検証「音楽の好みは14歳の時に聴いた音楽で形成されている」って本当? 1979年 6月11日 ザ・ナックのアルバム「ゲット・ザ・ナック」が米国でリリースされた日(マイ・シャローナ収録)

14歳の時に聴いていた音楽がその後の人生の音楽の好みを決定づける?

早いもので、リマインダーもサイト開設から5年目に突入した。単純計算で約100人のカタリベが、これまでに3,000本以上のコラムを提供したことになる。これを平均すると、大体 “1968年生まれ” のカタリベが “1984年” について語っていることになる。つまり “16歳” 前後の出来事について書いているという訳だ。16歳と言えば、青春時代真っ只中だし、人生で最も多感な時期に当たるので、自身の経験や思い出と交えて語るのにちょうどよいのだろう。

だが、2018年2月、『The New York Times』にこんな記事が掲載された。「14歳の時に聴いていた音楽がその後の人生の音楽の好みを決定づける」というのだ。なんでも、1960年~2000年のヒットチャートと Spotify 利用者のビッグデータを分析した結果、男性は14歳、女性は13歳の時に最も敏感に音楽に影響を受けるということらしい。

さらに、この記事を受けて、翌2019年2月には『GQ JAPAN』(コンデナスト・ジャパン)が「14歳のときに聴いたあの音楽」と題して、バックグラウンドの異なる6人のミュージック・ラバーに「14歳のときに聴いていた音楽」を訊ねたりもしている。でも、ちょっと考えてみると、先の “16歳” と比べて “14歳” とは少し早すぎやしないか。それに、音楽の好みが “14歳” 以降に変わらないと言えるのだろうか。

自分で検証!ヒットチャートで振り返る14歳の時の音楽シーン

そこで僕は、この “14歳” という仮説を自分自身に当てはめて検証してみたいと思う。1965年生まれの僕が14歳になったのは79年だが、その頃には既に海外の音楽シーンを必死で追いかけていたので、まずは当時のヒットチャートを振り返ってみることにする。

この年の全米アルバムチャート(Billboard 200)を見てみると、No.1になったアルバムは全部で11枚しかなかった。これらを時系列に並べるとこんな風になる。

01. グレーテスト・ヒット Vol.2 / バーブラ・ストライサンド
02. ニューヨーク52番街(52nd Street)/ ビリー・ジョエル
03. ブルースは絆(Briefcase Full of Blues)/ ザ・ブルース・ブラザーズ
04. スーパースターはブロンドがお好き(Blondes Have More Fun)/ ロッド・スチュワート
05. 失われた愛の世界(Spirits Having Flown)/ ビー・ジーズ
06. ミニット・バイ・ミニット / ドゥービー・ブラザーズ
07. ブレックファスト・イン・アメリカ / スーパートランプ
08. 華麗なる誘惑(Bad Girls)/ ドナ・サマー
09. ゲット・ザ・ナック / ザ・ナック
10. イン・スルー・ジ・アウト・ドア / レッド・ツェッペリン
11. ロング・ラン / イーグルス

1年に52週あるので、アルバム1枚当たり「平均4.7週」の間No.1の座に留まっていたことになるが、これは今の感覚からすると結構長いような気がする。おそらく当時、少なくともアルバムについては、瞬間風速的な売れ方よりロングセラーの方が多かったのだろう。

1979年の音楽シーンは英国ロック、西海岸ロック、そしてディスコ

で、この11枚を僕なりに分類してみると、5つのカテゴリに分けることができた。

■ 西海岸ロック系:14週(ドゥービー・ブラザーズとイーグルス)
■ ディスコ系:12週(ビー・ジーズとドナ・サマー)
■ スポット参戦系:11週(スーパートランプとザ・ナック)
■ 英国ロック系:10週(ロッド・スチュワートとレッド・ツェッペリン)
■ その他:5週

ちなみに “スポット参戦系” とは僕が勝手に名付けたカテゴリで、このアルバムが生涯唯一のビッグヒットだったアーティスト群のことだ。だから、例えばスーパートランプを英国ロック系、ザ・ナックを西海岸ロック系に分類すべき、という考え方ももちろんあるだろう。それに、ロッド・スチュワートについても、この作品に限ってはディスコ系に入れるべき、という人がいるかもしれない。

いずれにしても、79年の音楽シーンが「英国ロック」「西海岸ロック」「ディスコ」の3ジャンルを中心に回っていたのは間違いなさそうである。

この年最大のヒットシングル「マイ・シャローナ」からの影響は?

ここまで見てきて、僕には1つ判ったことがある。

実は、僕はそこそこ長い間、音楽オタクをやっているのだが、その割に音楽の好みや指向性に一貫性が無い。これまで英国系と西海岸系という一見(一聴)正反対のサウンドを並行して聴き続けてきたし、ロック好きかと思いきや、ダンスミュージックが大好きだったりもする。

そんな自分のセンスが長年謎だったのだが、これではっきりした。僕の音楽の土台を作ったのは、79年の音楽シーンだったのだ。つまり、この “14歳” という仮説が、僕に限っては正しいことが証明されたのだ。

と言うことは、この年の世界最大のヒットシングルであるザ・ナック「マイ・シャローナ」からも、僕は何かしら影響を受けているかもしれないな。

Song Data
■ My Sharona / The Knack
■ 作詞・作曲:Doug Fieger, Berton Averre
■ プロデュース:Mike Chapman
■ 発売:1979年6月18日

カタリベ: 中川肇

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