都市封鎖が与える「リーマンショック級」経済インパクト

世界の株式市場は、新型肺炎の米欧での感染拡大が判明した2月24日から急落。ダウ工業株30種平均など主要株価指数は、2月半ばの高値から一時30%以上、わずか約1ヵ月で下落しました。この激しい値動きは、2008年に起きたリーマンショック以来の、金融市場・経済の危機が起きていることを示しています。

新型肺炎に伴う危機到来に対して、米欧の政策当局は大胆な政策対応を矢継ぎ早に繰り出しています。FRB(米国連邦準備理事会)など複数の中央銀行が、早々に政策金利をほぼゼロに引き下げ、大規模な資産購入を再開しました。


FRBの危機対応で市場心理に変化

3月に入り米国の金融市場では、経済活動停止リスクに直面した企業や銀行がドルキャッシュを確保する行動が強まり、ドル資金の流動性が低下。多くの企業や銀行の手元資金が不足しかねない状況になりました。これに対して、最後の貸し手であるFRBが連日大規模な資金供給拡大を続けています。

さらにFRBは、企業の資金調達手段であるコマーシャルペーパー、そして大きく価格が下落している社債などを、事実上買い支えるスキームなどを通じて、信用リスクを和らげる措置にまで踏み出しています。これはFRBや政府が、企業債務の貸し倒れリスクを事実上肩代わりする対応で、2008年のリーマンショック後の金融危機時にも採用された政策です。

新型肺炎拡大によって、FRBなどが危機時の対応を余儀なくされるほどの危機に金融市場は至っているわけですが、政策対応への期待が市場の不安心理を落ち着かせる場面がようやくみられています。

3月24日にダウ平均の1日の上昇率が11%を超える、1933年以来となる大幅上昇となった一因は、FRBなどの対応で信用市場の緊張が和らいだことです。新型肺炎がもたらす経済、金融市場へのネガティブな影響と、これに対する当局の対応の綱引きを見定める局面に移行しつつあるように見えます。

都市封鎖されたニューヨークの現在

一方、米欧の経済状況は3月20日以降、一段と悪化度合いが強まっています。新型肺炎の感染拡大が止まらないため、3月20日にニューヨーク州知事が、外出・出勤など広範囲な経済活動制限を発表しました。これに先立って、カリフォルニア州では外出禁止令が出ていましたが、3月23日時点で全米15以上の州において、外出制限など感染拡大防止策が行われています。

たとえば、ニューヨークにおける都市封鎖は、社会インフラに近い基幹業務以外にかかわる従業員は仕事場に行くこと、複数で集まることなどが許可されず、多くのレストラン、小売店などは営業もできません。散歩やランニング、食料品などの買い物などの外出のみが事実上許容されています。

<写真:ロイター/アフロ>

都市封鎖が与える経済インパクトは

ニューヨーク州で「都市封鎖」と言える、経済活動の制限が起きるのは戦後ほぼ初めての大変な出来事です。同様の措置が米国の多くの都市部で行われる可能性があります。過去の経験則が当てはまらないので、都市封鎖のインパクトを定量的に測るのはかなり困難です。

ある程度前提を置く必要があり、また都市封鎖がどのタイミングで解除されるかは新型肺炎の感染状況に大きく依存するなど不確定要素がありますが、一定の前提をおいて経済インパクトの大きさを以下で推量を試みます。

都市封鎖により経済活動停止の影響を直接受けるのは、主に不要不急のサービス消費です。外食、旅行(ホテル、カジノなど)、スポーツ観戦、レジャー施設などが該当し、これらの産業の活動が当面、相当程度止まるとみられます。

米国においてこれらのサービス消費産業は経済全体の約7%を占めます。これらの産業で、経済活動がどの程度落ちているかを把握するのは困難ですが、たとえば、ニューヨーク州の地下鉄の乗車数は60〜80%もの急激な落ち込みがみられています。これを目安に、サービス消費セクターの経済活動が70%程度停止されるとします。

すると、単純計算でGDP5%規模の経済活動が、個人消費を中心に蒸発することになり、都市閉鎖によって経済活動の停止・大収縮が避けられないことが示されます。

戦後最大規模の不況が再び到来か

一方、こうした経済活動停止がずっと続くわけではなく、また経済活動の収縮を補うために、米国では緊急対応として、一人1,200ドルの小切手給付、休業者への所得補償などの財政政策の準備が進んでいます。また、新型肺炎の感染状況によって、都市封鎖を続ける自治体首脳など政府の感染拡大対策も変わります。

ただ、仮に短期間であっても、GDPの5%の規模の米国における経済活動停止が起こるインパクトは極めて大きいと言えます。このショックが4月から本格化して、夏場にかけて徐々に都市閉鎖の経済活動制限が和らぐと仮定しても、4〜6月 米国GDPの成長率は前期比年率ベースで20%以上減少する可能性が高い、と筆者は現時点で考えています。

この結果、2020年の後半にかけて米国経済が正常化し、失われた消費活動がある程度戻っても、2020年の米国の経済成長率は約-3%縮小することになります。これは、リーマンショックがあった後の2009年にみられた米国経済の大収縮とほぼ同じで、戦後最大規模の不況が再び到来することを意味します。

3月以降の急ピッチな株式市場の下落など金融市場の激変は、リーマンショック再来を警戒した動きでした。2008年にリーマンショックを引き起こした銀行システムの機能不全が、今回は当局の対応で防ぐことができる、と筆者は見込んでいます。ただ、今回は新型肺炎で経済システム全体が麻痺するといった、2008年とは異なる経路で、世界経済の大収縮が起こると筆者は予想しています。

リーマンショックが起きた時に、米国の株式市場は高値から50%以上下落し2009年3月に下げ止まりました。目先は、米国の株式市場は乱高下が続くと思われますが、2020年内にリーマンショック時と同程度の株価下落が起きる可能性が高い、と考えています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

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