帰るためのケア“訓練” 生後3か月半の卒業証書 【連載】大空といつまでも 医療的ケア児と家族の物語<6>

長崎大学病院のスタッフが大空君の退院時に贈った「そつぎょうしょうしょ」

 長崎大学病院の新生児集中治療室(NICU)。18トリソミーの出口大空(おおぞら)君が生後2カ月を迎えたころ、母親の光都子(みつこ)さんは大空君が自宅で過ごすために必要な「医療的ケア」を看護師から学び始めた。
 鼻の穴から胃に母乳を注入するチューブの長さは19センチで、1週間で交換が必要。食道に上手に入らず口から出てきたり、大空君がえずいたり。胃に通ったと思えば、シリンジでシュッシュッとチューブに空気を入れて聴診器で胃の音を確認。チューブから液体を抜き取り、試験紙に垂らして胃液かどうかもチェックした。いずれの反応もないためエックス線で撮影すると、チューブがのど付近でぐるぐると巻いていたこともあった。
 人工呼吸器の管理、モニター画面の数値の意味、酸素濃縮器の使い方、気道を確保するカニューレの交換、たん吸引の手順、心肺蘇生法…。あらゆる“訓練”をひと月ほど受けると小児病棟に移った。光都子さんも泊まり込んで1人でできるか試すことになったが、緊張の連続だった。
 大空君はたびたびてんかんのけいれん発作を起こした。酸素飽和度の数値がぐんと下がり、光都子さんが慌てて看護師を呼ぶボタンを押すと、5人ほどが駆けつけた。「大空、頑張れ。大空、頑張れ」。看護師が呼吸器から送り込む酸素量を増やし、必死に励ます。「え、そんなに危険な状態なの?」。光都子さんは自宅でとっさに対応できるか不安を募らせた。
 入院中、医療スタッフからのサプライズに心が温まった。生後1カ月目には厚紙に大空君の手形と足形をプリントし、「1か月Birthdayおめでとう」と書いたものをプレゼントされた。2カ月、3カ月目には色紙(いろがみ)などで冠も作ってくれた。「短命」とされる18トリソミーの大空君の誕生日をこれから何回祝福できるか分からない。退院後の4カ月目からは家族で冠作りを続けている。
 生後3カ月半の2016年7月6日に退院。「ちょっと来てください」。帰ろうとする光都子さんと夫の雄一さんはNICU前に呼ばれた。お世話になったスタッフたちが待っていた。
 「そつぎょうしょうしょ。出口大空くん。退院おめでとうございます。生まれてからすぐに、お父さんお母さん、お姉ちゃんたちと離ればなれになったけど、本当によく頑張りました。これからは周りのみんなにたくさんの愛情をもらってたくましく大きく育ってくださいね。NICU・GCUスタッフ一同」。主治医が読み上げると、光都子さんの目から涙があふれた。

【次回に続く】
※この連載は随時更新します。

 


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