東京都内・外出自粛の夜 歌舞伎町・ゴールデン街は静まり返っていた 外国人がいなくなって図らずも露呈した新宿飲み屋街の現実

週末なのに静まり返るゴールデン街。

首都圏に移動自粛要請の発表された翌日、3月27日に新宿ゴールデン街を歩いた。

そこには「あれは夢だったんだろうか?」と思えるような光景があった。

2019年ラグビーワールドカップ開催時には、路地がラッシュアワーの電車内のように人で溢れた新宿ゴールデン街。ほんの1ヶ月前まで多くの外国人観光客が押し寄せ、観光名所として賑わっていた酒場に外国人の姿はほとんどなかった。

それも仕方ない。この数週間の間に世界各国で海外渡航の規制が発表されたからだ。新宿ゴールデン街は欧米、オーストラリアからの旅行者が多く、それらの人々が来日できなくなれば、観光客は一気に減る。また首都圏知事による移動自粛要請のアナウンスも効いたのか、日本人の歩く姿もほとんどない。

「今日のお客さん、あんたで二人目だよ、普通なら花見シーズンでかきいれ時なのに」

日頃は客ですし詰めの鉄板焼き店のマスターは苦笑した。

「こんなこと今までなかったよ。3・11(東日本大震災)の時だってお客さんは来たんだから。先週までは外国人も飲みに来てたんだけどね」

通りには客の姿より、店主、従業員の姿のほうが目立つ。あまりにヒマなので外の様子をチェックしているのだ。店主どうしが顔を合わせ、苦笑しあう姿も。

実は新宿ゴールデン街では、ラグビーワールドカップの開催中に外国人観光客によるトラブルが多発し、店主たちで作る商業組合内で外国人観光客を何らかの形で規制できないかと問題提起があった。一部には外国人を立入り禁止にするべきとする強硬な意見もあったという。そうした外国人排斥派の理想が期せずして実現してしまったのが今のゴールデン街の姿だ。

別のバーの店主はこぼす。

「トラブルを起こす外国人観光客はいたらいたで困るけど、これだけ閑散とされてもねぇ、あまりに極端すぎて……」

客の外国人率が圧倒的に高いノーチャージのショットバーは深刻だ。

「カウンター7席だけの店に、1日50人ぐらいお客さんが来たこともあったけど、ここ数日は1日5人とか10人とか。うちはドリンクの値段を安くしてるから、これじゃやっていけないね」

そんな中にも奇跡的に外国人客の姿もあった。ロンドンから来たというカップルは明日には帰国する。「日本旅行から帰って入国できるの?」と聞くと「大丈夫。なんとかなる」と笑っていたが本当に大丈夫なのか。

そのあとドッと押し寄せた外国人グループは「京都で仕事してるんですよ」と流暢な日本語で言った。つまり観光客ではなく、すぐに帰国もしない。大声でカンパーイと盛り上がったあと握手を求められた。歳も若いからなのか、危機感はないようだ。

「もともとウチは外国人のお客さんが少ないのであまり影響はありません」

というのは建物の2階にあるバーのママ。通りに面していない階上店や飛び込みの客を入れない会員制の店はもともと外国人客が少ない。日本人の常連がいるから観光客に頼る必要がないのだ。しかし週末は終電時刻が過ぎても盛り上がる店が、この夜は早々と客の姿がなくなった。

ゴールデン街の店の多くは狭くて換気が良くなく、満席になると客が密集、しかも酔ってワイワイ語り合う。小池百合子都知事が会見でアピールした密閉・密集・密接の「3密」をそのまま具体化したような場所だ。

「だからといって都とか区から営業自粛を、と言われたことはない」

と店主たちは口をそろえる。「外出自粛」が叫ばれても、店を休業するかどうかは決めかねている。

ある店の常連客はこう言って笑った。

「そもそも俺たちは今までずっと『超3密』の中で飲んでて、しかも外国人客と仲良くなることも多かったから、感染するならとっくにしてる。今さらどうしようか考えても仕方ないでしょ」

閑散とするゴールデン街をあとにして終電で帰路につくと年度末のせいか電車はラッシュアワー時に近い混雑。酔って大声で会話する人々も。こうした通勤電車の混雑を改善できないのに、酒場の問題点だけを指摘しても仕方ない。

なにより先日の国会で安倍晋三首相が昭江夫人の花見問題について質問され「レストランで会食は問題ない」と答弁している。街に飲みに出るのは咎めないというのが国の見解なのだろう。

「外出自粛」を求める国や自治体の方向性はこれからも続くだろう。ロックダウン(都市封鎖)もこのままでは現実となる可能性が高い。その時新宿ゴールデン街はどうなるのか。コロナウイルス問題が終息する頃には、街の様相がかなり変わっているかもしれない。(文・写真◎藤木TDC)

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