中国第六世代の監督といえば、まずはジャ・ジャンクーやロウ・イエの名前が浮かぶ。都会的なタッチで現代中国が抱える問題に鋭く切り込む作風がこの世代の特徴だが、本作の監督で『ルアンの歌』『北京の自転車』などのワン・シャオシュアイも忘れてはならない。
昨年のベルリン国際映画祭で男優賞と女優賞をW受賞した本作は、1980年代から現在までの目まぐるしく変化する中国を背景に、ある夫婦の30年間を描いた大河ドラマだ。息子を事故で亡くした彼らは、“一人っ子政策”に翻弄され、親しい友人たちや故郷までも失うことになる。それでもこの映画には、社会派という枠組みには到底収まらない普遍性がある。しかもそれは、過去と現在を対比させながら描く独特の時制操作によって、感情を揺さぶる劇的な物語へと昇華されている。
一方で、ワン・シャオシュアイの演出自体は、むしろ第五世代や台湾のホウ・シャオシェンを消化してきた印象で、真新しさやオリジナリティーは感じられないものの、その分、研ぎ澄まされた安定感が作品全体に一種の風格を漂わせる。寄り画と引き画は、これ以上あり得ないというタイミングで絶妙に切り替わり、重要な場面で必ず吹く風や料理の湯気、葬儀の花火などが、劇的な物語に乾いたリアリズムをもたらす。壮大にして映画的な高揚感に満ちた夫婦の叙事詩だ。★★★★★(外山真也)
監督:ワン・シャオシュアイ
出演:ワン・ジンチュン、ヨン・メイ
4月3日(金)から全国順次公開