緩やかに、確実に 成長実感 名前に込めた優しさと覚悟 【連載】大空といつまでも 医療的ケア児と家族の物語<10>

大空君と一緒にリハビリに取り組む光都子さん。左は理学療法士の毎熊さん=諫早市、県立こども医療福祉センター

 昨年8月20日。諫早市の県立こども医療福祉センターの理学療法室。
 「久しぶり、おーちゃん。元気しとった?」
 理学療法士の毎熊美佳さんがあおむけの出口大空(おおぞら)君に語り掛けながら、足をマッサージする。大空君は両手を合わせて人さし指を立て、忍者が印を結ぶようなしぐさをする。
 「ニンニン。絶好調のポーズだね」と母親の光都子(みつこ)さん。このしぐさは大空君の成長の証だ。光都子さんは以前から自宅で体をもみほぐしてあげており、大空君がにこっと笑うと「もう1回する?」と人さし指を立てて尋ねていた。最初、大空君の手の指は「グー」の形に閉じていたが少しずつ開いてきて、いつからか機嫌が良いと「ニンニン」とするようになった。
 この日、毎熊さんはあおむけの大空君の腹部を左手で軽く押さえ、右手で首の後ろを抱えながら上体を起こした。「お母さん、前より座らせやすくなったよ」。光都子さんが毎熊さんと代わると、大空君は両手を床について自ら体を支えようとする。「やったぜ、俺。すごいね」と毎熊さん。立位台に体を固定して斜めの姿勢ながら立つ訓練もできるようになった。そばで見守っていた父親の雄一さんも目を細めた。
 発達は緩やかだが、確実に成長している。ペースト食を何日も何日も食べさせようとして初めて口をもぐっとさせた時。寝返りを打つように体をひねることができた時。わずかな変化にも家族は喜びを感じる。昨年秋には県立こども医療福祉センターでプールを初体験。長崎くんちにもデイサービスの職員と一緒に出かけた。お旅所で光都子さんと一緒におさい銭を投げ、出店のかき氷も口にした。七五三も和装で神社を参拝し、家族にまた一つ思い出ができた。
 光都子さんに大空君の名前の由来を尋ねたことがある。まだおなかにいた大空君が18トリソミーと分かり健康に生んであげられないと涙に暮れていた時、体の中から「思い」が伝わってきた。「お母(かあ)、自分を責めないで」。「なんて広い心を持った子なの。大空のように広い心を」。もう一つ意味がある。「この子は家族の誰よりも早くこの世を去るかもしれない。でも、どこにいても見上げれば大空は広がっている。天から家族を見守っていてほしい」。
 大空君がいつどうなるか分からないという不安。夫や娘たちもいつか別れが訪れるとの覚悟はある。でも今はもっと成長できると信じたい。目の前にいる「大空」とかけがえのない日々を刻んでいきたい。

【次回に続く】
※この連載は随時更新します。

 


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