“特別な存在”ではなく“当たり前な存在”セガサミーグループ流LGBTsへの歩み寄り方

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近年、日本でもLGBTsフレンドリーを掲げる企業が増えてく中、社長自ら率先してダイバーシティに取り組んでいるのが、「セガサミーグループ」。ソニックやエイリやんでお馴染みのパチスロ・パチンコ&ゲームメーカーで総従業員数は8000人以上。

そんな大企業を率いるセガサミーホールディングス里見治紀社長が、自らが旗振り役となりLGBTsの取り組みを推進していくきっかけとなったのが、アメリカ・サンフランシスコでの海外赴任経験から。ジェンダーに対する啓けた価値観を育むと同時に、誰もが働きやすい環境づくりに奮起する姿勢は、これからの日本を大きく変える希望に溢れている。

今回は里見社長が目指す本当の意味でのダイバーシティ社会と、自身がLGBTs当事者であることをカミングアウトしている社員の江川徳義さんに、公私共に自分に素直に生きると決めた理由を伺った。

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――LGBTsの聖地ともいえるサンフランシスコでの6年半。ステップバイステップで里見社長が目指す心からの理解。

2005年~2012年までの6年半、海外赴任でサンフランシスコにあるグループ会社に勤めていました。そこでは社員のおよそ15パーセントがLGBTsであることをカミングアウトしていて、他の社員も彼らを特別扱いすることなくみんなが平等であるコミュニティが確立されていたんです。会社主催のパーティにおいてもパートナーを隠すことなく一緒に参加している姿を多く見かけました。その次のパーティにはパートナーがコロッと変わっている人もいましたが(笑)。それだけ当事者の方々がオープンにできる「当たり前」の環境が整っていたという証拠ですよね。カミングアウトしている日本人社員もいたので、外国人だからとかいう理由ではなく、そこでの環境がそうさせているのだなと確信しました。

赴任期間を終えて帰国した時、サンフランシスコと日本のジェンダーに対する考え方にギャップを感じ、次第にこの労働環境で良いのだろうかという感情が強くなっていきました。…ですが「サンフランシスコはこうだったから、こうしよう!」と、そのまま押し付けてもなかなか理解されないことは分かっていましたので、社長就任後、ステップバイステップでまずはLGBTs当事者たちのことを知ってもらうための啓蒙活動を社内でスタートさせました。

最初に行ったのが社内制度の整備です。会社がLGBTsの人たちの存在を認知した上で、理解を示している姿勢を目に見える形で表さなければいけないと思ったんです。現在、渋谷区をはじめ福岡市、茨城県といった地方自治体も含め全国各地で同性パートナーシップ制度が導入され始めています。セガサミーグループでもダイバーシティ推進への理解を深めるために、全社員向けにeラーニングの実施や、会社が認めた同性パートナーが配偶者と同様の扱いを受けることができるよう制度改定をしました。

また、「TOKYO RAINBOW PRIDE 2019」のパレードにセガサミーグループとして参加し、アライ宣言をしました。パレードには古くからの知人が多く携わっていたのも参加するきっかけのひとつです。「いつか一緒に何かできたら良いね」と話していたことが、実現できて嬉しかったですね。

パレードに参加するにあたり、私自らがロゴ規定違反を犯し、企業ロゴの色をLGBTsの応援カラーであるレインボーカラーに変更しました。パレードでは、レインボーカラーのロゴをあしらったTシャツとフラッグを身につけて、社員や私の家族たちが参加しました。後日パレードに参加できなかった社員から「参加したかった」「あのTシャツがほしい!」といった反響、パレードに参加している私たちを見て、新卒採用試験を受けたという学生もいたというのですから驚きました。

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――時代と共に揺らぐコンプライアンスのボーダーライン。啓蒙活動から始めようと思った2つの大きな理由とは?

なぜここまで徹底して行おうと決意したのかと言われると、実は大きな理由が2つあります。

一つは社内で起きた出来事がきっかけです。とある社員のセクシュアルオリエンテーションが本人の意図しないところで公になってしまったことがありました。その時に隣の席に座っていた同僚がLGBTsに対しての正しい知識が不足していたこともあり「今の自分では正しく受け入れることが難しいので席を変えてほしい」という申し出があったのです。確かにLGBTsが周囲にいる生活環境があれば、彼らを深く知ることができますが、そういった環境に身を置いていない人たちからそのような反応が返ってくるのは、仕方ないことでもありました。

もう一つは、役員向けのコンプライアンス研修で先生から法令順守=社会適合性であるというお話を受けた時です。コンプライアンスとは、法律の問題ではなくて、社会的に受け入れられるか否か。30年以上前流行した芸人扮する「ホモ」のキャラクターが数年前に復活した時に、ネットを中心に大炎上した事件がありましたよね。80年代当時は「ホモ」を揶揄する風潮が許されていたが、日本が全体的にLGBTsへの理解を深めようとする過渡期に入った今の時代ではそれが許されなかった。僕の周りでもLGBTsの仲間を中心に議論が起きたのですが、その時にふと思ったんです。まだLGBTsへの理解が軽薄だった時代に、あのキャラクターを笑うことが社会的な視点からみて良くないということを理解できたのだろうかと。それで社会全体としては理解が進んでいますが、個として考えた時はまだまだ知ってもらう時間を要したほうが良いと判断し、今のような啓蒙活動に重きを置くことにしました。

また、サンフランシスコで行われたレインボーパレードのアフターパーティに足を運んだ際、LGBTsを支援する企業、そしてそれらに属している人たちを単純にカッコいいなと思ったんですよね。現在、弊社でカミングアウトしている社員の比率は、一般的に言われているLGBTsのパーセンテージから見ると少ないです。当事者にとってはまだまだ環境が整っていないということを表しているのかもしれません。

彼らが自分らしく働きやすい空間づくりを推進していくことで「LGBTsアライな企業はカッコいい」というカルチャーが日本全体に根付いていけば良いなとも思いますし、そういったコンセプトのパイオニアに「セガサミーグループ」がなっていければと考えています。異性愛者だから、LGBTsだからではなく、誰もが自分らしくいれる本当の意味でのダイバーシティな社会を目指して行きたいです。「特別な存在」ではなく「当たり前な存在」の世の中に。

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――「後に続く後輩のことも考えて言った方が良いかなって」オープンなスタンスだけれど、詮索はしない。各々の持つ自由な権利も大切であること。

――ゲイであることを社内でカミングアウトしているという江川徳義さん

以前の職場では、自分がLGBTs当事者だということを言わず働いていました。ただ、仕草とかで「あの人もしかして…?」みたいな噂が広がっちゃうんですよね(笑)。周囲から自分がセクシュアルマイノリティである疑いを掛けられるくらいなら自分から話してしまおうと思って、採用面接の時にカミングアウトしたところ「セクシュアリティは関係ない」と私自身を見てくれて、そのまま入社することになりました。

その後、初出勤の挨拶でもゲイであることをカミングアウトしたのですが、正直驚いた表情をしている方もいたのですが、ほとんどが温かい気持ちで迎え入れてくれた気がして、この会社に入社して良かったと素直に思えました。

今までの生き方を振り返って、今私がこのようなオープンなスタンスで生きていられるのは20年前、カミングアウトをした友人から勧められるがままにサンフランシスコを訪れた経験が大きいのかもしれません。当時、私はセクシュアルマイノリティであることがおかしいことだと思い悩んでいた時期があったのですが、足を踏み入れた瞬間、世界が180度変わったんです。サンフランシスコには世界的にLGBTsの人たちが多く集まる場所として、LGBTコミュニティのシンボル的存在ともいえるカストロ通りがあり、そこには偏見が一つもない自由な暮らしぶりが広がっていました。「自分はおかしくなんかない」と確信させてくれたのです。最近では日本でもLGBTsを取り巻く環境が急激に変わってきて、特に20代の人たちなんかはとっても寛容なマインドを持ち合わせているなと接していて感じますね。とても良い傾向ですよね。

実際、カミングアウトして後悔の気持ちはないし恥ずかしいとも感じていません。会社自体もLGBTsの受け入れ態勢を整備している過渡期にある中で、後に入社してくる後輩社員のことも考えて私のような存在も必要かなって思っています。会社がLGBTsに関する理解促進のための社員への啓蒙活動、各種制度の改定、また「TOKYO RAINBOW PRIDE」への参加と目に見える形でLGBTsを支援してくれることはとても嬉しいことだと思っています。

人の目に触れる機会が多くなることで、特別な存在ではなく当たり前にいる人たちという新たな価値観が生まれるきっかけにもなるし、私もLGBTsが自分らしく生きる環境づくりの一助になれればと思っています。ただ、社内において自分らしく働くためにカミングアウトしているという人はまだまだ少ないのが現状です。かといって詮索するつもりもないし、それは各々が持つ自由な権利。私から言えるのは怖がらずにカミングアウトしてみると、変な嘘もつかなくて良くなるし仕事だってしやすくなるということですかね。自分に素直になってみるのも良いかもしれませんよ。

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セガサミーホールディングス

取材・インタビュー/村上ひろし(newTOKYO)
編集/芳賀たかし(newTOKYO)
撮影/EISUKE

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