【佐々木淳コラム】嵐が、来る

 これまで経験したことのないような巨大な嵐が首都圏に接近してきている。
数日前に「嵐の前の静けさかもしれない」と投稿したが、いまその嵐の大きさが具体的に見え始めた。
嵐の直撃はもはや避けられない。

新型コロナウイルスの感染は着実に拡大している。どこで感染したのかわからないケースも増えてきている。まもなく指数関数的に患者数が増大するフェイズに入ると多くの専門家が懸念する。

感染者の多くは軽症~無症状と言われているが、20%は重症化、5%は集中治療室での生命維持治療を必要とする。普段は平和な日本では感染病床も集中治療室も多くはない。いずれも人口10万人あたり4~5床。爆発的な感染拡大が起こればあっという間に満床になり、治療を受けられない人が増える。

東京ではすでに大学病院で院内感染が発生した。もし医療専門職が感染すれば、病院全体の機能もダウンする。普段なら助かる病気の人も治療が受けられなくなる。犠牲者の数は、東日本大震災の10倍を超える可能性もある。

しかし、私たち一人ひとりが「リスクの高い行動」を抑制すれば、犠牲を最小限に食い止めることができる。

「密閉:密閉空間で換気が悪い」「密接:近距離での会話や発声がある」「密着:手の届く距離に多くの人がいる」という3つの「密」が揃う場所を避ける。イベントは延期する。体調が悪いときは外出しない。海外から入国・帰国した人、イベントに参加した人は、その後2週間は人との接触を避ける。

**気を付けるべきことはこれだけだ。
たったこれだけで、あなた自身を、あなたの愛する家族やパートナーを、命の危険から守ることができるのだ。**

新型コロナウイルスが奪うのは寝たきり高齢者の命だけではない。
海外では20代、30代の犠牲者も増えてきている。そして、病院がパンクすれば、治療できるはずの病気で死んでしまう人も出てくる。私たち全員にとっての命の危機なのだ。

失われた命は二度と戻ってこない。
一生後悔しながら生きるくらいなら、一定の期間、生活の優先順位を変えてもいいじゃないか。
出かけられないことを嘆くよりも、自宅で楽しく過ごせる方法を考えよう。

もちろん、嵐が過ぎ去った後に荒廃した街だけが残った、というのでは困る。
ここは政策を総動員して、私たちの経済と生活文化を支えてくれる人たちを、嵐の間しっかりと守ってほしい。

効果的なワクチンや治療薬ができるまで、一人でも新型コロナウイルス感染症の犠牲者を少なくしたい。そして、爆発的感染拡大によって医療機関がパンクし、助けられる命が失われる事態は絶対に回避しなければならない。
そのために、わたしたち市民が心掛けなければならないことは、実はとてもシンプル、そして難しいことではない。

新型コロナウイルスに第一線で向き合う医師や専門家が「新型コロナウイルスと闘う日本の医療従事者と医療を守ろう」と題した署名を始めている。署名の宛先は「日本に住むすべての市民」。新型コロナウイルスの感染が首都圏などを中心に急増する中、さらなる対策や心がけを強く訴えかけている。

ぜひチェックしてみてください。

**「新型コロナウイルス感染症に関する専門家有志の会」
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今村顕史 がん・感染症センター 都立駒込病院感染症科 部長
大曲貴夫 国立国際医療研究センター 国際感染症センター長
岡部信彦 川崎市健康安全研究所 所長
小坂 健 東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野 教授
尾身 茂 独立行政法人地域医療機能推進機構 理事長
押谷 仁 東北大学大学院医学系研究科微生物分野 教授
釜萢 敏 公益社団法人日本医師会 常任理事
河岡義裕 東京大学医科学研究所 感染症国際研究センター長
川名明彦 防衛医科大学内科学講座(感染症・呼吸器)教授
賀来満夫 東北医科薬科大学医学部特任教授
鈴木 基 国立感染症研究所 感染症疫学センター長
田中幹人 早稲田大学政治経済学術院 准教授
舘田一博 東邦大学微生物・感染症学講座 教授
中島一敏 大東文化大学スポーツ・健康科学部健康科学科 教授
中山ひとみ 霞ヶ関総合法律事務所 弁護士
西浦 博 北海道大学大学院医学研究院衛生学教室 教授
武藤香織 東京大学医科学研究所公共政策研究分野 教授
吉田正樹 東京慈恵会医科大学感染症制御科 教授
脇田隆字 国立感染症研究所所長
和田耕治 国際医療福祉大学大学院公衆衛生学教授

佐々木 淳

医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長 1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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