新型コロナで「首都封鎖」のバンコク、在タイ日本人の暮らしは?

コロナウイルスの世界的感染拡大を受けて、タイでも首都バンコクが「ロックダウン」となっています。ではタイで暮らす7万人以上の日本人はさぞたいへんなのでは……というと、これがそうでもないのです。生活の不自由はもちろんありますが、大きな混乱は起きていません。そこにはタイ人の気質や、気候風土も大きく影響しているのです。

タイ移住を考えるこの連載、今回は「治安」や「非常時のタイ」について考えたいと思います。


ロックダウン下の在タイ日本人は?

あらゆる教育施設の封鎖、食料品や医薬品のほか暮らしに必要な日用品を売る場所以外の店舗の閉店、歓楽街の営業中止……バンコク首都圏でも3月22日から4月12日までの間、ロックダウンが行われています。

それでも、「レストランは持ち帰り限定だけど開いているし、ショッピングモールは食料品と日用品だけなら買えます。スーパーやコンビニは通常通り。パニックなどはありません」とエカマイに住む現地採用の日本人は言います。またタイもフードデリバリーのシステムが発達していて、無数の日本食レストランが対応していることも大きいようです。

物資を買い占める動きも一部で見られますが、そうヒステリックなものではないのだとか。

「調味料やママー(インスタント麺)、缶詰などの保存食は品薄な店もありますが、ヨーロッパのような状態ではありません。持ち帰りのみ営業している屋台も多いし、食料品の心配はあまりないですね」

タイ人の家族とトンブリーで住む、やはり現地採用の日本人は、

「奥さんは、実家に帰ればカオニャオ(もち米)だけはいくらでもあるから、と悠然としたものです。確かに地方の農村に行けば、庭に果物がなっている家はたくさんあるし、川では魚がよく取れる。米は二毛作、三毛作ができるところも多い。土地が豊かなんです。バンコクよりも現金収入は少ないかもしれませんが、飢えることはない。都市部の人たちも地方住みの親戚はいるものだし、いざとなれば田舎に行けば大丈夫、という心理がタイ人の安全弁になっているようです」

と、語ります。

この「自然の恵み」こそ、なにがあってもタイが大きなパニックに陥らない理由なのです。そしてまた「食うだけなら困らないお国柄だから、タイ人はのんびりしているし、危機感を持って仕事に打ち込まない」と、日本人がついつい苛立ってしまう原因ともなっています。これがタイ人から見ると逆に「日本人はどうしていつも忙しく働いて、カリカリしているのさ」ということになるわけです。

何度も「封鎖」に直面してきた経験がある

そしてタイは、さらにタイで暮らす日本人は、この手の「非常時」にけっこう慣れています。古くは1997年のアジア通貨危機、2006年のクーデター、2010年の反政府デモ弾圧、2011年の大洪水、2014年にまたクーデター……。

そのたびに首都は封鎖されてきたのです。しかし、それでも社会は回ってきました。デモなどの当事者はともかく、在タイ日本人が危険に巻き込まれることもほとんどありませんでした。確かに、生活が脅かされているという精神的なストレス、圧迫感はあります。それでも食うことはできるし、ネットがあれば状況もわかる。異国での変事だって、前が見えないようなことはないのです。

繁華街のスクンビット通りもコロナを警戒して人がまばら

こういうときは、慌てずに情報を集め、淡々と静かにやり過ごすこと。それをタイの人々はよく知っています。天災や騒乱にあたっては、反発したり神経質になるのではなく、柳のようなしなやかさで受け流す。そんなタイ人の気質は、タイに住む日本人も持っているように思います。

もっとも、パンデミックが未知の領域まで拡大すれば、この限りではないでしょうが……。

犯罪に巻き込まれないためには

平時の治安はどうでしょうか。

現在のバンコク、昼過ぎBTSアソーク駅も閑散とした様子

タイはおおむね、女性が夜ひとりで歩いていても、そう危険はないといえるでしょう。ただし「世界一治安のいい」日本と比べてはいけません。やはり気をつけなくてはならないことはあります。荷物を置いたまま席を立たない、夜間の歩道では車道側の手で荷物を持たない(バイクでの引ったくり防止)、見知らぬ人に話しかけられても相手にしないといった最低限の注意は必要でしょう。

それから人前であまり泥酔しないこと。歓楽街なら強盗や性犯罪を呼び込む危険があります。タイ人は公共の場で日本人ほど酔って乱れないものです。

「ケンカをしないこと」と言う日本人もいます。例えばタクシーがメーターを使わないことは日常的ですが、そこで激怒してもいいことはありません。不特定多数の客と接するタクシーは自衛のため銃を持っていることがあります。この国は許可を取れば銃の所持が許される銃社会です。

ふだん温厚で平和的なタイ人ですが、キレると発砲するケースがあります。それよりは、メーターを倒さないなら穏便に断って、次のタクシーに当たればいいのです。

それと若者がたむろす場末の盛り場では、ときにささいな口論から撃ち合いに発展することがあります。これも日本人が巻き込まれたという話は聞きませんが、ローカルな場所ではあまり調子に乗らずおとなしく楽しむ程度にとどめておけば、目をつけられることもないでしょう。

ちなみに観光地では旅行者狙いのサギやボッタクリが多発しており、海外邦人援護統計(日本大使館や領事館に助けを求めて駆けこんだ数)はタイが毎年ぶっちぎりのトップ。2018年の外務省の統計によれば、1位タイ大使館1457件、2位マニラ大使館906件、3位ロサンゼルス領事館806件となっています。

が、サギといっても「この宝石を日本で転売すれば儲かる」とか言われて単なる石コロを高額で買ったとか、見知らぬ人から賭けトランプに誘われて大敗したとか、引っかかるほうも相当に落ち度のある案件が大半を占めます。タイに住み、働いており、タイ語もそこそこわかる人なら、まず被害に遭うことはないでしょう。

危険なのは犯罪よりもクルマやバイク?

「治安よりも交通事故に気をつけないと」と語る日本人もいます。

タイの交通マナーは非常に悪く、運転は荒っぽく、大渋滞の一因ともなっています。事故に遭って骨折したとか手術したなんて日本人もいます。保険がなければ高額な医療費となるでしょう。また、渋滞をすり抜けて走るバイクタクシーは実に便利な乗り物ですが、もちろん危険度は高い。駐在員とその家族は、会社から「バイタク禁止令」が出ていたりします。

こうした問題はいくつかありつつも、タイに暮らす日本人が事件事故の被害に遭う例は少なく、大半の人は平穏に暮らしています。それはコロナ渦巻くいまも同様です。

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