弱冠31歳でレッドブルF1代表に。ライバルチームをも明確に分析する冷静さが光る/F1レース関係者紹介(1)

 F1には、シリーズを運営するオーガナイザーを始め、チーム代表、エンジニア、メカニック、デザイナー、そしてドライバーと、膨大な数のスタッフが携わっている。この企画では、そのなかからドライバー以外の役職に就くスタッフを取り上げていく。

 第1回目となる今回取り上げるのは、アストンマーティン・レッドブル・レーシングのチーム代表を務めるクリスチャン・ホーナー。レース中の貧乏ゆすりを国際映像に捉えられることでも知られているが、改めて彼の経歴、そしてファンを大切にしていることを感じられるエピソードを紹介する。

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 レース後に行われる会見で、いつも名解説を披露する。「なぜ、あそこでピットインしたのか?」、「あのペナルティは妥当か?」という記者からのさまざまな質問にも、常に明確で正確な回答を示すという意味では、10人いるチーム代表の中でもホーナーの右に出る者はほかにいないのではないかと思う。

 しかも、ホーナーはそれを自分のチームのレースだけでなく、自分のチームと直接ポジションを争っているわけではないライバルチームのレースでも分析してしまう。いわゆる、レース全体を俯瞰して見ることができる、稀な人物だ。

 これは、ホーナーがほかの多くのチーム代表と最も違う才能であり、それによって彼が歩んできたキャリアにも大きな影響を与えてきたと言っていいだろう。

弱冠31歳という若さでレッドブルF1のチーム代表に抜擢されたホーナー

 1973年にイングランドのレミントン・スパーで生まれたホーナーは、高校卒業後に大学へ進学せずに本格的にレースの道へ進む。1994年にイギリスF3選手権に参戦し、1997年には現在のF2選手権の前身となる国際F3000を戦っていた。

 このとき、ホーナーは「良い成績を残すには、ドライビング技術だけではなく、良いチームに入るための資金が必要だ」ということを痛感。自らのチーム「アーデン・インターナショナル」を興してレースに出場した。

 オーナー兼ドライバーとなったホーナーは、ここで自分のドライバーとしての才能を、オーナー目線で冷静に分析。果たして「自分の実力ではトップレベルになれない」ことを自覚するのだった。25歳の若さで現役を引退したホーナーは、その後はチーム運営に集中。2004年には国際F3000でコンストラクターズタイトルを獲得するまでチームを成長させることに成功した。

 このとき、メインスポンサーだったのがレッドブルで、そのレッドブルが2005年からF1へ参戦することが決まると、国際F3000での手腕が買われて、弱冠31歳という若さでF1のチーム代表に抜擢された。

■F1参戦から6年で二冠。早すぎる成功が反感を買うことも

 レースは武器を使わない戦争だと言われる。したがって、行き当たりばったりでは勝てない。戦況を大局的に見る力が必要となるのだが、ホーナーはまさにその能力に長けた人物だった。彼が最初に打った一手は、マクラーレンから天才デザイナーと言われるエイドリアン・ニューウェイを引き抜くことだった。そして、F1参戦から6年目でドライバーズ選手権とコンストラクターズ選手権の二冠を達成した。

 しかし、その早すぎる成功によって、ほかの多くのチーム代表から嫌われることになる。特にニューウェイを引き抜かれたマクラーレンの元チーム代表のロン・デニスとは犬猿の仲だった。また、前F1の会長兼CEOだったバーニー・エクレストンから可愛がれていたことも、ほかのチーム代表からが疎まれる原因となった。

 しかし、ホーナーの頭の中にはこのF1村で仲良く暮らすことよりも、勝つことしかなく、そのために必要とあらば、長年パートナーとして一緒に戦ってきたルノーを切って、ホンダと手を握ることもためらうことはなかった。

 レッドブルがホンダと組んだ2019年には、こんなことがあった。ホーナーはレース後、常に会見を開くわけではない。レース結果があまり芳しくないときやレース後のスケジュールによっては囲みを行わないときもある。しかし、こちらにも都合というものがある。むしろ、レース結果があまり芳しくないときのほうが、逆に原稿を書く上でもっと情報がほしい。2019年はモナコGP、カナダGP、フランスGPがそうだった。

 そこでパドックで待ち伏せし、ダメ元でホーナーを突撃。そんな筆者にホーナーはいつもやさしく、個別対応してくれた。それは彼が筆者にやさしくしているのではなく、ホンダとの関係を大切にし、ひいては日本のファンを大切にしているからだと筆者は思っている。まさにプロフェッショナル。

 そんなホーナーの鳥瞰図には、レッドブル・ホンダの未来はどのように描かれているのだろうか。

写真中央に立つホーナー。ホンダF1の山本雅史MDや八郷隆弘社長、ヘルムート・マルコらとの1ショット

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