トヨタNTT連合の、GAFA対抗という誤解

先日、トヨタが進めるスマートシティ構想であるWovenCityについて、NTTとトヨタが提携するという発表があった。

その際、発表の後の質疑応答時間において、GAFAへの対抗について質問があり、その回答に関してミスリードされそうな情報が拡散されている。実際、NTT澤田氏は、「業務提携はコアであり排他的ではない」と明言している。「モビリティやスマートシティに対してGAFAも力を入れているが、そこに対抗したいという思いがあるか」という記者の質問に対して、NTT澤田氏は、「自分たちが作るものを幅広く世界で使ってほしいというベースで、GAFA対抗という思いがある。」と回答している。また、トヨタ豊田氏は、「グローバル企業の2社が手を組み、オープンマインドでやることで、日本もなかなかやるなという評価をうけるような対抗はウエルカム。そこには人が中心で、データの使い方は、使う方が幸せになる方法を考える、そこにはいろんな価値観があると思われる。GAFAも使う方にも幸せになる使い方をしてくれるならよい。」とした。つまり、名言はしなかったが、特に豊田氏は、「事業として対抗していきたい」という考えというより、「スマートシティは、個人の活動データを取得することになる。そのデータは個人のものであり、それを使って事業を進める事業者の利益のために使われるべきではない。」という、いわゆるGDRP(EU一般データ保護規則)の考えに沿った考え方を表明しているに過ぎないというのが私の解釈だ。

WovenCityで考えられる個人情報の取得

まだ細かなことは何ら発表がないWovenCityだが、一般的なスマートシティの考え方を引用すると、

  • 移動に関するデータ
  • 防犯に関するデータ
  • 決済に関するデータ
  • 行政に関するデータ
  • エネルギーに関するデータ
  • 災害に関するデータ
  • 教育に関するデータ

といったデータが考えられる。

これらの要素を分解していくと、生活者の行動をトレースする必要があることに気づく。例えば、「移動」。A地点からB地点までX氏が移動したという情報は生活者の行動情報だ。また、X氏がYという住所に住んでいるとして、そこに自動運転のクルマが物資を輸送するとした場合、この情報も生活者の情報を取得する必要がある。物資の中身がなにか、ということにも、スマートシティの中で流通業までをサポートするとなると、データは一定公開されることとなる。防犯を進めるためには、カメラでの画像取得が必要となるので、何時何分に誰がどこにいたか、という情報が取得されるようになる。これを「管理社会」ととらえるのか、「防犯のため」ととらえるのかは紙一重であり、議論が分かれるポイントでもある。そこで、どこまで取得したデータを、運営会社のメリットとして利用するのか、という点が問題になるのだ。

データの時代にあるべきガバナンスの姿

IoTの導入が進む中、デジタルツインを構成することで、現実社会をシミュレーションすることができる。そして、その結果未来を先回りして様々なサービスを提供することができる。これは、生活者にとってもメリットのあることだ。あらゆる現実世界の行動を取得し、データ化することができるようになった昨今だからこそ、この考え方が「DX」と呼ばれ、急速に広がろうとしている。この流れは一定あらがえないとしたときに、そのデータ管理会社は、どういったガバナンスでそのデータを流通させるべきなのか、が重要になる。これをコントロールするためのルールは今のところ存在しないし、まさに世界中の人が意見を出し合っていく必要がでてくる。スマートシティのアーキテクチャを考える人は、ガバナンスの在り方を思くとらえることが必須なのだ。そして、こういったガバナンスに従わない人が自由にいられる環境も必要になりそうだ。WovenCityが提示する、生活者データの取得と、活用の在り方について、具体的にどういうガバナンスが提示され、実装されるのか、テクノロジー以前に、我々はそこに注視すべきなのだ。

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