵を受けるはずだった観光地などのコロナの爪痕が深い地域を中心に、経済施策の失敗を問う自営業者の声が大きくなる可能性もあり、与党候補者の中では、従来の組織票であった自営業者の支持を失う地域・団体も出てくるでしょう。また、近年労働組合の結束力低下が叫ばれていますが、労働者の賃金保障や休業補償に対する施策が不十分とみなされれば、一部の業界において労働組合の組織力が再興する可能性も秘めています。れいわ新選組が擁立した社会的弱者などの支援者たちが、国の保護・保障の枠組みから外れるようなことがあれば、彼らや彼らの訴えが存在感を増す可能性もあります。特に今回の新型コロナウイルス感染症では、フリーランスの休業補償、重度障害者への支援などへも注目が集まっていることから、支援の網から外れる社会的弱者が支援から取り残されるようなことがあれば、彼らに注目が集まり、集票力を持って選挙戦で存在感を増すシナリオも考えられます。さらに、11月上旬には大阪都構想に関する住民投票が予定されており、その住民投票と解散総選挙との時期が被れば、日本維新の会が関西ではさらに躍進するでしょう。ただし、各政党に影響のある事象について考えてきましたが、メジャーな流れとしては大きく変わりませんから最終的な議席は現在とさほど変わらないか、与党やや減、野党やや増程度になると思われます。

なお、与野党問わず今年前半に政治資金パーティーを実施できなかった若手政治家にとっては、資金難での選挙を迎えることになることにも触れなければなりません。近年の選挙戦は以前より費用がかからなくなっているとはいえ、衆議院選挙では一千万円単位の費用がかかります。政治資金パーティーを計画通り開催できなかった政治家にとっては、その分の資金が不足したまま戦いに臨むことになり、従来できていた選挙戦ができなくなる可能性もあるでしょう。

このシナリオが最短スケジュールになるとは思いますが、諸外国における新型コロナウイルス感染症の拡大が爆発的になっている現状や、日本国内における感染の広がりが緩やかであれ拡大傾向を鑑みれば、夏までのコロナ収束が現実的にあり得るのか、疑問といわざるを得ません。また、コロナの状況によっては、早々に補正予算編成や関連法案成立をする必要が出てくるシナリオもあり、その場合には解散総選挙どころではなく、実質的な通年国会につながる可能性も残っていると考えます。

シナリオ2 五輪は来夏に延期、衆院解散は来年頭

シナリオ1は今年中の解散総選挙という流れで説明してきましたが、これは東京五輪が予定通り開催されていた場合の濃厚シナリオでもありました。しかし、五輪が延期となった今、ほかにどのようなシナリオが考えられるでしょうか。コロナウイルスの収束が秋ごろまでかかり、経済の立て直しのために補正予算の編成が必要になれば、今年は通年国会の様相となる可能性があることは先述しました。この結果が今年一年の指標(結果)として明らかになり、一定の経済回復が見込めたと判断されれば、来年早々、例えば令和3年の通常国会冒頭解散、総選挙というシナリオも残っていると考えます。

東京五輪が1年延期になった場合の経済に与える影響について、まだ具体的な予測が出ていません。経済の低迷が長引けば、これまで与党が実績として打ち出してきた各種指標にも影響を与えます。特にGDPやGPIF運用益といった指標は、この数年分のプラス分を消し去るほどのマイナスとなっている可能性が高く、選挙戦において実績的な訴求を行うことが困難になるとも言えるでしょう。野党にとってはこれらが攻撃材料になるわけですが、一方で選挙準備に与えられる時間も決して十分とは言えず、野党統一候補といった調整がどこまで現実的に行われるのかが鍵となります。その他はシナリオ1に準じますが、特に冬の時期の選挙となることから、仮に解散風が吹き始めてから投開票までの数十日の間にコロナ再燃やクラスタの発生ということになってしまうと、政府対応の一挙手一投足がそのまま内閣支持率に反映されるような事態になることが想定されます。 一般の選挙と異なり、内閣が自らの意思・タイミングで解散をするのが総選挙ですから、民意を問う解散という行為とコロナ再燃リスクとを天秤にかけて果たして解散が必要だったのかどうかという議論を呼ぶ可能性もあり、 コロナの再燃が現実になってしまった場合には与党の思わぬ議席減という結果を招くことも考えられます。

シナリオ3 五輪は来夏に延期、衆院解散は五輪前

 シナリオ2では触れませんでしたが、延期となった東京五輪のスケジュールはどうなるのか、という問題があります。というのも、五輪の花形競技とも言える陸上は、「世界陸上」という五輪の次に大きな大会が隔年(奇数年)実施されており、2021年はアメリカ合衆国で8月6日から8月15日で実施される予定だからです。東京五輪は2020年7月24日から8月9日の予定で実施されるはずでしたから、そのまま1年順延するとこの世界陸上と重複することになります。(また、世界水泳選手権も2021年7月16日から8月1日という日程で、日本・福岡での実施が決まっています。)パラリンピックのことも考えると、ちょうど1年の順延は現実的にはあり得ないといえます。そうなると、もう少し早いタイミングでの実施か、もう少し遅いタイミングでの実施か、もしくは「世界陸上」「世界水泳」を玉突きのように変更するかというオプションになります。

 いずれにしろ、選挙をその「来年夏の五輪」の直前に実施するケースが「シナリオ3」です。具体的には、まず東京五輪の延期先が仮に「ちょうど1年より少し早めに延期」の場合、梅雨入り前に全ての日程を終わらせるのであれば4月末か5月頭から五輪を開催してパラリンピックまでを6月頭に終えるパターン(1924年のパリ五輪は、開催期間は長かったものの「5月4日」スタートだった)が考えられます。この場合、選挙は4月上旬までに行うことになるでしょうから、令和3年度予算成立(3月後半)と同時に解散となるでしょうか。

また、仮に「ちょうど1年より少し遅めに延期」の場合、世界陸上などが終わった後に開催するパターン(8月後半か9月にオリンピックを開催しはじめる、あるいは1964年の東京五輪と同じように10月開催)が考えられます。この場合は、7月後半か8月上旬の選挙が想定されます。

選挙への影響はどうでしょうか。コロナがほぼ完全な収束を迎えていれば、仕切り直した東京五輪を迎えるにあたって政府与党は安心安全とコロナ克服を訴えるキャンペーンを内外に強く訴えることが想定されるほか、国民全体にもコロナに打ち勝った結果としての五輪としての祝祭的な歓迎ムードが広がる可能性もあり、全体的には与党に良い影響を与える可能性があります。一方で経済への悪影響は「シナリオ1」「シナリオ2」よりも格段に大きくなっているほか、野党の選挙準備にも十分な時間が与えられることになり、選挙を双方が万全な状態で迎えることができるのではないのでしょうか。また、このシナリオ3については、そもそもこの日程での東京五輪開催は、いずれも梅雨への懸念や米国主要スポーツ(NFL、NBA)の日程の影響を受けることが既に指摘されており、現時点では細かい調整がはじまったばかりと言われています。

シナリオ4 五輪は来夏に延期、衆院解散は五輪後

 シナリオ4は、具体的には「8月後半か9月に五輪を開催し、その直後に解散総選挙」です。シナリオ3の後者(「7月後半か8月上旬の選挙、8月後半か9月に五輪を開催」)と、このシナリオ4の違いは、五輪前か五輪後かという点はもちろん、自民党総裁選との関係にもつながります。

安倍晋三首相の自民党総裁としての任期は2021年9月30日です。従ってシナリオ3の後者のパターンでは、仮に与党が勝利した場合でも自民党総裁としての安倍首相の任期は残り1ヶ月程度となりますから、総選挙で与党が勝利した場合、安倍首相が総理に指名されたとしてもすぐに総裁選が行われるというスケジュールになります。これでは、政策実現の公約の顔と、政策実現を実際に行うトップが変わる可能性があることから、批判を受ける可能性があります。よってこの場合に考えられるのは、安倍首相が総裁を辞任し、総裁選を早期に実施した上で解散総選挙を迎えることですが、総理総裁一体でこれまで長くやってきた自民党が、夏に安倍総理総裁としてオリパラを終えた後に、安倍総裁を辞任させ、総裁選と衆院選を短期間で実現することはできるでしょうか。 自民党総裁選が党員投票も含め大々的に行われることになれば、国民の関心を引き寄せて自民党に対する支持は一時的に増えることが予想されます。一方、総裁選が後腐れ無く終わる保証はどこにもなく、総裁選に敗退した陣営・派閥が党を割るような事態になれば、一気に自民党の分裂に繋がる可能性も孕んでいます。また、自民党総裁候補に圧倒的な人気を集める政治家がいないこともあり、総裁選そのものが盛り上がらない可能性もあります。 与党の舵取りが選挙戦全体への影響を大きく左右する形になる一方、既存野党は存在感をどのように訴えるのかが鍵となります。

シナリオ5 五輪は来夏に延期、衆院解散せず任期満了

現在の衆議院議員の任期満了は2021年10月21日です。自民党総裁の任期満了からわずか3週間で衆議院議員の任期も満了することとなります。衆議院が解散せず任期満了を迎えた場合、任期満了から逆算して最短での選挙は2021年10月5日(火曜)公示、10月17日(日曜)投開票となるはずです。仮のこの日程の場合、自民党総裁選の実施から衆議院選挙の公示まではわずか数日しかないことになり、総裁選を少し前倒しで実施しなければ、自民党の(各種印刷物や素材準備などの)選挙準備が間に合わないことになるでしょう。従って、少なくとも2021年の5月から6月まで解散をしなかった場合、安倍総理は総裁選の前倒し実施(すなわち総裁としての辞任)を選択する可能性が高いとも言えます。

任期満了まで選挙を引っ張った場合は、「コロナ対策に集中するために、政治的空白は設けてはいけなかった」という見方が出る反面、やはり「総理は解散をする余裕がなかった」という見方も出てくると考えられます。また、自民党の新しい総裁に対する期待値が高まっている一方、実績が未知数であることから、選挙戦における政策訴求についても不十分となる可能性もあります。シナリオ4でも触れたとおり、総裁選のしこりが残れば自民党票が割れる可能性もありえます。また、新しい自民党総裁と公明党との協力体制がどこまで確立するのかも不透明と言えます。

東京五輪の開催に伴う経済効果が著しくなかった場合、または国民が感じる五輪の経済的恩恵が少なかった場合には、五輪がピークとなって経済的な成長がマイナスに転じる、不況に繋がるという不安が高まり、結果的にこれまでのアベノミクスをはじめとする政府与党の経済施策が失敗だったのではという結論に世論が陥れば、野党有利となる可能性もあります。特に自民党が新しい総裁の下で一致団結できないような状態に陥ったり、新しい総裁に対する国民の期待度が高まらなかったりするような状態に陥れば、国会の勢力図が変わるようなことになることも十分に考えられます。もちろん、そのためには野党側にも政権担当能力があることを示す必要があります。

シナリオ6 五輪は2年後に再延期、衆院解散は今冬から来春

あくまでIOCは東京五輪の2021年夏までの延期を発表しました。しかし、これも前述の通り、新型コロナウイルス感染症が来年夏には収まっている保証はどこにもなく、世界のどこかでは引き続き蔓延している可能性や、ウイルスが変異してさらに猛威を振るっていることもありえます。その場合、さらに延長して2022年に五輪の夏冬同年開催となる可能性も捨てきれません。再延期の判断がいつ下されるかにもよりますが、その場合の五輪への機運低下やインバウンド業種への悪影響は計り知れないはずです。

この場合、延期した五輪への期待はもはや低くなっており、景気低迷からのリカバリーも十分ではない可能性があることから、与党にとっては大変厳しい選挙になると思われます。もっとも、解散風から解散までの時間が短ければ、野党の結束がなされずに与党が過半数を維持する可能性もあるでしょうし、景気回復が遅れて内閣退陣の要求が今年夏から秋にかけて続くようであれば、野党の選挙態勢構築が急速に進むことも考えられます。

シナリオ7 五輪は2年後に再延期もしくは中止、衆院解散せず任期満了

 IOCが「東京五輪は2021年夏までに延期する」と宣言したことは、裏を返せば状況の悪化によって来夏までに東京五輪が開催できないようであれば、再延期ではなく中止という意味とも捉えることができます。このような不透明な状況下、コロナの感染拡大から収束までの時間軸が見えない中で予測をするのは困難ですが、同様に「コロナ終息宣言」なるものを出すことも困難であることを考えれば、安易に解散総選挙を打って出ることのリスクは無視できるものとは言えず、やはり必要に迫られた選挙である任期満了を迎えるのが自然な流れだと考えます。この場合、重要なのは日本経済の疲弊と政治への期待と失望の割合です。まず五輪延期(もしくは中止)にかかる経済的な打撃は全てのシナリオの中で最も大きいと言えます。インバウンドに依存してきた産業が軒並み大打撃を食らった後に早々に復活するとは言えず、また株価がコロナ拡大前の状況に戻る望みも薄く、経済的な打撃を早期に克服できなければ、結果的に「アベノミクスは失敗」という烙印が押されます。加えて、有権者は自らの生活に直結する施策の評価には敏感です。従って、不況の影響を受けて失業する人や生活保護を受給せざるを得ない人が増えた場合には、彼らは政府の無策を嘆き、確実に野党の集票力に貢献することとなります。失業率や倒産件数、あるいは生活保護受給者数をモニタリングすることでこれらの予測はある程度可能です。仮に2022年に再延期となっても、衆議院議員の任期満了からオリンピックの開催まではほぼ1年近くに日数が空くことから、五輪への期待感もまだ十分には高まってるとは言えない温度感の中で、与党が国民に期待感を高める公約・政策訴求ができなければ、一気に過半数割れや下野の可能性もあると言えます。

以上、ここまで複数のシナリオを見てきました。今回は敢えて森友・加計問題など安倍首相の支持不支持に関わる他の要因を排除して分析をしましたから、内閣不信任などこれらと別の要因が引き金となってシナリオとは異なる結果をもたらす可能性もあります。しかしながら、国民の不安が高まっている現状や今後の経済に対するダメージの大きさから、現時点において、 新型コロナウイルス感染症の長期化は政権にとってはマイナス材料となるだけでなく、自民党総裁の任期や衆議院議員の任期を鑑みれば、選択肢が少ない状態での選挙は与党にとってはマイナス、野党にとってはプラスの選挙になる可能性が高いとみています。 

 余談ですが、現在政府による個人消費対策としての「現金給付」施策が検討されていると報道されています。「現金給付」について、仮に1人あたり数万円程度という施策だとするならば、内閣支持・与党支持に与えるプラスの影響は一時的であると考えます。ヘリコプターマネーはお財布に入って出た頃にはもう入った経緯を忘れていますから、選挙に与える影響は軽微でしょう。仮に消費税を一時的に減税や停止した場合で、かつその状況で選挙戦に入った場合の方が、選挙に与える影響(与党にプラス)は大きいと思います。

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