21世紀以降春夏通じて準優勝は8度… 悲願の全国制覇に挑む東北勢の高校野球

2018年夏の甲子園で金足農のエースとして決勝進出を果たした日本ハム・吉田輝星【写真:石川加奈子】

光星学院は2011年夏から3期連続で決勝に進出したが、いずれも敗れた

 第92回選抜高校野球大会は新型コロナウイルスの感染拡大で史上初の大会中止となった。球児たちは最後の夏に向け再びスタートを切ることになる。21世紀に入ってから、高校野球では東北勢の活躍が目立っている。

 21世紀以降、春夏の甲子園でベスト4以上に進んだ東北勢は以下の通り。

2001年春 仙台育英(宮城)準優勝
2003年夏 東北(宮城)準優勝
2005年春 羽黒(山形)ベスト4
2009年春 花巻東(岩手)準優勝
2009年春 利府(宮城)ベスト4
2009年夏 花巻東(岩手)ベスト4
2011年夏 光星学院(青森)準優勝
2012年春 光星学院(青森)準優勝
2012年夏 光星学院(青森)準優勝
2013年夏 日大山形(山形)ベスト4
2013年夏 花巻東(岩手)ベスト4
2015年夏 仙台育英(宮城)準優勝
2018年夏 金足農(秋田)準優勝

 東北勢は1915年、夏の甲子園の前身である全国中等学校優勝野球大会の第1回大会で、秋田中学が決勝に進むも京都二中に敗れた。以後、優勝することなく105年が経過している。東北勢にとっては「白河の関(福島県にある関東と東北の境の関)を越えて優勝旗を持ち帰る」ことが悲願だった。

 21世紀以降、東北勢は春夏通じて8度も決勝戦に進出したが、すべて敗退。光星学院(現八戸学院光星)などは、2011年夏、12年春、12年夏と3大会連続で決勝に進出したが、すべて涙を呑んでいる。あと一歩のところまで来ているが「白河の関」は、高い壁となって東北勢に立ちはだかっている。

 東北地方は積雪が多い寒冷地のため、練習時間が短く、関東以南のチームに比べて不利といわれてきた。しかし、近年は温暖化の影響で暖冬の年が多く、練習環境にそれほど差がなくなった。また、東北地方の高校には、先進的な練習法や指導法を取り入れ、メンタルトレーニングなども取り入れる優秀な指導者が多い。さらに関西地区などからの「野球留学」が増えたことも大きい。

ダルビッシュを擁する東北は2003年春から4期連続甲子園出場、03年夏に決勝に進出した

 21世紀以降、甲子園で活躍した東北の高校出身選手を見ていこう。

 酒田南(山形)は2001年夏、2002年春夏と連続で甲子園に出場した。長谷川勇也(現ソフトバンク)が強打の外野手として活躍し、注目された。

 東北(宮城)のダルビッシュ有(現カブス)は、2003年春から4大会連続で甲子園に出場。2003年夏は決勝で常総学院(茨城)に2-4で敗れた。2004年春の1回戦では熊本工(熊本)相手にノーヒットノーランを演じている。

 2006年春は光星学院(青森)の坂本勇人(現巨人)が出場。1回戦で敗退したが3安打を放って注目された。2006年夏、2007年春夏と甲子園に出場した仙台育英(宮城)では、佐藤由規(現楽天)が最速155キロの快速球を駆って活躍。中田翔(大阪桐蔭、現日本ハム)、唐川侑己(成田、現ロッテ)とともに高校ビッグ3と称された。

 花巻東(岩手)の菊池雄星(現マリナーズ)は2007年夏、1年生で甲子園のマウンドに。2009年春には岩手県勢として初の決勝に進出するも、今村猛(現広島)がエースで4番の清峰(長崎)に0-1で惜敗した。

 菊池と入れ違いで花巻東に入学したのが大谷翔平(現エンゼルス)。1年生から大型右腕として注目された。2011年夏は外野手として甲子園に出場し、帝京戦の4回から登板。翌2012年春は、大阪桐蔭との1回戦で投手としては9失点するも、この大会の優勝投手である藤浪晋太郎(現阪神)からホームランを放った。この大会の決勝では、藤浪、森友哉(現西武)の強力バッテリーの大阪桐蔭に、田村龍弘(現ロッテ)、北条史也(現阪神)が中軸に並ぶ光星学院(青森)が挑んだ。2人は5安打2打点したが3-7で敗退した。

吉田輝星を擁する金足農は2018年夏、進撃を続けて決勝に進出した

 2015年夏の決勝では、平沢大河ら(現ロッテ)を擁する仙台育英(宮城)が東海大相模(神奈川)と対戦。平沢は東海大相模の左腕、小笠原慎之助(現中日)から2安打したものの6-10で敗れた。

 2018年夏では、2度目の春夏連覇を目指す大阪桐蔭に対し、金足農(秋田)の吉田輝星(現日本ハム)が決勝で立ち向かった。予選から準決勝まで1人で投げてきた吉田だったが、大阪桐蔭打線に5回12失点と打ち込まれた。吉田の過酷な登板に「球数制限」の議論が高まった。

 2019年12月に法政大学で行われた「日本野球科学研究会第7回大会」での秋田県教育庁保健体育課、野中仁史氏の発表によれば、21世紀以降、東北勢の躍進が目立つ中で、不振が続いた秋田県勢について秋田県議会でも議題に上った。そこで秋田県では国学院大学准教授でバイオメカニクス研究の第一人者である神事努氏ら有識者を招聘し、県内の有望な選手を育成するプロジェクトを立ち上げた。金足農の吉田輝星の活躍は、こうした県を挙げた育成計画のたまものだったという。

 甲子園には出場していないが、大船渡(岩手)の佐々木朗希(現ロッテ)ら逸材の輩出も続く。東北勢のこうした熱意は、やがて実を結ぶだろう。優勝旗が白河の関を越えるのは、それほど遠い未来ではないのではないか。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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