お母さん、寝てていいよ 日々の積み重ねを家族と共有 【連載】大空といつまでも 医療的ケア児と家族の物語<9>

大空君が座ったバギーを車の後部ドアから降ろす雄一さんと光都子さん=昨年8月20日、諫早市永昌東町の県立こども医療福祉センター

 18トリソミーの出口大空(おおぞら)君は1階リビングのベッドで寝て、母親の光都子(みつこ)さんは毎晩添い寝をする。大空君が薬の副作用で昼夜逆転して深夜に寝つかない時は、光都子さんもうつらうつらしながら起きている。朝方にようやく大空君と一緒に眠ることができても、そのまま起き上がれないことも。そんな時は夫と娘2人が何も言わずに朝食の準備をしてくれる。
 昨年春、高校生になった長女の心実(ここみ)さんは弁当が必要になった。光都子さんより早く起きて自分で料理を作り、弁当箱に詰めている。「『お母さん寝てていいよ』と思ってくれているのかな」と光都子さん。心実さんに尋ねると「自分が食べたいものを持っていきたいから」と照れ笑いを浮かべた。
 光都子さんは大空君を身ごもる前から、娘2人にできる家事は任せてきた。夕食の準備や後片付け、風呂掃除、洗濯物たたみ、飼い犬の散歩。心実さんと中学2年の心晴(こはる)さんは話し合って分担。今では大空君を2人でお風呂に入れたり、おむつを替えたり。たんの吸引もできるし、人工呼吸器のモニターの数値も理解している。「日々の積み重ねがきっと生きる力になる」と信じていたが、心実さんの弁当作りのように既に生かされていると感じている。
 一方、2人の授業参観や入学・卒業式は大空君の訪問看護の時間帯と重なり、出席できなかったり途中退席したりしたこともあった。「ごめんね」と謝ると、2人は「いいよ」と言ってくれるが、本当は来てほしいのだろうなと申し訳ない気持ちになる。
 夫の雄一さんは、月1回の長崎大学病院受診など大空君の外出時には、できるだけ有休を取るようにしている。大空君をバギー(子ども用車いす)に乗せ、人工呼吸器、酸素ボンベ、吸引器などの大荷物を抱えて出掛けるのは、光都子さん1人では大変という理由だけではない。「できるだけ多くの時間を大空と一緒に過ごしたい」
 光都子さんの友人でフリーカメラマンの坂本肖美(あゆみ)さんは折に触れ、出口さん家族の写真を撮ってきた。「大空君を中心に家族がそれぞれの役割を果たし、家族がより一層家族になっている」と言う。
 大空君は今も時々入院し、光都子さんは付き添いで家を空けるが、夫と娘2人は不自由しないのか。3人は顔を見合わせ「いや、特に」と笑う。一瞬きょとんとした光都子さんからも笑みがこぼれる。隣のベッドでは大空君が気持ち良さそうに眠っている。

【次回に続く】
※この連載は随時更新します。

 


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