盲目ライターの旅日記!知られざる『清水寺』のバリアフリールートを大公開【京都】

京都の『清水寺』には、「車椅子境内参拝マップ」なるものが存在します。ただし、そこは1000本の手を持ち、“全ての人の思いを受け入れること”をモットーとする御本尊、『千手観音菩薩』の精神を可視化した世界。決して障害者や高齢者のためだけの特別なルートではありません。人によっては、“裏ルート”と呼ばれたりもしますが、それは、誰もが通っているのに、その優しさや魅力に気付いていないだけの道です。

清水寺の「車椅子境内参拝ルート」とは?

世界遺産の碑

年間500万人以上の人が訪れるという清水寺は、1994年(平成6年)12月、「古都京都の文化財」としてUNESCOの世界遺産に認定されています。つまり、京都の宝、日本の宝の域を超え、世界の宝なのです。一目見たいと、地球上に住む誰もが思うのは当然です。

しかし、山手にあるため、その勾配のきつさ、階段の多さは半端有りません。高齢者や障害者にはまさしく、名実ともに少々高き場所の名刹という印象は否めないでしょう。

ですが、清水寺は2011年(平成23年)1月、国土交通省の『バリアフリー化推進功労者表彰』を受けています。山の中腹にある以上、境内の傾斜は避けられませんが、舗装されたスロープで要所要所を繋ぐ事で、車椅子でも一周出来る「車椅子境内参拝ルート」が確立されているのです。

そのルートを記した「車椅子境内参拝マップ」は、HPからダウンロード可能。また、有料エリアへのゲートとなる『轟門(とどろきもん)』でももらえます。因みに、障害者手帳を提示すると、本人プラス、介助者1名は拝観無料となります。詳しくは、清水寺の公式ホームページをご参照ください。

清水寺の車椅子参拝ルートは千手観音の精神を映し出す道

さてさて、このマップを見るとよく分かるのですが、清水寺のバリアフリールートは、『奥の院』周辺の「南苑」と、『成就院(じょうじゅいん)』周辺の「北苑」を結ぶいわゆる外周道路を主軸に整備したものとなっています。道中には『仁王門』も『音羽の滝(おとわのたき)』も含まれ、お守りの授与所や茶店も点在しているではありませんか!!

つまり、裏ルートどころか、主には昔からあるメイン順路で、誰もが歩いていた道を整備しただけなのです。特に音羽の滝と仁王門の間は、清水寺を訪れる大半の参拝者が通ります。ただ、障害者や高齢者と歩かないと、その快適さや優しさを感じる事が難しいのではないでしょうか!?

しかし、元々バリアフリーの世界だからこそ、快適で、何の違和感も感じないのかも知れません。そう、バリアフリーやユニバーサルデザインは、全ての人に恩恵を齎せます。それは、まさしく千手観音様の精神そのものなのです。

私が好きな清水寺への道

五条坂入口

私が好きな清水寺への参道は、「東山五条」の交差点の北東、斜めに緩やかな坂道が上る地点から始まります。この坂は『五条坂(ごじょうざか)』。京都市内を通る幹線道路の一つ「五条通」の東端部分となっています。

とは言え、表参道となる賑やかな「清水坂(きよみずざか)」とは異なり、おしゃれな雑貨店やペンションより、パーキングやドラッグストアなどが目立ちがち。さらに、車で清水寺に行くには、ここを通るしかないという事で、繁忙期には大型バスがズラリと行列を作ります。門前町としての風情もなにもあったものではありません。

ただ、歩行者の流れは比較的安定していて、案外歩きやすいというメリットを持っています。私がいつもここから入るのは、それが一番の理由です。

五条坂は大人の隠れ家的参道

清水坂と茶わん坂の分岐点

五条坂に入ると、突き当たりに分岐点が見えます。ここで右の道をチョイスするのがわたしのおすすめ。ただ、多くの観光客は左の道を選択されます。何故なら、メインストリートの清水坂だからです。お陰で、右ルートは一気に人が減り、開放感に包まれます。京都通を感じる至福の瞬間です。

茶わん坂入口

右の道に入ると、突き当たりが清水寺です。という事で、この道が、大正時代に茶わん坂と名付けられた坂で、常に混雑している清水坂を一歩も歩かずに清水寺の玄関口となる仁王門まで到達出来るちょっとした隠れ家的ルート。焼き物の店や和装小物の店など、古都の伝統芸術を楽しめる店舗が静かに並ぶ大人の参道です。そして、坂道の終点が、清水寺の「茶わん坂ゲート」になります。

茶わん坂から仁王門へ

茶わん坂口ゲート

茶わん坂に面した清水寺の入口には、門はありません。その代わりのように、中央に車止めが設置されています。とは言え、歩行者は脇の通路から自由に出入り出来ます。勿論、不法侵入でとがめられる心配はご無用。ここもまた、れっきとした清水寺の参道の一つです。

いざ、清水寺の境内へ!

という事で、遠慮なくゲートを入ると、右側に車道を兼ねたスロープ、左側に階段があります。当然、バリアフリーに徹底的に拘るのであれば、スロープを選択するべきでしょう。しかしながら、見ると結構な急勾配! それに対し、階段の方はきちんと整備されていて、駅のホームと同じくらいの段差&傾斜です。ステップ感覚も安定しているので、自力歩行が可能な方なら、こちらの方が楽かも知れません。安全に、確実にのぼれるのではないかと思います。

因みに、この階段はY字状で、途中から南北二手に分かれています。そして、それぞれの頂点を結ぶように通っているのが音羽の滝から仁王門へ向かう外周道です。茶わん坂との標高差は、ビルの1〜2階といったところでしょうか!? なので、それほど長い階段ではありません。

茶わん坂ゲートからの車道

ゆえに、一直線のスロープにすると、相当な急勾配になってしまいます。そこで、右に大きく回り込むように斜面が設置されている訳ですが、それでも勾配は相当なもので、自転車は押して上がらなければならないほどです。距離的にも、階段の方が断然お得です。

まずは一休みもありでしょう

茶わん坂入口前の階段を左、北側に進むと、僅かながら仁王門への近道になります。でも、ここはあえて右、南方向へ上るのが私のおすすめ。何故なら、この辺で一休みもありだからです。

という事で、南行き階段を上りきって直進すると、右手奥に茶店が見えます。そして、そこに隣接しているのは公衆トイレ。バスを降りて約1km、急な坂道や階段を上り終えたところにこのコンビが待ち構えていてくれるのは、何だかほっこりするじゃないですか。少なくとも、トイレだけは是非使わせていただきましょう。

実はこのトイレ、「はんなりトイレ」という立派な呼称まで付けられていて、京都市ご自慢のトイレ。“はんなり”とは、落ち着いた上品さを持ちながらも華やかさや明るさを兼ね備えているという京言葉で、まさにその名に相応しいおもてなしトイレです。昔は有料でしたが、今は無料になりました。

東棟と西棟に分割されていて、参道から見て奥になる西が一般の男女別トイレ、手前となる東が多機能トイレとなっています。どちらも外観と内装は和のデザインですが、設備は洋風で、以前の有料時代に負けず劣らずの快適さ、清潔さ、使い勝手の良さを誇っています。

しかも、清水寺の境内には、参拝もたけなわという奥の院から音羽の滝に向かう途中に綺麗なトイレが設置されていて、勿論、多機能トイレ完備です。そのため、出口を通り過ぎた場所にあるこのトイレは、殆どの観光客がスルーします。お陰で、繁忙期でも比較的空いている穴場トイレです。

さらに、トイレの前の道をほんの少しばかり西に行くと、そこは京都市内が一望出来る隠れ絶景スポット。特に夕陽は最高で、独り占め出来る事も珍しくありません。清水坂からスタートする一般的な参拝ルートでも、最後に広がる「十一重石層塔(じゅういちじゅうせきそうとう)」の建つ広場を左に大回りする事で通れますので、あっさり通過しちゃわないように要注意ですよ。

ここが天下の分かれ道

前述の茶屋とトイレは、清水寺の西南端に位置します。よって、用を足し、絶景を堪能したらバック。再び外周道に戻り、左折します。そして、100mほど道なりに歩くと右に見えて来るのが仁王門です。

下から見た仁王門

ここまでは、ほぼ平坦な幅広舗装道路で、車椅子でも快適に進めます。しかし、問題はこの先。仁王門までは20段ほどの石段が延びています。きちんと整備された階段で、決して歩きにくくはありません。とは言え、仁王門を潜ったところもまた階段があり、車椅子では上れないのが現実です。

仁王門前広場

そこで、清水寺では完全スロープの参道を整備しています。ちょうど仁王門前の石段下が分岐点で、車椅子マークが目印。先のルートだと、道なりに自然に入れます。この道なら、段差らしき段差は1ヶ所もありませんから、視覚障害者や足腰の弱いお年寄りでも歩きやすいでしょう。

しかしながら、元々この道は、奥に建つ清水寺の塔頭『成就院(じょうじゅいん)』への参道です。よって、誰でも自由に通れます。という事で、ここはまさしく天下分け目の分岐点! 右に進むか、左に進むかで、旅の厚みが大きく変わって来るのです。

車椅子マークの道を歩いてみれば・・・

清水寺の仁王門下には、石段を上がって門を潜るオーソドックスなルートと、車椅子マークの付いた坂道ルートがあります。後者は基本的に、石段の上り下りが難しい障害者や高齢者のための迂回道と捉えていいでしょう。ですが、過去に何度か清水寺に来た事はあるものの、まだ侵入した事がないとおっしゃる方は是非、左に進んでみられる事をお勧めします。きっと、今まで見た事のない風景が楽しめるはずですよ。

どうぶつの森発見!!

宝性院

仁王門下から車椅子マークの坂道を上り始めると、左手前方に現れるのが『宝性院(ほうしょういん)』。清水寺の塔頭の一つで、こじんまりとした小さなお寺です。

宝性院

しかし、東側の庭は、まるでどうぶつの森のような楽しい世界観を持っています。ネコさんに、リスさんに、ウサギさん、奥に立っているのはカワウソ君です。昔はネズミもいたと聞いたような気がするのですが、もし、それが本当なら、きっとトムとジェリーのように大騒ぎだった事でしょう。どうやら、これ、みんな陶器のようですが、清水焼かどうかは分かりません。ただ、とっても可愛らしくて癒やされます。

思わぬお宝に出会えるかも知れない石仏群

千体石仏群

さらに坂道を上って行くと、今度は右側に『千体石仏群(せんたいせきぶつぐん)』が現れます。本当に1000体もの石仏があるとは思えませんが、数百人の仏様がいらっしゃるのは確かで、よ~く探してみると、思わぬ歴史を持つ仏像に出会えるかも知れません。というのも、実はこちら、廃仏毀釈が施行された明治時代以前に京都市内各所に安置されていた石仏の集合体なのです。

という事で、ここは、お地蔵様を中心に、阿弥陀如来に釈迦如来、大日如来もいらっしゃれば、観音菩薩もいらっしゃる仏像ワールドです。なんでも、鎌倉時代に彫られた石仏や五百羅漢様も紛れ込んでいるかも知れない宝の山なんだとか・・・。

そして、ここを過ぎると、この迂回路も間もなくゴールです。突き当たりはT字路になっていて、右に行くと清水寺の拝観受付に到達します。

清水寺のバリアフリー状況

仁王門北側になる車椅子マークの道を通れば、今まで目の当たりにした事のない清水寺の北苑部分を見られます。また、道中、右上を見上げると、仁王門や三重塔がそびえ、進むにつれて、その角度がどんどん変わって行くではありませんか!! これって、当たり前ですが、案外面白かったりします。一度は歩いて欲しい参道です。

清水寺の車椅子ルートは本当に車椅子ユーザーに最適なの?

実際問題として、先の道は本当に車椅子ユーザーに最適なのかと言えば、“ちょっと微妙!!”というのが私の個人的見解です。

心臓破りの坂

というのも、確かに階段を1段も上らずに拝観受付手前にたどり着けるのですが、いかんせ、仁王門の下からは延々上り坂です。しかも、ゴール直前にはとどめを刺すように、清水寺一とも言われる急勾配が待ち構えています。この心臓破りの坂は、距離的には僅かなので、自力歩行が可能な方なら何とかなるというものですが、車椅子だと、ご本人も介助者も大変です。そこに、茶わん坂に面した入口のスロープを加味すると、私たち視覚障害者のように、段差が怖いだけというものには有難いバリアフリールートですが・・・、車椅子ユーザーには、どうしても積極的におすすめ出来ない部分があります。

事実、清水寺としても、車椅子の方と参拝される場合は、五条坂から入り、この外周道路のゴールまで車で上がられる事を推奨しています。実はこの道、清水寺の「防災道路」にもなっていて、緊急車両の通行が十分可能なだけの道幅が確保されているのです。車椅子の方と参拝される方は、車を無料で駐車させていただく事も出来ますよ。

清水寺の車両乗り入れルート

インターフォン

車で境内中心部まで上がる場合も、入口は先と同じ、茶わん坂の突き当たりのゲートになります。ただし、車は脇の通路を通れないので、清水寺の事務所に声を掛け、車止めを下ろしてもらう必要があります。事務所へは、右の路肩に取り付けられているインターフォンで連絡出来るようになっています。

茶わん坂口ゲートからの車道

ゲートを入ったら、右手のスロープから外周道路の先、十一重石層塔の建つ広場に出て、石塔の前を左折。道なりに仁王門前に向かいます。

降車場

そこからは、車椅子ルートを通る形で走り、心臓破りの坂を登り切ると「降車場」の表示があります。ちょうど多目的トイレの前です。

成就院前の池

ただし、駐車スペースは、手前のT字路の右側、成就院前の池の周辺になります。ですので、障害者の方を下ろしたら、一旦戻る必要があります。勿論、先に車を置くという手もあるにはありますが、これだと、最後の最後に待ち構えている心臓破りの坂を車椅子を押して登らなければならないので危険です。面倒でも、一旦拝観受付手前まで車で上がり、同乗者を下ろしてから引き返すのが賢明でしょう。

清水寺のトイレ事情

障害者にとって、参道と同じくらい気になるのが『トイレ』です。という事で、次はトイレをチェック。

清水寺境内には3ヶ所のトイレがあり、全てにオストミー対応の多目的トイレが設置されています。そのうちの1つが、先だってご紹介した京都市が管理するはんなりトイレです。あとの2つは清水寺が管理するものですが、市営に負けず劣らずの綺麗さと快適さを誇っています。特に多目的トイレについては、一歩先を行っていると言っても過言ではないでしょう。

というのも、清水寺管理の2つの多目的トイレには、観光地としては恐ろしく珍しい『FUNレスト(ファンレスト)テーブルなるものが導入されています。FUNレストテーブルとは、「前傾姿勢支持テーブル型手すり」と呼ばれる介護器具の一つで、便器の前に設置する大判で頑丈なテーブルです。普段は壁に張り付くように折りたたまれていますが、車椅子の人が用を足すときに引っ張り出すと、そこに身体を預け、容易に便座に腰を下ろす事が出来ます。つまり、抱きかかえるだけの力のない人でも、1人でトイレ介助が出来るのです。

トイレ

さらに、こちらのトイレは、便器のすぐ脇、排水ボタンの下に手洗い用の蛇口が設置されていて、洗面台まで移動する必要がありません。これはまさしく痒いところに手が届く気配り。手を洗う場所を探さなくていいので、私たち視覚障害者にも嬉しいです。この2つのシステムがあれば、たとえ車椅子ユーザーであっても、ある程度手足の自由の利く人なら、単身でトイレに入る事も可能でしょう。

この気配りトイレは、拝観受付の手前、車で乗り入れた際の降車場のすぐ横と、奥の院から音羽の滝へ向かう途中に設置されています。前者は到着してすぐ、後者は帰路につく前にお世話になるのにちょうどいい場所です。ただ、前者の方が、独立棟になっていて、出入り口付近が広場ですから、若干使い勝手がいいだろうと思います。

後者は、『子安の塔(こやすのとう)』の先、音羽の滝の手前で、場所的には分かりやすいです。ただ、こちらは一般のトイレ舎の奥にあり、表から多目的トイレの入口までは若干の距離があります。その通路がやや下りのやや狭め。点字ブロックが設置されていたりもするので、車椅子ではちょっと入りにくいかもという気はします。ですが、これは立地上いたしかたのないところで、自力歩行可能な方なら、十分使い勝手のいいトイレです。

因みに、先のはんなりトイレには、FUNレストテーブルは導入されていません。

障害者には厳しい部分もあれば、優しい部分もあります

ここまでご紹介したように、清水寺は、参道といい、トイレといい、国内でも有数のバリアフリー先進古刹です。恐らく、自力歩行が可能な方なら、障害者や高齢者であっても、ぐるりと一周し、全ての公開スポットを見る事は可能でしょう。しかしながら、世界遺産であり、多くの建造物が重要文化財となっている関係上、勝手気ままに増改築出来ないところが沢山あります。そのため、車椅子での見学となると、どうしても制限される部分は否めません。

車椅子では清水の舞台には上がれない、音羽の滝の水は飲めない

本堂は「上段の間」・「中断の間」・「下段の間」と3段階になっていて、下段の間がかの有名な『清水の舞台』です。また、最も近くで御本尊を拝むには、上段の間に上がる必要があります。

ところが、中断の間には入口からスロープが架かっているものの、上段の間と下段の間にはステップしかありません。さらに、上段と中断の間の間、中断と下段の間の間には、かなり大きな段差があります。しかし、この間を行き来するためのスロープもないため、事実上、車椅子では中断の間しか移動出来ないのです。残念ながら、舞台にも出られない事になります。

音羽の滝

また、パワースポットとして人気の『音羽の滝』も、肝心要の水くみ場の出入り口は階段で、車椅子では入れません。

車椅子でも清水の舞台に上がれる、音羽の滝の水祈願も出来る

奥の院からの風景

前述の通り、車椅子で清水寺本堂の舞台に上がる事は困難です。ですが、本堂の舞台と同等の絶景が広がる奥の院の舞台には上がれます。こちらは本堂の舞台のミニチュア版で、同じように崖にせり出す懸造り(かけづくり)。その迫力は文句なしです。さらに、ここからだと、清水の舞台を盛り込んだ風景も見られますので、十二分に満足出来ます。実は何を隠そう、絵はがきなどでよく目にする清水の舞台からの風景の多くは、この奥の院から撮影したものなのです。

ふれ愛観音

また、奥の院には33体の仏像が奉られているのですが、それとは別に、礼堂の上がり口に高さ60cmほどの小さな観音様がいらっしゃいます。この観音様は、私たち視覚障害者のためにおられる仏様。『ふれ愛観音』といい、自由に触っていい事になっています。こういうのを見付けると、俄然、嬉しくなります。パワーもしっかりもらえそうです。

濡れ手観音

そして、もうひと方、奥の院の裏側には『濡れ手観音(ぬれてかんのん)』という小さな観音様もいらっしゃるのですが、なんと、その脇には湧き水が湧き出ているではありませんか!! 実はここ、音羽の滝の真上に位置し、この水は、音羽の滝と同等の御利益を持つ「金色水(こんじきすい)」です。しかも、この観音様は、自分に変わって水垢離をして下さる奇特な仏様。いわゆる「水かけ観音」で、横に置かれている柄杓で水を汲み、観音様の肩にかけると、煩悩や過去の悪事が洗い流され、所願成就が出来ると言われています。

こうなると、間違いなく、音羽の滝に負けず劣らずのパワースポットです。にも拘わらず、足を向ける人は殆どいません。ですので、音羽の滝の代わりに、水パワーをいただくには絶好の場所です。お堂の裏という事で、少々狭いですが、大きな段差もなく、車椅子でも十分入れます。

延命水

とは言われても、“延命水”と称される音羽の滝の水。何とか飲みたい、何としても飲みたいとおっしゃる方は少なくない事でしょう。でも、大丈夫! 実は、音羽の滝の水は、滝の前のお守りの授与所で市販されているのです。商品名は『音羽霊水』。360ml瓶で500円と少々お高めですが、たっぷり飲めます。

因みに、音羽の滝を過ぎると、順路が二手に分かれます。一応、左が車椅子ルートのようです。ただ、右の道も、少々クッションが悪いだけで前面舗装。傾斜も大差ありません。なので、こちらを選ぶ事で、本堂の舞台を増したから見る事が出来ます。

そうして、再び十一重石層塔の前を曲がり、仁王門下に出られるというのが、清水寺のバリアフリー参詣道です。ここまで来れば、あとは先の車椅子マークの道を通り、直接車に乗り込む事が出来ます。心臓破りの坂を上る必要はありません。

障害者や高齢者が快適に参拝するために

清水寺では、千手観音様のモットーである全ての人を受け入れるため最大限の努力をしています。ただ、私たち参拝者が協力しない限り、その思いは実現しません。1人でも多くの障害者が快適に参詣するには、障害者自身の節度が必要不可欠なのです。

歩ける人は歩いて入る! どうしても歩けない人は車で入る!!

清水寺境内への車両での乗り入れは、障害があるからと言って、誰でも彼でもが、いつでもかしこでもokという訳ではありません。あくまでも、車椅子ユーザーが同乗しているときのみです。それも、本当に自力歩行が困難という方と一緒のときのみ。駐車場代わりに利用する魂胆で、おじいちゃんやおばあちゃんを俄車椅子ユーザーに仕立てるなど、もってのほかです。

さらに、境内まで車で入りたい場合は、事前に連絡する必要があります。原則、『要相談』です。

何しろ、清水寺自体に駐車場はありません。そのため、前述のように、成就院の門前に路駐させていただく形になります。一応私有地なので、駐車違反にはなりませんが、限られたスペース。次から次へと利用者が押し寄せると、あっという間に一杯になってしまいます。どうしても、ある程度台数をセーブしなければならないのです。

そして、必要以上に長時間の駐車をしない事もマナーです。確かに、1回60分以内なんていう時間制限は一切設けていません。極端な話、開門直後から閉門寸前まで置いておいても0円です。周囲は見どころ満載のエリア。買い物や飲食も存分に楽しみたいところでしょう。

ですが、前述の通り、境内の駐車スペースは限られています。そこで、まず、タクシーについては、下車後、境外で待機し、参拝が終わったら再び迎えに来てもらう事を条件としています。

さらに、マイカーやレンタカーについては、事前連絡を参考に受け入れを調整される訳ですが、みんながみんな終日止めっぱなしにすれば、意味がなくなってしまいます。なので、境内の見学が終わったら、速やかに出るのがお約束です。

一人旅はいただけません

今回ご紹介した五条坂から茶わん坂を通り、清水寺境内のバリアフリールートを辿れば、たとえ車椅子でも、1人で参拝出来そうな気はします。恐らく、電動車椅子ならやって出来なくはないでしょう。

ですが、やはり傾斜のきつい部分もありますし、砂利道もあれば、石畳もあります。特に奥の院から音羽の滝に向かう途中には、ヘアピンカーブがあり、右折した瞬間、一気に急な下り坂になります。降車場手前の心臓破りの坂に負けず劣らずの勾配で、しかも、こちらは少々長めです。車椅子の自走は非常に危険かと思われます。

ですので、あえてここは介助者は必要だと言い切らせていただきたいと思います。それも、理想は、足腰と腕っ節の強そうな健常者2名以上。そうすれば、本堂の舞台にも出られます。

また、不安な方は、奥の院で引き返すのも利口な手です。拝観受付から奥の院までは一部、小さな段差、砂利道、石畳等がありますが、基本的にバリアフリーとなっています。とにかく、本人も介助者も、絶対に無茶をしない、無理をしない、それも大切なお約束です。

中国障害者団記念碑

清水寺では2009年(平成21年)8月27日、団長以下、100名を超える団員全員が何らかの身体障害を持つという中国の芸術団「中国障害者芸術団」による十一面千手千眼観世音菩薩への舞踊奉納が行われました。日中交流の架け橋となり、さらに、障害者と健常者との架け橋となったこの講演は、多くの人に感動を与え、改めて、障害があっても出来る事は沢山ある。自分たちの生き方一つで輝かしい人生を送れるのだという事を、私たち障害者自信が悟る事の出来る素晴らしいものでした。仁王門を潜った先、西門と鐘楼の間の石段中腹には、この講演の記念碑が建てられています。

現実問題として、医療機関や福祉施設でも、全ての障害者や高齢者にパーフェクトなバリアフリーを提供する事など不可能です。ですから、それを一般社会に求める事は、我々障害者のエゴというもの。

当然、清水寺にも受け入れ体勢の限界はあります。ただ、そんな中でも、今回ご紹介したように、制限部分をフォローする部分が多数あって、頭が下がりました。やっぱ千手観音様の精神はすごい!! あとは、それを上手に生かし、障害者と介助者がともに楽しめる旅をいかに演出するか? それが私たちの腕の見せ所です。中国の芸術団が披露したように、自分たちなりの加齢な清水寺紀行を演出してみようではありませんか!!

清水寺

住所:東山区清水1丁目294

電話番号:075-551-1234

HP:https://www.kiyomizudera.or.jp

[All Photos by 森川治]

© 株式会社オンエア