転居の時期に

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 荷物を積んだトラックが道中の坂道でエンストし、とりあえず家具も布団袋もそのままにして体だけ移動した、と昔日の記憶がつづられている。本紙の「声」欄はこのところ「引っ越し」がテーマで、興味深いエピソードがあれこれ並ぶ。娘さんの自立を温かく見守る投稿もある▲わが身を振り返れば、これまで何度か転勤したけれど、余裕を持って荷造りをしたためしがない。いつもばたばたと、慌ただしく引っ越しを済ませ、あとになって名残惜しさがじわじわくる▲自然の春は列島を北へと歩んでいくが、人の春は東西南北、あらゆる方角へと急ぎ足で交差する。進学、就職、転勤に伴う引っ越しの時期は、人々が最もせわしく動く頃でもある▲転居の多くは期待と不安を伴うが、この春は別の心配事も伴っている。先の知れない新型ウイルス禍と、人の移動の時がちょうど重なった▲県内から、外出自粛が求められている大都市へと移る人もいる。引っ越し業者は転入してきた人と接することも多い。人手不足のこの業界は、もしスタッフが感染し、欠けることになれば、回らない恐れがあるという▲気ぜわしいばかりでなく、この春は心配事でざわついている。こんな時だが、いや、こんな時だからこそ、別れを惜しむ言葉、温かいはなむけの言葉を忘れまい。(徹)