“平成の大エース”斎藤氏が確信する菅野智之の復活 「責任を受け入れる力がある」

通算180勝を誇り“平成の大エース”と言われた斎藤雅樹氏【写真:荒川祐史】

新型コロナで開幕が大幅延期も、巨人にとっては「いい時間」

 世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの影響で、NPBの今季開幕は大幅に延期されることになった。選手は2月1日のキャンプインから開幕に向けて状態を仕上げてきたが、一旦休止。新たな開幕日が決まり次第、そこに向けて調整を始めることになる。開幕日が延期されたのは、東日本大震災が起きた2011年以来のこと。当時、巨人の1軍投手コーチを務めていた斎藤雅樹氏は「この時間をどう使うかですよね」と話す。

「開幕投手だったり野手だったり、当然3月20日に合わせてやってきて、ずっと高めてきた気持ちが抜けちゃう感じもあると思います。でも、今は次の開幕まで1か月近くあるから、少しリラックスしていいんじゃないですか。当然、調子のいいチームや選手はそのまま行きたかったでしょうけど、逆に故障があったり調子がイマイチだった選手にとっては、むちゃくちゃいい時間ですよ。そう思った方がいい。戦力が整っていないチームにとっても、いい時間になります」

 2011年の時も、選手やチームに「いい時間にしよう」と語りかけたという斎藤氏。今回の開幕延期で生まれた時間は、古巣・巨人にとって「いい時間」になるだろうと考えている。

「オープン戦とはいえ、なかなか上手くいかない状況が続いていたわけだし、いいんじゃない?(笑) ピッチャーも、特にサンチェスは日本のボールやマウンドにアジャストする時間が増えたわけだから、非常にいいと思いますよ。高橋(優貴)にしても故障しているわけだから、それが間に合えばジャイアンツにとってはいいことです」

 今季、巨人の先発ローテはエース菅野智之、サンチェス、それに戸郷翔征、桜井俊貴、田口麗斗らが続くと見られるが、3番手以降は不確定だ。だが、春先に先発ローテが安定しないのは「どこでも一緒」と斎藤氏は話す。

「今年の菅野はいいと思います。あとは2本柱というところでサンチェス。オープン戦ではいまいちだったのが、少しずつ良くなってますね。ただ、もう少し長いイニングを投げるところが見たい。3番手は戸郷だ、田口だと言われてるけど、この辺は年間を通して固定するよりも、3番手以降は戸郷、田口、高橋、桜井、メルセデス、そのあたりで状態のいい人を上手く当てはめていく方がいいんじゃないかと思います。去年も結局はそうだったじゃないですか。原(辰徳)監督が上手く若い投手を起用していく方法が、僕はカギだと思っているんですよ」

菅野が持つエースの資質とは…「プレッシャーや責任を受け入れる力がある」

 昨季は腰を痛めて思うような活躍ができなかった菅野だが、斎藤氏は「今年に掛ける思いは強い」と予測する。その理由とは、昨季のリーグ優勝にあるという。

「多分、菅野にとって去年の優勝はめちゃくちゃ面白くなかったと思いますよ。エースとして、やっぱり自分が活躍して優勝できるのが一番いいわけだから。ただ、腰やコンディションが悪ければ、いくら菅野でも無理です。野球はそんなに甘くない。とは言っても11勝してますよ。それでも、菅野の中では自分が働かないで優勝したというのは非常に……まぁ、僕だったら嫌ですね。自分がいなくても大丈夫ってことになるから。だからこそ、菅野が今年に掛ける思いは強いと思いますね」

 巨人のエースとしての責任感もまた、菅野を駆り立てる理由の1つかもしれない。現役時代に2年連続20勝、沢村賞3度を達成し、“平成の大エース”と呼ばれた斎藤氏は、“巨人のエース”という看板の重さについてこう語る。

「かなり重いでしょうね。でも、僕の時は槙原(寛己)さんと桑田(真澄)と3人いたから、1人にかかる重さは減ったけど(笑)。でも、上原(浩治)にしても菅野にしても、1人エースは大変ですよ。菅野は去年悪くても11勝したけれど、年間を通して働けなかった、投球回数(136回1/3)が多くなかったのは屈辱だったと思います。だから、そういう意味でも『今年は』という思いは強いはず。ああやってフォームを変えたのも、いろいろ勉強をしてのことでしょうし、その辺は大変だと思います。

 でも、彼はそういうプレッシャーや責任を受け入れる力がある。自分で考える力があるし、自主トレにも若手を率先して連れていく行動力もあるし、そういうものは染みついている感じはありますね。『原家』の遺伝子かな(笑)。どこに行っても主役になる環境で育っているから、彼はできると思います。僕は先輩(槙原氏)と後輩(桑田氏)の間で、次男坊的なポジションだったので思い詰めることもなかった(笑)。でも、菅野は1人エースでも重荷と感じずに、自分でちゃんと消化できると思いますね」

 菅野は期待に応えられる選手だと思うか、と問われると、満面の笑みを浮かべながら「もちろん!」と答えた斎藤氏。“平成の大エース”は“現エース”が奮闘する姿を温かく見守っている。(佐藤直子 / Naoko Sato)

© 株式会社Creative2