ニューイヤー駅伝初参戦で5位躍進も「No.1でないと意味が無い」 GMOが目指す壮大な野望

今年のニューイヤー駅伝、初出場でいきなり5位入賞を果たした、GMOインターネットグループ。客観的に見れば初出場で5位は好成績、大躍進を果たしたように思えるが、当の本人たちはこの結果にまったく満足していないという。
「GMOアスリーツ」が目指す壮大な目標とは何なのか? 部長の安田昌史氏と、マネージャーの本多勇樹氏に話を聞いた。

(インタビュー・構成=浜田加奈子[REAL SPORTS編集部]、撮影=長尾亜紀、写真提供=GMOアスリーツ)

世間的に見れば好成績でもまったく満足していない

創部4年目にしてニューイヤー駅伝に初出場、5位という好成績を収めましたが、この結果について感想をお聞かせください。

本多:私どもは本気で優勝を目指していたので、5位という結果にはあまり満足していないのが本音です。やはり、やるからには1番を目指すというのがGMOインターネットグループという企業のフィロソフィーにあります。世の中にさまざまな商材やサービスがある中で、2番手、3番手のものはなかなか選ばれません。参入するからにはナンバーワンにならなくてはいけない。GMOアスリーツでもナンバーワンになるという目標を掲げて創部したので、そこが達成できなかったことは、会社としては満足できていません。

それでは選手、監督も含めて、5位の結果を喜ぶような雰囲気はなかったのでしょうか?

本多:1位の旭化成に圧倒的に負けたという明確な結果が出ましたので、選手はまったく喜ぶ雰囲気はないですね。箱根駅伝で優勝経験している選手も多くいるので、悔しさをかなり表に出す選手もいました。

社内もやはり、選手たちと同じように悔しいといった雰囲気だったのでしょうか? 本多:パートナー(同社では「従業員」の呼称)からはよく頑張ったんじゃないかという意見は出ています。ただそれは、やっぱり優勝は無理だったよね、ということではなく、総力戦で戦った結果、自分たちは5位だった。その現実を受け止めて、次に向けてもっとやらないといけないと結束力が高まりました。

安田:もちろんがんばった選手はねぎらってあげたいですし、客観的に見て、初出場で5位入賞したというのは評価されているかもしれません。しかし、会社としてナンバーワンを目指すという強いポリシーを持っているので、やはり当社の評価軸で見れば自己評価はできません。それだけ会社として陸上チームに力を入れているということでもありますね。

駅伝とマラソンの良さを保つことがトップ選手になるために大切

目標として優勝を掲げていたというのは、どういうレース展開を想定していたのでしょうか?

本多:ニューイヤー駅伝の前に、花田(勝彦)監督がかなり深いところまで分析していました。他のチームのメンバーや区間配置を予測していく中で、当社のメンバー7人のタイムを積み重ねていくと、想定通りに走れていれば、2番手争いはできる。レース展開次第で優勝も狙えるというところでした。旭化成が予想していたよりもかなり速いタイムでしたが、その他のチームに関してはほぼ予想通りでしたので、見方としては合っていたと思います。

そんな中で5位という結果となった要因はどのように考えていますか?

本多:残念ながら、2人の選手がインフルエンザにかかってしまいました。チーム人数が10人と少ないこともあり、選手層の薄さというところも、やはり敗因にはなっているのかなと思っています。

また、創部は4年前ですが、駅伝に参入したのは今シーズンからでした。それまではフルマラソンでオリンピックや世界陸上の代表選出を目標に掲げてチームづくりをしてきていたので、選手たちが大学を卒業した後に、駅伝を全く経験しておらず、勝負感や駅伝特有の気持ちの持っていき方が若干足りなかったのかなというのが、結果が出た後に振り返るとありますね。

駅伝とマラソンは似て非なるものなので、マラソンに最適化したトレーニングをしていると、必ずしも駅伝の方で良い結果が出せるとは限らないところがありますよね。

本多:そうですね。やはり、フルマラソンの42.195kmと駅伝の区間ごと、だいたい15 km前後では走り方ももちろん変わってきます。フルマラソンはスタートからゴールまで全て自分の責任になる競技ですけど、駅伝というのはつなぐスポーツになるので、そこのスイッチをうまく切り替えられるかどうかが課題として残ったように思います。

フルマラソンなどで2020年東京オリンピックを目指している選手もいる中で、2019年に駅伝に参加したというのはなぜだったのでしょうか? 本多:ニューイヤー駅伝はやはり世の中から大きく注目をされる大会ですので、会社にとってプラスになることも理由の一つです。また、花田監督の考えとして、マラソンやトラック競技の日本代表が、何の抵抗もなく駅伝にも出場して優勝することがあり、それこそが一流選手の強さではないかと考えています。駅伝を走ったからマラソンで勝てないと言っていては、トップ選手にはなれませんし、そういったマインドを排除していくことも花田監督の強い思いにあります。

一流を目指すのであれば、どんな条件でも戦えるマインドを持つことが必要だということですか?

本多:そうですね。もう少し競技的な側面で言うと、15kmから20 km、駅伝の1区間の部分でスピードを持てないとフルマラソンでも実際は勝負できません。ですので、マラソンと駅伝を別で考えるのではなくて、駅伝のスピード、マラソンのスタミナをうまく補完し合うという考えを常に持つよう、花田監督は常々選手に伝えています。

どちらでもできる人間じゃないとオリンピックを目指せるような選手にはなれない、と。

本多:もちろん創部した当初は人数が少なく、駅伝には出られなかったので、まずはマラソンを一つのターゲットとしていました。GMOアスリーツではチーム運営のかたちでスポーツ支援を行っているので、その競技自体も盛り上げていきたいという思いが非常に強いんですね。それは、アドバイザーに原(晋)監督(青山学院大学)を迎え入れたこともそうですし、もっと日本の陸上界、長距離界を良くしていきたいという大義を持って活動しています。

ナンバーワンになろうと思っている人からナンバーワンが生まれる

ナンバーワンのチームをつくるためには何が必要だと考えていますか?

安田:チームとしては、例えばニューイヤー駅伝で優勝するというのは短期的な目標として掲げていますし、個々の選手でも、それぞれでマラソンなのか、トラックなのか、それぞれの得意分野で、中期的にせよ短期的にせよ、ナンバーワンになるという目標を持つ、というのがGMOアスリーツのカルチャーです。当社のビジネスの考え方で、代表(取締役会長兼社長)の熊谷(正寿)が口を酸っぱくして言っていることが、ナンバーワンになろうと思っている人間からナンバーワンが生まれる、ナンバーワンになろうと思ってない人間からはナンバーワンは生まれない、ということです。

GMOアスリーツのホームページには、「競技結果ナンバーワン」、「選手の夢をかなえる環境ナンバーワン」、「ランニング文化支援ナンバーワン」という3つのナンバーワンを目指すと掲げていますが、現在の自己評価はいかがでしょうか?

安田:「競技結果」からお話すると、チームでは今年ニューイヤー駅伝に初出場で初優勝ができなかったので、2021年の1月に優勝するというのが目標です。ただ、今は道半ばですけれども、ハードルは低くなくても十分に実現可能な夢だと思っています。個々の選手の話でいうと、昨年9月に開催されたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)の出場権を3人の選手が獲得できました。実業団の中でも比較的多い人数ですし、決してチームの在籍人数が多いとはいえない中で3人がMGCの権利を取れたというのは、よくやれているとは思います。ただここも目標はあくまでもオリンピックに出場してメダルを取ることです。橋本(崚)がMGCで5位になったことで、東京オリンピック日本代表の補欠2位となっており、可能性としては残されていますが、その目標はまだ達成できているとはいえませんね。(編集注:取材2月6日)

「環境」についてはいかがでしょうか?

安田:環境に関しては、結果を出して初めて評価されるものではありますけど、逆に言うと、ナンバーワンになるためには、ナンバーワンの環境整備をする必要があると考えています。食事や練習環境、合宿所の選定にしてもそうですね。

また僕らの得意なテクノロジーを活用した、「GMOバーチャルジム」というものをつくりました。そのジムはコンテナの中に低酸素ルームを作ったり、そこにモニター付きのトレッドミルを置いて、東京マラソンやニューイヤー駅伝などの本番環境を再現しながらトレーニングができるようになっており、コース映像はスタッフが撮影をしています。こうしたバーチャル環境を用意することでも、最善の練習環境を構築していきたいと考えています。

42.195kmのコースをスタッフが撮影しているのですか?

安田:車を使用して撮影を行っています。ものづくりが得意なエンジニアチームがいるのでそのチームにトレッドミルを導入するコンテナの作り込みや、低酸素ルームとの運用のアプリを制作してもらっています。ちなみにコンテナ内は、オリンピック時期を想定した温度まで上げることができたり、コースにある坂道を想定した角度もトレッドミルで設定できます。

スポーツも仕事も関わる人を大切にする

面白いですね。選手にとってよりトレーニングの質を上げられるような環境を構築しているところなんですね。ちなみに、選手の雇用形態はどのようになっているのでしょうか?

安田:全員正社員です。練習拠点が埼玉県の東松山市ですので、練習していない時、競技をしていない時は勤務時間となります。基本的には東松山市のクラブハウスで研修などを行っていて、週1回渋谷の本社に出社してもらっています。そこで、それぞれ配属された部門やグループ会社で仕事をしています。

グループ経営の強みを生かして、配属先も柔軟に対応しています。例えば、下田裕太はゲームが好きで、ソーシャルへの発信力もあるので、GMOペパボというグループ会社に配属して、今はeスポーツの担当をやっています。あと、近藤秀一は現在働きながら東京大学大学院で運動生理学を学んでいて理系分野にも精通しているので、本社の次世代システム研究室に配属して、エンジニアと触れさせて、勉強させたりしています。そういったかたちでそれぞれの適性を見ながら配属先を決めています。

選手が競技だけではなく、ビジネス、仕事にも携わらせているのは、どのような意図があるのでしょうか?

安田:これは「ランニング文化支援」にも関わるところですが、セカンドキャリアのためですね。本業はあくまでも陸上なので、仕事している時間は最低限ですけれども、その時間も彼らの大事な時間でもあり命でもあるので、少しでも意義のあるものになってほしいと思っています。配属先にしてみれば、週1しか来ない選手のための仕事を作るのは大変で、選手の将来を考えないのであれば雑用をやらせる方が楽だったりもします。ですが、配属先も熱量を持って迎えてくれていますし、一緒に働いている仲間がこれだけ一生懸命走っているんだからという気持ちになると、応援の熱量も変わってくると思います。

選手を決める時も、競技だけではなく、しっかりと仕事にも熱量を持って取り組めるかを一つの基準にしているのでしょうか?

安田:GMOアスリーツの目標はあくまでもチームとしてナンバーワンになることで、陸上がメインになります。ただ、やっぱり、スポーツの世界でナンバーワンを目指して頑張った選手というのは、大体仕事でもうまくいくと思います。仕事もスポーツもどうしたら勝てるか、成長できるかを考えて取り組む点では共通点がありますからね。

選手にもたまに陸上を続けるべきかどうか相談されます。それは選手にとって、陸上を続ける時間と社会人として働く時間はトレードオフになるのでやっぱり悩むことがあると思います。そういった時は、そこで悩んでいるよりは競技に打ち込んで、そこで結果を出せば必ず仕事にもつながると話しています。

「ナンバーワン」というワードはGMOにとってフィロソフィーでもあるかと思いますが、その勝ち方にもこだわりがあるように感じます。

安田:例えば、企業が利益でナンバーワンになることは、結果としては素晴らしいことですけど、優先順位は利益が一番ではありません。利益は結果としてついてくるものです。良いプロダクトを提供して、お客さまに笑顔になっていただいて、その結果として利益ナンバーワン。そこの優先順位をはき違えると不幸になる人が出てきてしまいます。一番の優先順位は“人”です。ビジネスをやる上で、お客さまや従業員を不幸にして結果を追い求めるということはしません。優先順位が違うから。

それと同じで、GMOアスリーツでも、選手がハッピーにならなかったら意味がありません。その結果として、競技でナンバーワンという夢をかなえていきたいと考えています。

<了>

PROFILE
安田昌史(やすだ・まさし)
早稲田大学法学部卒業後、公認会計士となり、2000年インターキュー株式会社(現GMOインターネット株式会社)入社。2015年3月よりGMOインターネット株式会社取締役副社長、2016年4月よりGMOアスリーツ部長も兼任する。
自身も市民ランナーとしてこれまでにフルマラソン20回完走。

本多勇樹(ほんだ・ゆうき)
1985年生まれ。元競泳選手(平泳ぎ)。日本大学豊山高等学校⇒日本体育大学卒業後、東京ドームに所属し平泳ぎで日本新記録(当時)を樹立、2009年の世界選手権で日本代表に選出されるなど活躍。2011年に現役引退後、一般企業で営業マンとして経験を重ね、2018年GMOインターネット株式会社入社、GMOアスリーツ マネージャー(実務担当)を務める。

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