『デッド・ドント・ダイ』 オフビート感あふれるゾンビ映画

(C)Abbot Genser / Focus Features (C)2019 Image Eleven Productions Inc.

 傑作『パターソン』から3年。主演のアダム・ドライバーを再び起用したジャームッシュの新作は、ゾンビ映画だ。『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』というバンパイア映画も手掛けているだけにホラー系のジャンル映画を撮ることに違和感はなく、むしろオフビート感あふれるコメディー仕立てというのが、いかにも彼らしい。

 北極での工事で地軸がズレるという人災が原因で死者が次々とよみがえり、田舎町はパニックに…。ジャームッシュによると、スマホ画面に見入って歩く現代人を「まるでゾンビのよう」と感じたことが企画の出発点だったそうで、ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』が大量消費社会への警鐘だったように、このジャンルの風刺精神をしっかりと継承している。

 その上、地中から手が飛び出す本作のポスターは『キャリー』や『死霊のはらわた』を思い出させ、ドライバーに『スター・ウォーズ』のキーホルダーを持たせたり、日本刀やコーヒーはセルフ・パロディーだったり…とゾンビやホラー映画に限らない過去作の引用にあふれている。つまり本作は、コメディーというよりパロディー映画なのだ。

 それにしても、同種のゾンビ・パロディー映画は数あれど、ジャームッシュの手に掛かるとアート感が漂うのはどうして? 恐らく作家性の問題ではなく、どこにカメラを置くかに始まるアングルや構図が支える、画面の強度によるところが大きいだろう。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:ジム・ジャームッシュ

出演:ビル・マーレイ、アダム・ドライバー

近日公開

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