「コロナ相場」で中長期を見据える投資家に必要なコト

新型コロナウイルスの世界的な広がりを受けて、グローバル株式市場が乱高下に見舞われています。他の市場が拠りどころとする米国市場でも混乱が続き、3月16日のNYダウは前日比2,997ドル安と過去最大の下げ幅を記録しました。欧州でも主要な株価指数が軒並み大幅下落となり、世界中で強大なマグニチュードを伴う株安が進行しています。

新型コロナウイルスという見えない敵と戦う各国は、感染拡大を阻止するための対策を強化するとともに、景気悪化を回避すべく必要な金融緩和措置や企業向け支援策などの財政支出を講じています。当面ウイルスの広がりには予断を許さないものの、各国が対応策を積極化している点を踏まえれば、現在の危機はいずれ乗り越えられると考えます。


株価急落のピンチは「チャンス」

パニック的な反応が先行する場面では、テクニカル指標や各種の投資指標から示唆される下値のメドはほとんど機能していないのが実情です。短期的な価格変動リスクを完全にシャットアウトするのであれば、株式市場からはいったん距離を置くのが賢明な判断といえるかもしれません。

しかし、中長期的な時間軸のもとで投資のパフォーマンスを高めることが目的なら、まれに見る株価急落のピンチは、将来に向けたチャンスと発想を逆転させることも可能でしょう。そのような観点からすると、一般的に株価の大底のタイミングをとらえるのは困難です。ピンポイントで安値での買いにこだわるあまり、エントリーの時機を逃すことは避けたいところです。

歴史的に見ても足元の株価バリュエーション(株式価値評価)が、十分に割安であることに疑いの余地はありません。中長期を見据える投資家は、今まさに冷静な投資判断が問われている状況といえるでしょう。

しばらくの間、株式は不安定な値動きが継続する可能性もありますが、ブレのない成長が見込まれる投資対象にリスクを負担できるかどうかが、将来的な投資の成否を左右することになりそうです。

米国株は2度の緊急利下げもインパクトは限定的

3月に入って米国内で新型コロナウイルスの感染が拡大すると、米国市場で瞬く間に株安が広がりました。当初はアジアから地理的に離れた米国への影響は軽微と見られていましたが、感染がパンデミックに発展したことで、相場の波乱が米国市場にも遅れてやってきたイメージです。

3月3日、米FRBは感染拡大に伴う景気下振れリスクに対応する狙いで0.5%の緊急利下げを実施しました。さらに3月15日には2度目の緊急利下げによって追加で1.0%の利下げに踏み切っています。

それと同時に7,000億ドルの資産買取も発表し(その後、買入金額を事実上、無制限に拡大)、金融政策面では可能な限りの対策に打って出たイメージです。

ただ、それまでに市場金利が先行して低下し、金融緩和を十分に織り込んでいたことから、そのインパクトは限定的なものにとどまりました。これ以上の株安進行を看過できない米国政府は、金融政策以外の有効な対策を求める市場の期待に応えるべく、2兆ドル規模の景気刺激策を実行に移そうとしています。

目先の一時的な米景気の落ち込みは避けられないとしても、企業の資金繰りや個人の生活を支援する対策は景気の安定化に一定の効果を発揮すると見られます。事態の沈静化後には、これらの政策が米景気の建て直しを強力にバックアップすると期待されます。

<写真:ロイター/アフロ>

見通し悪化が軽微なセクターは?

大幅な株価調整を経て、米国のバリュエーション(予想PERなど)は大きく切り下がりました。新型肺炎の騒動前にS&P500の予想PERは19倍を超えていましたが、直近では一時13倍を下回りました。

米中貿易摩擦の激化に揺れた2019年4月~9月に、S&P500の予想PERのレンジが、16~17倍にあったことを考えると、足元の水準はそのレンジを割り込み、割高感は大きく後退したように思えます。

また、直近の安値時点で計算したS&P500ベースのPBRは2.5倍まで低下しました。これは2016年の米大統領選時の水準を下回るものであり、2017年以降の「トランプ相場」で積み上げてきたプレミアムをすべて吐き出したかたちとなっています。

業績見通しに対する不透明感がくすぶる投資環境ではあるものの、現在の株価水準なら、米国株の打診買いを検討する価値は高まっていると考えます。

その際の物色対象として候補に挙げられるのは、やはり中長期の成長性に揺るぎのないセクター・銘柄です。この2ヵ月半の間に市場では米企業業績の下方修正が続きました。新型コロナウイルス拡大による世界的な景気減速の影響をまともに受けそうなセクター(エネルギー、資本財、一般消費財、素材など)は、見通しが大きく切り下げられました。

そうした中で、IT(情報技術)セクターの見通し悪化は相対的には軽微にとどまっています。まずは、こうした優良セクター・銘柄の押し目買いが正当化されそうです。

感染症流行の中心になった欧州

新型ウイルスの感染拡大は、アジア地域で落ち着きを見せる一方で、欧米地域での流行が目立ちます。イタリアやスペイン、ドイツ、フランス、英国と欧州全域に広がりを見せる感染拡大の脅威が、株式市場にも暗い影を落としているのが実情です。

英中銀やECBが積極的な金融緩和策を打ち出すものの、投資家の不安心理を押さえ込むには至っていません。欧州には感染症の伝播がやや遅れてやってきたため、事態の沈静化にはまだ時間がかかりそうですが、この間の企業活動の停滞をどこまで各国政府が手当てできるかが、その後の株価の戻りを左右することになるでしょう。

また、需要創出につながるような景気対策を打ち出せるか否かでも、欧州域内での株価パフォーマンスは明暗が分かれそうです。いずれにしても、当面の欧州株に対しては静観することが賢明と考えています。

感染拡大が終息に向かいつつある中国

今回の新型肺炎の発生源とされる中国では、すでに感染拡大が終息に向かいつつあるように見えます。大方の予想通り、2月分の中国の経済指標は大幅な悪化が明らかになりましたが、市場ではそれをことさら悲観視する雰囲気はありません。

中国経済は1〜3月期に続いて4〜6月期もマイナス成長となる可能性が指摘されています。それでも株価が比較的安定を保っているのは、なりふり構わぬ政策の総動員が株価を下支えし、押し上げるとの期待が高まっているためでしょう。

政策への過度な依存には要注意ですが、半ばトップダウンで政策を実行に移せるのは中国の強みでもあります。新型コロナウイルス禍で欧米の景気下振れが逆風として吹くなか、中国の内需回復がどこまで進むかが相場のカギを握ると見ています。

日本株のリーマンショック並みの割安感

新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、日本でも自粛ムードが広がり、それにともなって株価は大幅な調整を強いられました。2月末に2万1,000円台にあった日経平均株価は、わずか半月で1万6,000円台まで下落しました。

国際協調的に日銀が追加の金融緩和策を導入したことなどで、相場はやや切り返しましたが、依然としてボラティリティの高い相場展開が続いています。問題の本質が感染症という点にある以上、その終息の兆しが見えてこない限りは、市場に平静さは戻らないと見るべきでしょう。

さまざまな投資指標から判断して、日本株が売られすぎであることは十分に確認できますが、このような環境下ではバリュエーションがあまり機能しない点には注意が必要です。ただ、それでも市場参加者が認識しているバリュエーションの水準がどの程度なのかを知っておくことも重要です。

何かと市場の話題として取り上げられることが多いPBR(株価純資産倍率)は、TOPIXベースの数値が直近で一時0.9倍を下回りました。株価が企業の解散価値を下回るPBR1倍割れは、最近ではあまり見られなかった光景であり、株価は「リーマンショック級」に売り込まれたと表現できます。

こうした状況は、予想PERで見ても同様であり、現状11~12倍にある予想PERは、リーマンショック以降ではほとんど経験していない領域です。さらに、配当と比較した株価の水準感について見ると、TOPIXベースの予想配当利回りは足元で3%程度まで上昇しています。

世界の感染拡大の状況次第では、株価の下振れもあり得ますが、小康状態が保たれるようなら、日本株の底割れは回避されると予想しています。

<文:投資情報部 チーフ・グローバル・ストラテジスト 壁谷洋和>

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